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「――やっぱりそうか。催淫剤の成分がゴッソリ。幻覚剤も入ってる」
薄暗い地下室――
本棚とデスク、何らかの薬品が並んでいる。
手元だけが煌々と明るい机の上、シャーレに採った粉状のものを眺めつつ、白衣を羽織ったマチルダが眉を顰めた。
「そんなあっぶねーモンを千蔵くんに渡したってことか?」
「まあ、一度や二度服用したくらいじゃ、どうにかなるほどの毒性はないね。だけど、日常的に使ってたら廃人にでもなりかねない」
「華族相手にもヤバいクスリを渡すんだな」
「まあでも……それほど中毒性の高いものかどうかは分からないけどね。惚れ薬のつもりなら、一回、既成事実でも作っちまえってな感覚だろうし」
「……今のお話で決心がつきました」
百合亜が瞳に強い意志を込め、頷いた。
「おそらく、鹿島先生はなにかよからぬことに手を染めてらっしゃると、そういう認識でよろしいのですよね?」
「今までの先入観なしに、調査が出来れば何よりだな」
「まあ、頼りになるお医者さまではありましたけど……本当はどういった方なのかという興味もありますから」
「いい返事だな。ここで「あの立派な先生が悪事を働くわけがありませんわ」な~んて言われたら、どうしようかと思ってたところだ。それで、だ。実はあんたの経済状況ってのはこっちに筒抜けでね。一応、調査費用だ」
何枚かの札を渡され、百合亜は表情を強張らせた。
こちらが探る立場であった筈なのに、自分のことを知られているという不気味さ。
百合亜はこの男を侮れないと思った。
「世の中金、だろ? 医者に掛かるのも当然費用が掛かる。――ま、大金は出せねえが、一、二回の診療費用にはなんだろ。あんたが華族ってことなら、優先して診てくれんじゃねえか」
「………」
調査費用など結構ですわ、と突っぱねてやりたい気はしたが、こちらの経済状況を知られていることを思えば、受け取っておく方が得策な気がした。
「~~~ジョセフ、あんた金持ってんじゃないか」
依頼料を値切ったことが気に食わなかったようで、マチルダが半眼になった。
「有り金全部渡したんだ。もうねえよ」
ジャケットの内側をはだけて見せるようにして、ジョセフは肩をすくめた。
「ふん、どうだかね。とにかく、ざっくり成分分析はしてやったよ。あとは自分らで頑張りな」
マチルダは一応激励するつもりなのか、ぽん、と百合亜の背中を叩いた。




