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――ああ、ゆうべは楽しかった。やはり、千蔵さまは最高の殿方だわ。
映画のパンフレットを胸に抱き、百合亜は満足気な様子で目覚めた。
「お嬢様。ゆうべは随分遅うございましたね。千蔵さまと?」
上機嫌で食事を採っている百合亜に、十祈は明るい声で尋ねた。
「ええ。とっても楽しい逢引きだったわ。連れて行っていただいた映画も最高だったし」
「映画ですか。それはどういった――」
「帝都屈指の緋魔割組という団体の鉄砲玉の方が、お勤めを終えられたところから、お話がスタートするの……信頼していたお兄様がお迎えに来られることはなく、実はそれが敵対する須箕糲組へ寝返られた彼のお兄様……いえ、血のつながりはなく、盃を交わした間柄ということなのだけど、彼が豚箱へ放り込まれることになったのは、そのお兄様の差し金だということが分かり、復讐を果たすという爽快なストーリーだったの」
「まあ、そのような……大衆映画とはいえ、世を知るよい機会になりましたわね。わたくし、高尚なものばかりでなく、色々なものに触れて過ごされることもお嬢様のためになると思っておりますわ」
楽しそうに話す百合亜の様子に、十祈は顔をほころばせた。
「鉄砲玉の方――銀の字さんとおっしゃるんだけど、実は伝説のドスの使い手でいらっしゃって、とっても立ち回りが勇ましくていらしたの。敵対している須箕糲組との激しい抗争も描かれていて……手に汗握る展開だったわ。最後の、『天地がひっくり返っても『任』と『侠』の文字はひっくり返らねえ』という台詞を決めるシーンが本当に素敵で――もう、わたし、思わず拍手喝采しそうになったわ」
それから映画の内容や、楽しく食事をする様子などを聞かされた十祈は「素晴らしいご縁ですわ。間違いありませんわね」と微笑んだのだった。




