日常
圧倒的不定期。飽きたら辞めるかも
僕は時折、少し変な夢を見る。自走する鉄の箱に気付かずぶつかって、死んでしまう夢だ。この夢の鉄の箱は僕はなんだか分からないが、なぜか不思議なものでは無いとわかっている。
そんな僕の執事生活は朝早くから始まる。
僕が従事しているラクラ子爵の一人娘、僕と同い年であるクラリスお嬢様の朝の支度をするためだ。今日着るお召し物を僕より2個上のメイドさんであるサラさんが決める。僕はそれをクラリスお嬢様の部屋に持っていき、ベッドのそばに置き、クラリスお嬢様をそっと起こす。むりやりに起こすのはNGだ。
「お嬢様、朝ですよ。起きてください?」
「……むにゃ…、シュウ…、まだ、寝させて…」
「ダメですよ、お嬢様。今日は朝早くから僕と一緒に魔法の稽古があるでしょう?早く起きないと講師が帰ってしまわれます。」
「分かったわ…、起きる。ちゃんと朝食の準備は出来てるかしら…。」
「旦那様も奥様も目覚めています。クラリスお嬢様を待たれています。」
「なら急がないとね。ほら、シュウ?私を着替えさせなさい?」
「はしたないですよ…、それに僕は男です。そういうのはサラさんに頼んでください。」
「そう?ならしょうがないわね。少し部屋を出てちょうだい?着替えるわ。」
「僕は旦那様に報告に行きますので、着替えたらそのまま朝食を食べにいらしてください。」
僕はそう言い、お嬢様の部屋を出て、みんなの共有スペースであるリビングへ向かう。そこにはもう既に食事が並んでいて、執事の僕、メイドのサラさん、料理長のリューさんの分のものもある。
「シュウ、おはよう。クラリスは起きたかい?」
「旦那様、クラリスお嬢様は今寝間着から着替えています。もう少々かかるかと…」
「そうかい、残念だね。リューの美味しいご飯が冷めてしまう。」
「旦那様!俺の料理ならお申し付けくだされはいつでも作って差し上げますのでどうか気にしないでください!」
「おはようございます、お父様、お母様。そしてリューは今日も元気ね。」
「おはよう、クラリス。さぁ、席におかけなさい?みなで朝食を食べましょう?それに今日は魔法の稽古があるのでしたよね。早く食べた方が良いのでは無いでしょう。」
「はい、お母様。」
「それじゃあみんな揃ったね。さて、自信が信仰する神への祈りを捧げよう。そして術の食材に感謝して…、ってこういうのはもういいか、私も言うのが疲れたよ。それじゃあ…」
『いただきます!』
そこからはみんなご飯を食べ始めた。今日の魔法の稽古はなにをするんだろうかと僕とお嬢様は思考を巡らせている。魔法はこの世界にある魔力を使って使用するものだ。魔力保有量は生まれつきで決まる訳では無い。ちゃんと努力をすれば自身の最大魔力保有量も増える。ただ、その増加量や、元々持っている量、魔法に対する適性はあるため、この世界にいる人々が全員魔法を使える訳では無い。
「それにしてもいいなぁ、クラリスお嬢様とシュウは魔法が扱えて、私は素の保有量も低いし、適性もないのダブルパンチだよ…。」
「サラ、これはしょうがない事だ。私だって魔法が扱えないのだからね。でも、魔法が使えないからと言って、この国は差別をする訳では無いだろう?ちゃんと実力主義のこの国だ。私はクラリスがどうしようもなくなったら優秀な孤児を養子に迎えるか…、そうだね、シュウを迎えるのもいいかもしれない。」
「お父様!私だってちゃんとしていますわよ!シュウには負けたくありません!」
お嬢様は負けず嫌いだ。僕が読み書きや家事全般ができるのに対抗してお嬢様もサラに家事を教えて貰ったり、リューさんに料理の作り方を聞いたり、旦那様の元で読み書きの練習もしている。彼女は僕のことをライバル視しているのだ。旦那様もこれに対しては黙認している。言わば「切磋琢磨させたらクラリスの地力も上がるだろう?それに私はクラリスか、君を跡継ぎにすればいいんだ。楽な仕事だね。」と言っていた。僕は正直あの人が時々怖い。
「ごちそうさま!美味しかったわ、リュー。さぁ、シュウ。稽古の準備をしましょう!」
「待ってくださいよ、お嬢様。早く準備したって講師は来ませんよ。」
「それはどうかな?もう居るみたいだよ。ほら、シュウ。先生を迎えに行ってくるんだ。」
「もうですか?はぁ…、」
「はは、先生は真面目だからね。半刻前行動が基本なんだよ。」
ご飯を食べきれてない僕はこれほど褒められるべき半刻前行動を恨んだことは無い。今口に含んでいる食事を飲み込み、僕は玄関へ迎えに行った。
今日はまだこれからである。
豆知識
リューさんは常にコック帽と白いエプロンを汚さず身につけています。