九十六話 お酒はほどほどに。
アレン達が飲み始めて一時間くらいが経った時だった。
アレンが口を開く。
「なー近くね?」
「なんだよ? 俺とお前の仲だろ? それとも俺と飲むのが嫌なのかぁ?」
酒を飲み先ほどからずっとご機嫌な様子のスービアはアレンの肩を抱き……その豊満な胸と体を密着させながら、答える。
ちなみにホップは顔を真っ赤にして眠ってしまって以降、席はスービアの隣にアレンが座っていた。
「……嫌って訳ではないが」
「じゃあいいじゃねーか」
「まぁ、いいんだが。話を変えるか……スービアは聖女様を見に行ったか? ホップが言っていたんだがすごい美人だったとか?」
「おう、見に行ったぜ。チョー可愛かったな」
「そうなんだ、俺は気持ち悪くなっちゃって、見れていないんだよな」
「そりゃもったいねー。一見の価値があるぜ?」
「それほどか」
「どうにか仲良くなる方法はねーかなぁ」
「ハハ、確か他の国から来たんだよね?」
「あぁ、そうだな。このまま、ウチの国にいてくれねーかなぁ」
「それは凄く難しいだろうね。聖女っていうだけだから、治癒魔法が使えるんじゃないかな? だとすると手放すことはないんじゃないかな?」
「アレンーそこをどーにかしてくれよぉ」
酒で顔を赤くしているスービアはアレンの頬に頬を擦り付けた。
「そればかりは、どうしようもないかな? 国に帰る時に冒険者なら護衛依頼が来るのかな?」
「おぉん? あり得るな。そこで……なんか盗賊とか襲ってきて、聖女ローラ様を颯爽と助けに入って? 恋に落とす作戦かぁ?」
「いやいや、物騒な」
「そうか? いいじゃんよー? 盗賊、やとっとかないとだぜー」
「いやいや、待て待てさっきの倍くらい物騒な話になっている」
「うお? アレン? 飲んでるか?」
スービアはアレンの持っているエールの入ったジョッキを覗き込むと、突然話を変える。
「話がコロコロ変わるなぁ。おう、飲んでいるぞ?」
「そうかー? なら、いい。しかし、三カ月くらい滞在するみたいでよ」
「え、何が三カ月?」
「あぁん。聖女のローラ様に決まっているじゃねーか。ぶはー」
スービアはアレンの顔にキスしてしまいそうなほどに近づいて、息を吐きかけた。
「そうか……って酒臭」
「ハハ、仕方ねーだろ? 酒を飲んでんだからよぉ」
スービアはご機嫌に笑い出した。
その様子を見ながら、アレンはエールの入ったジョッキに口を付けて飲み始める。
スービアは完全に酔っ払っているな。
はぁ……酒癖の悪い奴に絡まれるのは慣れているが、なかなか疲れるものである。
しかし、ラーセットよりかはマシか。
そろそろ、水を頼んでお開きにした方いいだろうな。
……聖女様は三カ月もこの国に居るのか。
ならば見る機会もあるだろか?
やはり、美人と聞くと見てみたいと思ってしまうのは男の性なんだろうな。
しかし、なんか長くない?
いや、わざわざ外国に来て一カ月で帰るってのも少し寂しいか?
まぁ、骨休め的なことだろうか? まぁ、俺にはそういう人達の考えは分からんな。
アレンはジョッキに口を付けて考え事をしていたのだが、スービアがアレンの顔を覗き込んでいるのに気付く。
「ん、どうした?」
「にっしし」
アレンがスービアに問いかけると、スービアはニヤリと笑った。
怪訝な表情になってアレンは質問を続ける。
「どうしたんだよ? いきなり笑い出して、なんか可笑しかったか?」
「アレンって身長がもう少し高けりゃあ、いいのになぁ」
「なんだ? 突然の悪口。びっくりだわ。悪かったな、身長が低くて」
アレンはあからさまに機嫌を悪くして、エールの入ったジョッキをグイッと飲み干した。対して、ご機嫌なままのスービアはアレンの頭をワシャワシャと撫でまわした。
「へへ、悪口じゃねーよ?」
「どこら辺がだ?」
アレンが首を傾げて問いかけると、スービアはアレンの肩をグイッと抱き寄せる。
「んーん? まぁまぁいいじゃねーか?」
「なんなんだよ?」
「飲むぜ? オヤジ、エール二つ、おかわり!」
スービアはアレンの言うことを気にする様子もなく空になったジョッキを突き出すと、食事を運んでいたダルファーに向けて声を掛けた。
「お、おう」
スービアを見たダルファーは目を見開いて驚きの表情になって返事する。そして別の客に食事を届けて厨房に入っていく。
一分しない内に厨房から出てきて、エールが入ったジョッキを手に持って戻ってきた。
「おらよ」
「待ってたぜ」
「ありがとう」
差し出されたジョッキをスービアとアレンは礼を言って受け取っていく。
ダルファーには少し同情したような視線をアレンに一回向けて、スービアに話しかける。
「……スービア、可愛そうだからあまり絡んでやるなよ?」
「あん? どういうことだよ?」
上機嫌だったスービアの眉間に軽く皺が寄った。スービアはダルファーに視線が向けられる。
「いや、あんまりお前が絡むと、そこのガキが可哀想だろ? 女同様に嫌われるぜ?」
「なんだと? アレン? 俺とこうやって飲むのが嫌じゃないよな?」
スービアはエールを飲んでいたアレンの胸ぐらを掴んで揺さぶる。
「うぷ。なんだよ」
「だから、俺と酒を飲むのは嫌かって聞いてるんだ」
「えーと、まぁ……」
アレンが言葉を選んでいると、スービアは更に掴んだ胸ぐらを強く揺さぶった。
「早く答えろ!」
「いや、全然嫌じゃないぞ? 楽しい。そう、楽しいぞ?」
「へへーそうだろう。そうだろう。やっぱり、アレンはいやじゃねーってよ」
アレンの言葉を聞くと、すぐに上機嫌に戻る。
そして、少し胸を張りながらダルファーを見返す。
「そうか。それは悪かったな」
ダルファーはスービアに謝る。そして、アレンの背中をポンと軽く叩いて、呟くように続けた。
「……出来たガキだな。あと少しだ。頑張れよ」
「ハハ……」
ダルファーの呟きが聞こえたアレンは、苦笑して返した。
そのダルファーとアレンのやり取りを見ていたスービアはまた少し眉間に皺を寄せる。
「なんだって?」
「いや、なんでもねーよ」
絡まれるのを察したダルファー逃げるように厨房に引っ込んで行った。




