九十話 討伐。
ロックヘッドボアの足が止まった……その瞬間だった。
「行くわ」
草むらに身を隠しているリナリーが右手を前に突き出す。すると、ロックヘッドボアに向けて……三つの高速回転している手裏剣が放たれた。
その手裏剣は草むらを突き抜けてロックヘッドボアの右肩、左前足、背に突き刺さった。
「ブッゴ……ギャアア」
ロックヘッドボアは断末魔に近い鳴き声を上げた。
手裏剣が突き刺さったロックヘッドボアの傷口からはブシュっと血が流れ出る。そして、ロックヘッドボアは左前足を地面に付いた。
ロックヘッドボアの様子を草むらの陰から見ていたホップが声を漏らした。
「やった……」
「いや、まだだぜ」
目付きを鋭くしたスービアが声を上げる。
「ブゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!」
スービアの言った通り、ロックヘッドボアはけたたましい鳴き声を上げて起き上がる。
そして、草むらを突き破ってリナリー達の前に姿を現した。
「く、リナリー、ホップ下がれ……」
スービアがリナリーとホップに声を掛ける。
ただ、スービアに視線を送ったところで、スービアの言葉が途切れた。
「ぐ……良かった。残しておいて」
リナリーの頭上には、先ほど放っていなかった手裏剣が高速回転していた。
それは、先ほどロックヘッドボアに放たれた三枚の手裏剣よりも倍以上に高速回転していて、辺りの草木がなびき揺らぐほどであった。
「ブゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
「……っ」
ロックヘッドボアは手裏剣に怯むことなく、リナリーへとまっすぐ突進し始めた。
対してリナリーは突進してくるロックヘッドボアに、一瞬表情を強張らせる。
そのリナリーを見たスービアが前に出ようとした時だった。
ガサッと草むらからアレンが飛び出した。そして、持っていた盾でロックヘッドボアの横から突き飛ばした。
「リナリー、やれ」
「うん」
アレンの声に反応したリナリーは手を前に突き出した。
するとリナリーの頭上で旋回していた手裏剣が地面を這うようアレンによって突き飛ばされてよろめくロックヘッドボアへと向かい、首筋辺りをスパンと切り裂いた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「……っ」
リナリーの手裏剣によって切り裂かれた傷口から血を流しながら、断末魔を上げるロックヘッドボアはよろよろとリナリーに歩き出す。
それを見たリナリーは、マナを使いきってしまったのか、吊るしていたナイフを鞘から抜いて構える。
……リナリーの持っているナイフはプルプルと細かく震えていた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……」
リナリーに向かってよろよろ歩いていたロックヘッドボアだったが、声もよわよわしくなって……横に倒れた。
「あ……え? 倒したの?」
倒れたロックヘッドボアを前にしてリナリーはキョトンとした表情になった。対して、盾を背負って近づいてきたアレンが声を掛ける。
「ふぅ……どう見ても倒れているじゃん」
「そう……ふぅ」
一気に脱力したのか、リナリーは地面にペタンと座り込んでしまった。
「コイツ、丈夫な奴だったな」
「そうね……けど、私はもっと急所を的確に狙える技術を磨かないといけないわね」
「そうだね」
「あと、私ビビッてたね。ナイフを持つ手が震えて……」
「……そうだね。けど、止めを刺した最後の攻撃は良かったと思ったよ。威力もそうだけど、ロックヘッドボアを前にしてちゃんと魔法を使えたのは良かったと思うよ」
「そ、そうかな?」
アレンに褒められて、リナリーは笑みを噛みしめるように俯いた。
ロックヘッドボアを前にアレンとリナリーが話していると、スービアが近づいてきた。
「今度からは初撃で確実に仕留められるようにならねーとな? あんまり毛皮が傷つくと高く売れねーぜ?」
スービアの問いかけに、リナリーはこくんと頷いた。
「はい」
「まぁ、いい経験になったんじゃねーか?」
「それもはい。スービアもありがとう」
「なんだ、急に。けど感謝してくれるなら、今日は俺のベッドに来てくれていいぜ?」
「それは遠慮しておくけど」
「クク、相変わらず、つれねーぜ」
「当然じゃない」
「ふ、いつか俺に惚れさせてやるぜ」
「それは絶対にないから!」
「わかんねーぜ!」
リナリーとスービアが話していると、ホップが水の注がれた木のカップを持ってやってくる。
「まぁまぁ、お疲れ様。喉乾かないか?」
最初はリナリーとスービアのこのやり取りにどう入っていけばいいのか分からないと言った感じであったホップだが、だいぶ慣れてきて普通に話しかけて、水の注がれた木のカップを手渡していく。
「ほら、アレンも」
ホップはアレンにも水の注がれた木のカップを渡す。
「ありがとう」
「アレンはずいぶん吹き飛ばされていたが、怪我はないのか?」
「あぁ、俺は丈夫なんだ」
「なら、良いんだが。じゃ、周囲警戒してくれ、俺は解体をやるから」
そう言って腕まくりをしたホップは解体に必要な道具を取り出し、ロックヘッドボアの解体を開始するのだった。
その日はリナリーのマナをほとんど使い切ってしまったのもあり、このままユーステルの森を長時間歩くのは危険と判断した。
よって、昨日野宿した場所に戻って再び野宿することになった。




