八十一話 うぷ。
ここは屋台の並ぶ商業地区である。
「うぷ」
アレンは前にここに来た時と同じ場所、同じ様子で座り込んでいた。
「毎回これだね。そんなに人ごみが苦手なのかい?」
アレンに声を掛けたのは、近くで野菜売りの屋台を出している女性であった。
その女性は、以前森で助けた女の子ルーシーの母親シリアである。
「あぁ、うん、苦手だね。こればかりは克服できないみたい」
「男の子が情けないねぇ。もっと堂々としてりゃあ、気にもならないってのに」
「そうかな? けど今日はいつにも増して、人がいっぱいなんだよ?」
「そりゃ、聖英祭が近いからねぇ」
「やっぱり、そうか」
「まぁ、人間誰にでも苦手なもんはあるか……水を飲みな」
「ありがとう」
シリアが水を注いだ木のコップをアレンに手渡した。
「それで……どうするんだい? 今日も何か買いに来たんだろ?」
「あぁ、けど大丈夫。ホップにお金を渡して買いに行ってもらったから」
「そうかい? なら、大丈夫だね」
「うん」
「ふ……」
「ん? どうしたの?」
「いや、ルーシーが会いたがっていたから、また会ってやってくれないかい?」
「うん? いいけど。最近冒険者で忙しいから……ちょっと先になっちゃうかもだけど」
「そうだね。アンタの冒険者パーティーって銀翼だったかい? 結構話に聞くようになってきたね」
「そう?」
「草刈りのクエストを専門に受けて、稼ぎを出しているってね」
「いや、専門に受けている訳じゃないんだけど。実際に他の雑用系や討伐系のクエストも受けているんだけどね」
「そうなのかい?」
「まぁ、草刈りのクエストを受ける割合の方が高いんだけど」
アレンは苦笑ながら、グッと水を飲みほした。ちょうどアレンが水を飲みほしたところで、ホップがアレンの前にやってきた。
「こんなところにいたのか?」
「買ってきてくれたか。ありがとう」
「あぁ、それより大丈夫か? 顔色が悪いが……」
「大丈夫、だいぶ回復してきた」
「本当か?」
アレンはホップが抱えている食材がパンパンに詰まった袋を目にして、目を見開く。
「なんか食材多くない? パーティーでもやるのか?」
「腹減ったからな。せっかく奢ってくれるんだから、いっぱい食わなきゃ損だろ?」
「まぁ、食べられるならいいが。渡した金でよくそんなに買えたな」
「ふ、安く買える屋台とかは頭に入っているからな」
「そうか」
「あぁ、これはもらった金の余りだ」
「アレ、余った?」
ホップはポケットから、銅板や銅貨を取り出してアレンへと手渡した。アレンはホップから硬貨を受け取ると、よろめきながらも立ち上がる。
「さっさと帰って飯を作るぞ。腹減った」
「よっこいせと、帰るか。シリアさん、水ありがとうね。今日はこの野菜を貰おうかな」
立ち上がったアレンは服に付いた砂埃をはらい、シリアの屋台の食材に目を向ける。そしてほうれん草に似た野菜を手に取った。
「まいどあり。銅貨三枚だよ」
アレンがシリアに銅貨三枚を手渡すと、アレンとホップは人ごみを避けながら寮に戻るのだった。




