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八十九話 ロックヘッドボア。

 アレンは躊躇するリナリーの背中をポンと軽く叩く。


「ここまで来たら挑戦してみたら?」


「え?」


「ここでリナリーがロックヘッドボアと戦えたら、良い経験になる。そして、魔法使いとして更に強くなってくれるよね?」


 アレンのリナリーを試すような問いかけに、リナリーは表情を強張らせた。


「……っ、強くなって見せるわよ」


「なら、俺は反対しない。まぁ、けどリナリーの魔法が失敗してもなんとかなるでしょ。ここには俺の盾もあるし、A級の冒険者のスービアもいる。ついでにホップもいるし」


 ホップが「なんか、いきなり悪口が聞こえた気がする」と呟いたのをスルーしたアレンはスービアに視線を向けた。


「ね? スービアが居れば大丈夫だよね?」


 アレンの問いかけに、スービアは腕を組んで考える仕草を見せる。


「は。反対したいところだ。冒険者は失敗したら死を意味するんだぜ? そこはちゃんと分かるよな?」


「そうだね」


「……ただ、今回は俺が居る時点で戦力は確かに整っているリナリーが失敗しても、パーティーとしての失敗はないか。クク、それに俺もリナリーが強い魔物と戦うことで成長できたら……面白いとか思っちまうじゃねーかよ」


「じゃあ、決まりだね。準備しようか」


 アレンの言葉で、ロックヘッドボアの討伐の準備が始まったのだった。




 目を瞑って集中していたリナリーがスッと目を開いた。


「ふぅ……やるわよ」


 アレン、スービア、ホップの三人はリナリーの言葉に黙って頷く。


 それを見たリナリーは四枚の手裏剣を両手の人差し指と中指、中指と薬指のそれぞれの第二関節に挟んだ。


 そして、両腕をクロスするように構えると、手裏剣の魔法陣が薄く輝きだす。


「【エアートルネード】」


 リナリーが風属性の魔法【エアートルネード】を唱えると共に、手裏剣を投げる。すると、手裏剣が回転したままにリナリーの周囲に留まった。


 その手裏剣は魔法陣の光が強くなっていくにつれて、手裏剣の回転数が徐々に上がっていき、フィーンっと手裏剣が風を切る音が辺りに響く。


「フゴ」


 リナリーの手裏剣が風を切る音に気付いたロックヘッドボアが鳴き声を上げて、辺りを見回す。


 それに対して、アレンが草むらから飛び出して盾を構えた。


 アレンの姿を目にした瞬間、ロックヘッドボアは鼻息を荒くする。そして、威嚇するように前足で地面をひっかくような動作をして……次の瞬間、アレンに向けて突進してくる。


「……【パワード】」


 アレンは盾に刻まれている肉体強化魔法の【パワード】の魔法陣に触れる。すると、【パワード】の魔法陣がうっすらと光り出した。


「ふ……」


 アレンは小さく笑った。そして、迫ってくるロックヘッドボアを見据えながら、考える。


【パワード】を使った状態で手加減は難しいか。


 だけど、今回はリナリーに魔物討伐させて経験を積ませることにあるから、俺が倒す訳にはいかないんだよね。


 んー軽く受けて、力を抜いて吹き飛ばされるとするかな?


 やられたフリをするのは少し癪だが、それよりもリナリーがどのように成長してくれるか楽しみだな。


「フゴゴゴッゴ!」


 ロックヘッドボアが鳴き声を上げて、アレンに突進してくる。


 アレンが構えていた盾に、突進してきたロックヘッドボアの額の角にも似た黒い出っ張りがドンッ!! と空気が揺れるような音とともに激しくぶつかり合った。


 アレンはロックヘッドボアとの衝突によって、後方に大きく吹き飛ばされる。


 ただ、ロックヘッドボアの勢いもちゃんと殺されていて、ロックヘッドボアの足が止まった。


 ロックヘッドボアの足が止まった……その瞬間だった。


「行くわ」

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