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カーテンの隙間から差し込む日差しが僕の脳を刺激する。
旅行という高揚感もあってか、すんなり僕は起きた。
ホテルのレストランで朝食を取ることを決めていた僕たちは、朝食開始時間の七時前には起きていようと話し合っていたが、現在の時刻は六時。
――大分早すぎたかな。
ふと横を見ると彩がいないことに気がついた。
辺りを見渡すも、彩の姿は見当たらず、聞こえる音はテレビから聞こえるアナウンサーの声。
僕は彩を探そうとベッドから起きた時、その内容が聞こえてきた。
「続報です。先ほどのオオカミ人間の映像に更なる情報が入りました」
僕は一瞬にして体を固めてしまった。
何言ってるんだ。
このアナウンサーは。
オオカミ人間だって?
そんなの誰も信じない…
テレビに映った映像は紛れもないものであった。
彩が写っていた。
時刻を見ると、午前三時になっていた。
道路わきで苦しみだした彩がうずくまると、身体から毛が生えてきて、みるみるうちにオオカミの姿に変ったのである。
僕は失念していた。
昨夜は満月だったのだ。
もう少し考えておくべきだった。
てっきり、その辺は彩が自分で管理しているだろうと思っていた。
この旅行を今日に決めたのも、彩であったから。
しかし、彩はなぜ、こんな時間に外へ?
彩に何があったのか。
彩とオオカミ人間とと考える前に、こんな時間に外に出る事自体が変だ。
その原因は一つしかありえない。
あの写真だ。
僕自身が動揺して彩に気を配りきれていなかったのかもしれない。
それにしてもいったいなぜ。
ニュースになることは誰がどう考えても分かるだろうに。
自分の体のことを何年間も隠しながら生きてきた彩がわざわざニュースになる様な事をしたことに、僕は何の理解もできなかった。
僕は考えても無駄だと、まずは彩の身の安全を確認するために、ホテルのフロントに彩の出入りの確認をした。
すると、この僕が最後に見た時間から今まで、彩らしい年齢の人物を見ていないようであった。
今日の夜はホテル側もあまり忙しくないようで、チェックイン業務が無いことで、事務的な仕事しかなく、出入り口を誰かが出入りしたら、気付かないことは無いであろうとのことであった。
僕はますます分からなくなった。
ここまで徹底的に身を隠して外に出た理由が全く思い浮かばない。
僕は、とりあえずニュースに映った現場に行ってみる事にした。
そこはここから隣駅の駅前のようで、そのニュースに駅の看板が写っていたので、分かりやすかった。
ホテルの最寄駅で電車に乗り、現場の電車を降りた途端、異様な光景が広がっていた。
改札前からものすごい人の量であったのだ。
普段であればこんなことはありえない。
何か近くで有名アーティストのライブでも無いかぎり。
しかも、この駅は通勤ラッシュとは無縁の駅なので、原因は彩にあると一目瞭然であった。
普段こういう時は、人の間を縫う事なんて、僕の性格てはしないが、この時ばかりは人を押しのけて進んだ。
ーー何なんだよ!
ーー並べよ!
なんて言われようと関係ない。
僕は、綾の事をちっとも分かっていなかった。
こうなる事は分かっていたはずなのに、わざわざ外に出た。
明らかに彼女の精神状態は普通では無かった。
それなのに僕は…
何かのきっかけがあった事は間違いないが、それも綾の精神状態がしっかりしていれば、動揺しても、このような行動には移さない。
僕は願いながら、思いながら、人混みの中を進んだ。
綾、教えてくれ!何があったんだ!何故ここまでなるまで僕に相談してくれなかったんだ!
僕はそんなに頼らない男なのか!
綾と付き合ってままないが、そんなの言い訳にはならない。
頼む!無事でいて!!!
人混みの先には殺人現場にあるような、黄色いテープで一角が囲われていた。
僕は、その一角を、覗き込むと、顔面蒼白で座り込んでしまった。
頭の中が真っ白になって座り込んでしまった。
そこにはおびただしいほどの、乾きかけた赤い血で溢れていた。