あたたかさのおわり
初めて書いたので変な部分があるかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです◠ ̫ ◠
人間が滅びた後の世界で、「ケモノ」と呼ばれる存在がこの星に産まれた。
そのケモノたちは本来穏やかに暮らしていた。争いを好まず、互いに寄り添いながら生きる彼らの住処は、楽園と呼んでも差し支えないほど静かで優しい世界だった。
——少なくとも、“あの日”までは。
ある時から、ケモノたちの間に異質な存在が紛れ込むようになる。
それは後に、「バケモノ」と呼ばれた。
ケモノによく似た姿で笑い、言葉を交わし、群れに溶け込みながら、静かに彼らを捕食する化け物。誰が本物で、誰が偽物なのか。その境界が壊れた日から、楽園はゆっくりと崩れ始めた。
そんな世界で、まだ幼いカイコのケモノ、“しい”はその日、家族にいつものように可愛がられて兄弟達と遊んでいた。
バンッ。
この暖かい日常が壊れたのは、このドアが開く音からだった。父親が「何事だ」とドアに向かって、ぐしゃりと湿った音が響いた。
それからドアの方から鉄のような匂いがして静かになった。
「…あなた?」
母親が震える声でドアの方を見る。が、返事は無い。
代わりに、ぬるりとした何かを引きずる音だけがゆっくり近づいてきた。
「隠れて、ほら…早く隠れて。」
一番上の子がまだ歩けるかも怪しいしいを抱き上げ兄弟達に押し入れに入らせたり浴槽に隠れさせたりした。
しいは少し前まで使っていた、暖かい真っ白なゆりかごに隠された。
「しい…おにいちゃんがいいよって言うまで、絶対出ちゃだめだよ。」
しーっ、と口を横に開いて口の前に人差し指を出した。一番上だからなにか理解していたのか、目は潤んでいた。
───これが最後に見た、兄の姿だった。
兄はゆりかごにかかっていた毛布を優しく上からかけ、自身もすぐにどこかへ向かった。
「ぎゃ。」
すぐに至る所から悲鳴が聞こえた。家族達の聞いたこともない変な声。
家族の声が聞こえなくなって、何かを飲み込むような音だけになって何時間経ったか。
不意に毛布が剥がれた。
「…まだいたんだ。」
クリオネのような半透明な体のケモノだった。でも、その半透明な体が不自然なほど赤に染まっていた。
「ねぇ、きみちいさいね。なまえは?」
「し、しい…」
「しい。ぼく、るの。」
そのクリオネのケモノはるのと言った。
「…かわいいね。」
ぽつりと呟かれた言葉。でも、しいはそんなことより後ろの見たこともないほど血に染った家が目に入った。産まれて初めて見た血だった。
「…あれ、これしいのかぞく?」
床は血で水溜まりのようになってその周りに白かったはずの毛が大量に落ちていた。ドアの端で足が中途半端に噛みちぎられ、そこから骨が覗いているのも見えてしまった。
「ごめんね、あのこはたべきれなかったの。おなかいっぱいで。」
るのは悪びれもせず、自分の口元を袖で拭った。
その瞬間だった。
口の端が、裂けるみたいに大きく開いた。綺麗な半透明な花のように。クリオネが獲物を捕まえる時みたいに。
しいがはじめて見た、バケモノだった。
「でも、おいしかったよ。」
すぐに口を戻し、るのは笑う。
「でも、しいはたべない。」
るのはしゃがみこんで、しいと目を合わせる。
赤と青の混ざった不思議な瞳が細められた。
「だって、しい、すごくかわいいから。」
るのに抱き上げられたまま、しいは動けなかった。
怖かった。
家族を食べたのは、このバケモノだ。
さっき見た大きく裂けた口も、赤い床も、鼻に残る鉄の匂いも、全部怖かった。
「ねぇ、しい。これからずっとまもってあげようか。」
「...まもる...?」
「ほかのバケモノからまもってあげる。でも...」
るのは、しいを抱き直した。
半透明の体は冷たいはずなのに、不思議と暖かかった。赤と青の混ざった瞳が細められる。
「これからずっといっしょだよ。」




