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彩の父親の写真のインパクトがあまりに大きく僕等は何の情報も聞きだせなかった。


彩が自分の父親と言うのにどれだけの勇気を必要としたか。


いつかはバレるだろうから、今の内に言ってしまおうという気持ちだったのか。


違うだろう。


言わざるを得なかった。


隠し通すという選択肢は彩には無かったし、僕に相談されても正直に話そうというだろう。


それだけあの写真で追い込まれることとなった。


砂州軒出版に行ったのが正解だったのかは、正直なところ分からない。


行ってなかったとしても、あの写真は雑誌に載ってであろう。


得体のしれない不安より、砂州軒出版の笹沼と編集長が中心となって記事を描いていると分かっていれば、少しは不安は解消されるし、彩が正直に言ったことによって、あの写真にはプライバシーという重りが砂州軒出版にとってはとても重いものになっているであろう。


彩が名乗らなければ、何の問題もなく都市伝説として面白おかしくあの写真を中心に記事にしたであろうが、彩が名乗ったことによって、写真掲載を断ることが彩には出来るようになった。


それが有一の救いといって良いのかもしれない。


しかし、あの写真があの一枚であるとはとても思えなかった。


砂州軒出版にあるということは、他の人もしくはメディアが持っている可能性は高く、彩の事が日本中に知れ渡る可能性は否定できない。


僕は考えに考えたが、答えが出るわけもなく、ただただ彩の心身面のフォローをすることしかできないだろうと思っていた。


砂州軒出版に行った日から彩とは会うが、以前のようにオオカミの事について調べはしていない。


僕もそうだが、彩にとっても心の整理が必要であろう。


覚悟はしていたつもりだが、あの写真が存在するとは思ってもみなかった。


「今度、新宿に行きたいんだけど」


彩が唐突に電話で言いだした。


「新宿?またなんで?」


「なんで?って彼氏とデートしちゃいけないの?」


「そういうことじゃなくて…」


「考えたら、駿君とデートらしいことしてないなと思って。私の事ばかりだったから。ごめんね」


「謝らなくて良いよ。僕がそうしたくてそうしてるんだから。じゃあ新宿で思いっきり遊ぼうか」


僕は気づいてしまった。


僕等って付き合ってるんだった。


あの日、お互いに気持ちは言いあったが、彩の言う通りオオカミの事で頭がいっぱいで、付き合っているという考えがあまり無かった。


おそらく彩は、頭のどこかで考えていたんだろうな。


僕はそんな自分を恥じて、新宿でのデートプランを考え始めた。


しかし、そのデートプランは早々に崩れ去った。


「デートプラン考えちゃった」


「ふえ?」


唐突に言われ、僕は変な声が出た。


「ふえ?ってなにさ」


「何でもない」


「一泊二日で行こうと思ってるんだけどね」


泊まり?


泊まりも悪くないか…


最初はそう思っていたが、僕は気づいてしまった。


異性の子と泊まりで旅行なんて生まれて初めてだという事に。


そう思ったとたん僕の心臓は激しく動き、今にも胸から飛び出してきそうである。


「予約も私がしとくから。いつも私の事ばかりだから、そのお礼として」


僕は「ありがとう」と返すことしかできなかった。


――これは男としてどうなんだろうか…。でも彩からの好意として受け取っておくべきかな。




その日はあっという間にやってきた。


正直彩のオオカミの子とはお先真っ暗な状況だけど、今日はせっかくの機会だから精一杯彩に楽しんでもらおう。


そして、自分も精一杯楽しもうと小学生時代の遠足ぶりに前日はなかなか寝付けなかった。


彩の家に迎えに行くと、玄関先に現れたのは彩の母親であった。


「こういう時なんて言って良いのか分からないけど、とりあえず言っておくね。彩に何かあったら許さないからね」


僕は彩の母親の言葉に固まってしまったが「冗談だよ」と彩の母親が言い笑ったので安堵した。


「駿君なら安心して彩を任せられる。彩も最近元気ないから、思いっきり楽しんでおいで」


言うと彩の母親は僕に少し厚い封筒を寄越した。


「少ないけど、足しにしてね。あの子ったら、抜けてるところがあるからお金の準備もしてないと思うのよ」


「もしかして、彩は全部言ってるんですか」


「私にってこと?」


僕は頷いた。


「普通は言わないよね。男の子とデートする事は。だけど、ここ最近ずっとその話ばかりなのよ。私が嫉妬しちゃうくらいにね。以前は自分の体のことを話すのが多かったから安心したのよ。あの写真の事は彩から聞いているし、この二日間だけでもいろんなこと忘れて思いっきり楽しんでらっしゃい」


――今日は、金運でも良いのかな?


実は僕の母もどういうわけか彩と泊まりで遊びに行くという事を知っており、男なんだから彩の分まで御飯くらいは出しなさいとお金をくれたのだ。


運が良いと思う反面、少しプレッシャーを感じずにはいられなかった。


しかし、そのプレッシャーは嫌なものではなく、心を燃やす発火材のようなものであり、より心を浮き足立たせた。


それが要因かは分からないが、彩が階段から降りて来た時、僕は固まってしまい、まともに見れなかった。


白と水色のワンピースに、髪はいつものショートなのだが、パーマをあてているようであり、彩からはいつもつけない香水の臭いもしていた。


「どうしたの?」


彩が不思議そうな顔で僕を見ると彩の母親は思わず吹き出していた。


「駿君分かりやすすぎるよ」


彩は尚も不思議な顔で母親に問うた。


「何が分かり易過ぎるの?」


彩の母親は「え?」と逆に驚いた顔をして表情を崩し言った。


「何だかんだお似合いのカップルだわ」


僕と彩を満面の笑みで見送った。


僕と彩ははやる気持ちを抑えて最寄の駅へ向かった。


お互いぎこちなく手を握りながら。

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