八十話 寮。
ここは冒険者ギルドの隣にある寮。
その寮の管理室の前である。
「本当に運べるのかい?」
「? 大丈夫だよ。力持ちなんで」
寮の管理人に心配されたながらも、アレンは自分の荷物に加えて布団を持ち上げた。
「だい……大丈夫そうだね」
「えっと、B‐1だよね」
「あぁ、足元には気を付けなよ」
「はい、ありがとう」
アレンは管理人に向かってぺこりと頭を下げると管理室の前から離れる。
大荷物を抱えて、よたよたと歩いていたアレンは何とかB‐1の部屋の前にまでやってきた。
コンコン。
アレンは扉をノックする。
「誰も居ない? 同室が居ると言っていたが……出かけている? まぁいいか」
首を傾げたアレンは大荷物で見にくそうであるが、持っていた鍵で扉を開ける。そして、B‐1の部屋に入っていく。
B‐1の部屋はちょっと古いが、普通に綺麗な部屋だった。
家具は二段ベッドとローテーブル、デスク、椅子、鍵付きの棚……それから、おそらく同室の人の荷物だろう物が置かれていた。
アレンはとりあえず持っていた布団を二段ベッドの上の段に放り込んだ。そして、持っていた荷物を下した。
「ふう……」
「アレ? ちゃんと鍵をかけたと思ったけど」
ガチャ。
アレンが一度息をはいたところで、部屋の外から声が聞こえて扉が開いた。
「あ」
「げ」
アレンと部屋の中に入ってきた少年の目が合って、互いに声を上げた。
「……もしかして、相部屋か?」
部屋の中に入ってきた少年の問いかけに、アレンは頷く。
「うん、そうだよ」
「そうかぁ。ちょっと前に先輩が出ていって……せっかく一人部屋になったって言うのに」
「まぁ。今日だけなんだけどな」
「どういうことだ?」
「あぁ、明日早いから……ここに泊まることにしたんだ」
「へーそうなんだ。ん? お前ってもしかして銀翼か?」
「ん? そうだが……えーっと?」
「ハハ、俺のことなんて覚えてないよな。俺はホップだよ。一応最初講習会を一緒に受けた同期だ。ゴールドアックスに入っている……いや入っていたか」
部屋の中に入ってきた少年……ホップは苦笑しながら、ベッドに腰掛けた。
対してアレンもその場に腰かける。
「俺はアレンだ。入っていたってのは、脱退したのか?」
「あぁ、そうだ。理由はクエストの報酬の取り分が悪くてな。ルーカスとその取り巻きばかりが、報酬から良い取り分もらっているんだぜ? 不満だろ?」
「報酬の取り分でもめるのは冒険者ではありがちだよね、ハハ」
アレンは小さく笑った。すると、ホップは俯く。
「……それからな」
「どうした?」
「ちょうど俺がB級の冒険者に上がったところで、なんか嫌な予感がしたんだよ」
「ほーそうか、嫌な予感が?」
「ん? なんか、ビリビリって来たんだよ」
「ほー」
アレンが視線を下に向けて、考えている仕草を見せる。
嫌な予感がしたか。
ちょっと面白いかも知れんな。
身体能力としては下の中と言った辺りで、はっきり言って弱い。
まぁ、それは今後鍛えればいいが。
嫌な予感を感じ取れる才能は簡単に得られるモノではない……か。
その才能を潰してやるのは勿体ない。
……どうするかな。
そうだ。
ちょうどメンツが足りないと思っていたところだしな。
「どうしたんだ?」
しばらく黙って考えていたアレンに、怪訝な表情でホップが問いかける。
「あぁ、悪い。なんでもないよ。それより、夕食は食ったのか?」
「ん? いや、これから共同のキッチンで作ろうと思っているところだった」
「そうか。自炊しているんだな」
「極貧だからな。まぁ、料理するのは得意だし、苦ではないが」
「……そうか、じゃ食材を買いに行くか? もちろん、その食材は俺が持ってやるから」
「は、良いのか?」
「あぁ、俺はそれなりに稼いでいるらしいからな」
「ちぇ、銀翼はそうだよな」
アレンとホップは連れだって、屋台の並ぶ商業地区へと向かうのだった。




