21.一旦落着ですね
遅くなってすいません、インフルってきついですね
「人間に戻れないってどういうことですか?!」
師匠の言葉にいち早く反応したのはボックさんだった。
「言葉通りよ、エリちゃんの体は既に狼族へと完全に変化している。これを人間の体に戻すことは私にもできない。」
「でも時間をかければ治せる可能性はあるんですよね」
「このままにしておけば彼女は間違いなく死ぬし、治療を施した後は魔石の魔力も定着するから人間に戻すことは難しくなるだろうね」
「そんな……!」
「今からエリちゃんにする事は二つの混ざらずにいる魔力をさらに大きな魔力で飲み込み無理やりひとつにするということ、そうすればもう人間の体に戻ることは無い」
亜人は稀少ゆえに人間社会で生きていくのは難しい、生まれから魔力が高い性質上人攫いにあい、奴隷として売られたり魔術師の実験に使われたりする。
それ以外にも子供同士仲間はずれにされたりもあるだろう。
それをわかっていて師匠も聞いているのだろう。
「人間社会では亜人は生きずらい、それは分かっているだろう?それでもここでエリちゃんを助けるのかい」
ダグマさんはじっと黙ったまま俯いている、ここからではどんな顔をしているのか分からないが、きっと悩んでいるんだろう。
「さぁ、どうするんだい?悩む時間もないよ」
誰もその質問に答えることが出来ない
治療をすれば生きることは出来るがこの先今までと同じようには生きていけず、治療をしなければ死んでしまう。
「治療さえすればエリは助かるのか?」
ダグマさんが下を向きながら師匠に聞く
「確実とは言えないが助かる可能性は大きいだろうね」
「そうか、なら問題ない。エリを助けてくれ」
「いいのかい?これからのエリの人生彼女にとっては厳しく辛くなるかもしれないよ」
「いいんだ、だいたいこれからの人生どうなるかなんて亜人じゃなくても同じだよ」
そう言って師匠の方を真っ直ぐと見るギルドマスターの顔には先程のような悲壮感はなくなっていた。
「そんな簡単なことじゃないんだぞ!亜人は寿命も今回は姿さえ人間とは違う!エリちゃん自身今回のことで性格も何もかも変わってしまうかもしれない」
ボックさんがギルドマスターに向かって叫ぶ
「おいボック、あまり人間を舐めるなよ。エリが何者になろうと何族になろうと俺の娘だ。それだけは何があっても変わらない」
「ダグマ……」
「もしこれから世間がエリをキツい目で見るなら俺とが守る。友達ができず楽しくない日が続くかもしれねぇ、その時は俺がたくさん色んなところに連れてってやるし誰かに狙われたら俺が守る」
「いいんだね」
師匠が小さく確認をする
「当たり前だ、なんなら嬉しいくらいだ。さっきまでは死んでく娘に何も出来ねぇと思っていたんだがこれからはしてやれることが沢山あるらしい。親冥利につきるぜ」
「人よりもはるかに長い年月を生きることにもなるよ、君たちとは比べ物にならないくらい」
「そん時はボックがいる、俺たちが居なくなってもこいつがいるならエリは大丈夫だ。そうだろ?」
ギルドマスターは簡単な事だろとボックさんに言う
「は、ははは、そうですね。そうでした。これからが大変なら僕たちが守ればいい。そもそも僕はエリちゃんのような子達が差別なく生きていけるようここで本屋を始めたのでした」
「決まりだね、コハク次はあんたの番だ。エリの歳を考えたら内から与える魔力はコハクの方が質が近い」
そう言って師匠は俺にナイフを渡してくれたので先程の師匠と同じように手首を切ると血が垂れる
「血を与えながらエリの中で魔力がひとつになるイメージをするんだよ」
俺はそれに対しこくりと頷きエリの口元に手首を持っていき魔力を与える
血を通してエリの中にあった異なる二つの魔力が混ざり合うのを感じる
お願いだ、上手くいってくれ!
