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人が雪崩のように駅から吐き出されている。
新宿駅南口は待ち合わせの人も多いため、満員電車と同じ状態となっている。
そこを僕と彩は歩いていた。
押し合いへしあいのオンパレードで、人ごみを抜けた時には二人とも汗だくになっていた。
「これじゃあ、電車の中と変わらないじゃん」
彩は一人愚痴ていた。
更に歩くと、大通りに出た。
向かいには激安が売りのドンキホーテが聳えており、軽快なリズムのテーマソングが流れている。
その歌を聴きながらさらに進むと、目的の場所が見えて来た。
「ゴジラだ。あそこだよ」
彩は子供のようにはしゃいでいた。
新宿のTOHOの映画館で最新鋭の映画設備を兼ね備えておりたくさんの人が行き交っている。
実は、本来の目的はここではないのだが、彩はスマホで何枚もそのゴジラを撮っている。
そのゴジラとういのは映画館が入っているビルの上で巨大なゴジラが顔を覗かせており、時折、ゴジラのテーマソングと共にゴジラが大きく口をあけ、吠えたりしており、かなりの迫力である。
その脇を通り進むとある公園が見えて来た。
「ここ!ここ!」
彩はその垂れ幕を指さし僕の袖を引っ張った。
『デザート日本グランプリ』
この企画は昨年から始まったようで彩は新宿に来たらまず行ってみたいと一番最初に決まった場所である。
入口の外にまで甘い香りが漂っており、通りすがりの人々も中を除かずにはいられないようである。
「腹減ってきちゃった」
僕は腹を押さえると舌を出しながら彩に言うと、彩も微笑んで「そうだね」と肯定した。
僕と彩は中に入ると、その臭いは勢いを増し、僕等は入口でもらったパンフレットを眺めながら食べる物を探した。
幾つか候補を絞りそのブースに行くと、僕等と入れ替えに美味しそうなデザートを持った人が楽しそうな顔でテーブル席へ向って行った。
それにしてもと僕は思った。
七割以上が女性で男性は女性の付添と思われる人がほとんど。
僕に限らず甘いものが好きな男性は大勢いるはず。
タピオカしかり、もっと男性も足を運んでも良いと思った。
男性は大方の見方通りシャイなのかもしれない。
僕自身も男同士で来るかと言われると答えはノーと言うほかない。
僕らの順番が来た。
メニューは三種類なので悩まなくて済むと思ったが、彩はその三種類でいつまでも悩んでいた。
結局五分は悩んでいたであろうか。
決めれないと言って最後は僕が選んだ。
僕がティラミスで彩がパフェなのだが、こういうところに出展されるだけあって、僕は今まで食べた中で一番のデザートとなった。
彩も満足したようで、美味しい美味しいとあっという間に完食してしまった。
彩が更に食べようと言うので、別のブースに並ぶことになった。
そこでも彩は暫く迷い最終的に僕が決めた。
「彩ってそこまで優柔不断だったっけ?」
「今回は別。駿君と少しでもおいしいもの食べたいって思ったら、決められなくなっちゃった」
僕は照れ隠しに「バカ」と言い目の前のデザートを口に頬張った。
因みに僕はチーズケーキに彩はモンブランだった。
さすがに二つ目のデザートで満足したようで「お腹いっぱい」と言い、飲み物を買いに行った。
僕は待っていることになり、彩の背中姿を眺めた。
――どこにもオオカミの影なんてないけど、どうなっちゃうんだろう。
こういうことはふと思うもので、直ぐに頭を振って考えを振り払った。
「おまたせ」
彩が帰って来ると、僕は驚いた。
その手に持っていたのはタピオカドリンクであった。
「お腹いっぱいって言ってなかったっけ?」
「タピオカじゃお腹に入るもん」
そういうと飲みだした。
僕もせっかく買ってきてくれたからと飲み始めるも、半分ぐらいの所で、限界が来た。
すると、そんな僕を見た彩がまた驚愕のひとことを言った。
「駿君お腹いっぱい?私が飲もうか?」
僕は驚いてあやうく飲み物を吐き出してしまうところであった。
「まだ飲むの!?」
「全然余裕!美味しいものはいくらでもお腹にはいるものだね」
僕は唖然としながら自分のタピオカドリンクを彩に渡した。
その後は、映画館で映画を観て、ゲームセンターでゲームをし、思う存分楽しんだ。
忘れてはならないのは、彩は映画館でもポップコーンを僕と半分ずつであるが平然と食べていた。
ホテルにチェックインした僕と彩は予定通りホテル内のレストランで食事をすることになった。
これは彩が言いだしたことで、せっかくホテルに泊まるのだからホテルのものを名一杯満喫したいという理由らしい。
このホテルのレストランは予約制で元から予約してあり、すんなりと入ることができた。
案内してもらった席は窓際で、東京の夜景を一望できる素晴らしい眺めである。
メニューを見た彩は何故か固まっていた。
「どうしたの?」
「ごめん。私、値段見ずに予約しちゃった」
彩は舌を出しながらおどけながら言った。
本当にごめんと思っていないのは明白であった。
僕の母と彩の母にもらったお金がなかったら、正直払えていなかったであろう。
「気にすることないよ。僕がお金持って来たから」
「え?そんなお金持ちだったっけ?」
僕は心底自分はズルいと思いながらも「予習済みだよ」と笑ってみせた。
「駿君ってそんな計画的だったっけな。駿君のお母さんがこのホテルに行くの知ってて、お金くれたんじゃないの?」
図星で、僕は笑ってしまうも取り繕ってメニューを決めた。
食べ物が運ばれてきたのだが、コースだったので前菜からであったが、前菜という概念がない僕と彩は頭の上にハテナマークを出しながら、前菜を食した。
「こんな小出しにしないで全部一緒に出してくれれば良いのに」
「こういうちゃんとしたレストランはこういうスタイルなのかな?」
端からみたら笑われてしまうであろうが、僕はこんな瞬間も楽しんでいた。
メイン料理のステーキが運ばれてきて、その見た目に僕と彩は完成を上げた。
「ぶあつッ!」
「レアだよレア」
そう言いながら僕と彩はステーキを口に運んだ。
その分厚いステーキは口の中にいれた途端に肉の風味が口全体に広がり、程よい弾力であっという間に無くなってしまった。
涙が出そうになるくらいの味に僕は思わず姿勢を正してしまった。
それは彩も同じようで、いつの間にか背筋を伸ばしてステーキを食していた。
メイン料理の後にはもちろんデザート。
「またデザートだね」
「またって何よ。デザートは何杯でも良いじゃん」
彩はまたしてもあっという間に食してしまった。
部屋に戻ると、二人交互に風呂に入った。
異性と一緒の部屋に泊まるのなんて初めての経験で緊張したが、不思議と彩といるといつの間にか緊張を忘れていた。
それと同時に彩が満月を見るとオオカミになるという事も忘れていた。
それだけ充実した一日だった。
明日もこんな一日だといいな。
僕はそんな事を思いながらこの幸せな一日を終えた。