38
「ジョセフ、最初チケットのタイトルを見たときは何かの冗談かと思った」
翌日、ジョセフの店を尋ねるや否や、不機嫌というよりはやや困惑したような表情で、レオンが言った。
「冗談なんかじゃねえよ。デートはうまくいったろ?」
「――一見したところでは、ああいうものが好みだとは判断できなかった……『調査』した上で選んでくれた、ということになるのか?」
「いや、なんとなく……俺のド鋭い勘の成果っつ~のかな。でも結果、俺が選んだチケットで正解だったろ? 何をそんな浮かない顔してんだよ」
「……いや、常識的に……ああいう発想には至らなかったからな」
どこか納得いっていないような表情のレオンに、ジョセフは「ポルノ映画のチケットってわけじゃあるまいし、非常識みたいに言われてもな」と苦笑混じりに返した。
「ぽ、ポル……⁉」
顔を赤らめながら、レオンは後ずさった。
「ああいっそ、そういうののほうが良かったか? 盛り上がってそのまま――って」
「バカを言うなっ! そんなものを忍ばせていたら、絶交していた」
「ムキになるなよ、マジで冗談通ねえなあ」
ジョセフはハタキで彼の頭を叩きながら、呆れたようにため息を吐いた。
「しかし、しっかりと調査もせずに選んだにしては、随分……意外性があったというか」
「おまえよりは俺に『人を見る目』が備わってるってこったろ?」
「だとしても……」
「そんなことより、デートの最中に仕事をこなしたってのは本当か?」
これ以上喋っていては、個人的に百合亜に接したことがバレてしまうと、ジョセフは話題を変えた。
レオンはさらに渋い表情になる。
「――成功したとはいえないがな」
「どういうこった?」
「……死体が上がってない。逃げられた可能性がある。おかげでタダ働きだ」
「おまえさんらしくねえな」
「仕方ないだろう。逢引の最中に仕事をさせる方に問題がある」
「……にしてもさ」
ジョセフはハタキを振り回しながら、天井を見上げた。
――お嬢を優先した結果、ってことなんだろうな。それがなけりゃ、とことんまで追跡してただろ。
「ま、今後はしっかりやるこったな」
「言われなくても分かっている」
レオンの表情は冴えないながらも、デートの様子に満足していることは伝わってきて、ジョセフはふっと笑った。