エリの体が光り出す、ボックさんの時よりも強い光が体を包み込み目を開けていられなくなると直ぐに光は収まりパッと見は何も変わらないエリがそこにはいた。しかしわかる、先程まで歪な形であったふたつの魔力が混じり合い一つとなって安定している。
「成功だね」
師匠が息を一つはくとエリから離れる。俺も離れ手首の傷を治す。こういう傷がスっと治る魔法とこの体は便利だと思う。
「助かったのか?俺の娘はもう大丈夫なのか?」
「そうだね、また容態が悪くなる可能性はあるが今のところは魔力も安定しているからひとまずは大丈夫だと思うよ」
ギルドマスターはその言葉を聞くと俺とし笑の方を向き頭を下げる
「そうか、ありがとう。本当にありがとう、この恩どう返せばいいか分からねぇ」
ギルドマスターの足元にぽつりぽつりと雫が落ち地面を濡らす。
「気にしなくていいです。エリが助かって良かったです」
「そうだねぇ、お礼がしたいと言うのなら冒険者ギルドでちょいと便宜を計ってもらえれば」
「ちょっと師匠」
こういう時そういうこと言うのはちょっと違う気がするが師匠は別に気にしないらしい
「いいんだよ、礼がしたいならさせればいいだろ?」
「はは、俺に出来ることならいくらでも協力するさ」
その時ボックさんも立ち上がりこちらに来て同様に頭を下げてくる
「僕からも今回のことどうお礼を言えばいいか分かりませんが僕自身のことも含め本当にありがとうございます」
ボックさんは片腕がなくなり少し歩きづらそうにしている。俺が無くなった片腕の方を見ているのに気づくと
「片方ないのは不便ですが本屋をやるだけなら支障はありませんので、気にしないでください。家事なんかは両腕あっても出来てませんでしたからね」
そうなんでもない風に言う。きっと俺が気にしないよう言ってくれてるのだ、自分が大変な時に優しい人だ。
「そうそう、こいつは両腕あっても飯のひとつも作れねぇからうちの女房が作ってんだ、気にすんな」
気を使ってくれてるんだよな?ギルドマスターからもそんな辛辣な言葉を早々にかけられてる姿を見て少し気にしたが命に別状ないだけ本人たちには問題ないのだろう。
ボックさんも先程よりだいぶ顔色も良くなってきた
「さて、早くエリを連れて帰ってうちにいる女房も安心させてやりてぇんだが他の子供たちもいるとなればそうもいかねぇか」
「そうですね、騒ぎもあったしすぐに衛兵達も来るので説明をしたりしなきゃいけませんからね」
この後も色々報告したりしないといけないらしい、そりゃこれだけの事件解決しました、はい終了とはならないだろう。むしろギルドマスターなんて役職上これからが大変なんだろう。
「じゃあ、私たちは帰っていいかい?ちなみに魔人ってことは秘密だよ。言ったらこの街滅ぼすからね」
そんな軽い感じでする約束ではないだろ
ギルドマスターとボックさんも慌てて頷いている
「って、ちょっと待ってくれ!」
「なにさ、言わなきゃいいだけだ簡単な話でしょ」
「いやいやそこじゃなくて、もう少し残ってて欲しいんだ。奥にいる子供たちも無事か見てほしい」
そうか、奥の子供たちも変身はしてないとはいえ体の中の魔力が歪になっている可能性は確かにある、それに師匠も納得したのかすぐに奥の子供たちの所へ向かう。
「コハクは残ってな、疲れてるだろう。変身していないなら恐らく大丈夫だ。私一人で何とかなる。」
そう言って師匠は奥の子供たちのいる庭へとギルドマスターと一緒に向かっていった。
広間に残されたボックさんと俺と変わらず眠り続けているエリだけがこの部屋に残された。
エリは呼吸も安定しすやすやと眠っている、呑気なものだ。こんな硬い石畳でよくこんな寝れるな。
エリの寝顔を見ているとボックさんから再度お礼を言われる。
「コハクくん、本当にありがとう。エリちゃんを助けてくれてそしてその男を捕らえてくれて本当になんと礼を言えばいいのやら」
「いえ、エリが助かったのはボックさんの頑張りもあってですよ。それにその腕大丈夫なんですか?」
「腕はなんともないです。ツクヨさんは凄いですね、腕の痛みがもうまるでない、不便にはなるでしょうが冒険者では無いのでそこまで支障はありませんよ」
そう言って痛みがないことを証明するようにパンパンともう片方の手で切れた肩を叩く
「それにしてもコハクくんとてもお強いですね、その歳でその強さ魔人ってのも納得の強さです」
「ボックさんもエルフだったなんて気づきませんでした。」
どうやらボックさんはエルフだった。師匠は一目で気づいていたらしいが耳は魔術で隠していたそうだ。確かに師匠がそんな感じのことボヤいてたのを思い出した。
「私は自分がエルフという事で人間社会では少なくないきつい経験をしましたから、それをエリちゃんにさせるのはとも思いましたが、ダグマさんには敵いませんね」
なるほど、経験談もあってあんなに必死で人間に戻る可能性を探していたのか
そんなこんなしているうちに衛兵や冒険者数名を引連れたギルドスタッフ達がやってく来たので俺は未だ気絶しているウルバを引き渡し師匠たちが向かった方向を教える。ギルドスタッフが来たことでボックさんもエリを抱え一緒に奥の庭に向かうらしい。
「おや、コハクくんは一緒に奥に行かないのですか?」
そう言われたが俺は別でやりたいことがあったので師匠に夜道を散歩してくると伝言を頼み教会を出て夜道を走る。
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