【10】私に考えがあります
「……ス……アリス…………アリリエス!」
「ーーーえ?」
大きなアイスブルーの瞳をぱちりとさせ、呼ばれた声に我にかえる。
「大丈夫か?ぼーっとしてたけど」
「えぇ、ちょっと考え事してたみたい」
そう言って困ったように言うアリスに苦笑するオリオン。
「みたいって……さっきのことか?」
「うん。まあそうなんだけど」
アリスが考えていたのはこの物語そのものについてだ。こんなシーンあったっけかと。
主人公エミリアが魔導師コースに行くのは必須。しかしここまで不可思議な問題など起きていただろうか?そして こんなにも攻略キャラ以外に登場人物がいただろうか。
曖昧になっていく記憶に、アリスは頭を悩ませていた。……もともと曖昧ではあるが。
確かゲームの中では、女子生徒の少ない魔導師コースに入った主人公は所謂逆ハーという状態だった。
そこへ、主人公が自由にきゃっきゃうふふと出来ないように邪魔に入るのがラスボスたるアリリエスだったのだ。公爵令嬢で容姿端麗成績優秀な彼女の存在は、主人公にとっては強敵でしかなく、なかなか手強いものだった。しかし自身の仲間を増やし、ある日暴走したアリスを止めるべく最大の力を発揮した主人公は、周囲に認められて愛する人とも結ばれるのだ。
ーーーとまあこれはゲームのお話。
実際アリスはこんな性格だからか、主人公にも、その想い人とやらにも興味はない。むしろ自分のことは放っておいて好きにしてほしいと思っている。面倒事には巻き込まれたくないというのが本音だ。
邪魔する気持ちがこれっぽっちもないアリスは本来この魔導師コースに来るはずがなかった。しかしどこでゲーム補正が効いてしまったのか、アリスは物語通り魔導師コースに来てしまっていた。やはり物語の強制力は厳しいものなのだろうか。それとも他の何かがーー?
ーーーとまあこんな考え事をしていたら不思議に思ったオリオンに呼び戻されたのである。
「まあそんなに心配しなくても、原因はレイガー先生がつきとめてくれるだろ」
先程の件で心配になっていると思ったのだろうオリオンが励ましてくれた。いい子だな。でも原因……そうね私の悩みの方はあの先生ではつきとめられないと思うけれど。
「……そうだといいけれど」
何だか面倒事に巻き込まれていく感覚を覚えたアリスであった。
◆
アリスの予感は今回も当たってしまったようで、その後魔導訓練にて何度か魔法の暴走が起こった。
条件は2つ。アリリエスの周囲である事、そして主人公エミリアの側である事、この2つだ。
幸いどちらにも被害はないが、ここまでくると疑われるのは当事者2人……とはならず、むしろ率先して魔法の暴走を防いできた功績が讃えられ始めた。
最初はアリスによる圧倒的防御魔法だけだったが、だんだんと力をつけてきたエミリアが防御魔法を買って出るようになっていた。
「ーーーここまでくると流石に人為的としか考えられないわね」
優雅に、しかし儚げに頬杖をつくアリスの様子はたった今し方魔法の暴走の被害に遭いそうになったとはみえない程だ。そしてその横には正反対の様子の人物……
「私だけなら兎も角、アリス様にまで被害をもたらすなんて許せませんわ!」
頰を膨らませて憤慨するエリーちゃんは すっかりアリリエス派だった。最近の事件の所為で防御魔法の上達度が半端じゃない。最初は心配していたがそこは流石主人公、なんとかなったみたいだ。って……何が悲しくて主人公と仲良くせねばならんのだ。もう今更だけど!
「アリス様、私に考えがあります」
きらーんと目を光らせるエリーちゃん。こらこら、あなた主人公でしょ、だめよそんな顔しちゃ。そして嫌な予感しかないんだけど。
「……因みにどのような考えかお聞きしても?」
「ええ勿論です!私の考えはですね、ーーーー」
ーーーー。
うん、まあなんというか……真っ直ぐな彼女らしい計画だった。何のことはない、魔法の暴発の際に反対魔法を仕掛けるというものだった。まあ手っ取り早いよね、出来るものなら。
「一応申し上げておきますけれど、反対魔法とは仕掛けられた魔法以上に術者の魔力が大きくなければなりませんわ。それに、その魔法は確か上級魔法……私たちだけでは些か難易度が高いかと思われるのですが……」
尤もなアリリエスの言い分に、少々居心地を悪くするエミリアだったが、すぐに思い直すと表情を明るくした。
「私!たくさん頑張ります!それに、アリス様ならきっと出来ると思うのです!」
きっぱりと、且つ尊敬の念を込めて言うエリーちゃんだが、それは所謂丸投げというやつじゃないだろうか。
まあ、やられてばかりも癪であるしこのままでは公爵家令嬢の名が廃る。この際彼女の作戦(少々不安は残る)に乗るのはいいのだが……。
相手はどこの誰とも知らず、尻尾も掴ませないまま仕掛け続けてくる力の持ち主だ。油断はできない。
そう簡単に行くとも思えない……が、こちらには何せゲーム補正が効きそうな主人公が付いている。
それにちょっと忘れかけていたが、元々私はこの物語のラスボス。主人公ちゃんがこちらにいる以上、まだその時ではないだろうから然程心配することもない。ということはーー。
「まあ……何とかなるかもしれないわね」
アリスの言葉に目をキラキラさせるエミリア。いや、あなたの言葉に対してじゃなかったんだけど……まあいいか。最近おサボりしてきたが ここは悪役令嬢の見せ所だ。相手が若干……いやだいぶズレているし主人公と共闘みたいな感じになっているがこの際気にしないことにする。
「ーーこの際です。私たちに手を出したこと、後悔していただきましょう?」
にこりと、妖艶に微笑むアリリエスは声音こそ明るいが、言っていることには毒があった。
主人公に対して上手くいかなかった(然程やる気がなかったとも言う)悪役令嬢ぶりも、今回の事件に関してなら出来る気がする。
ーーさあ、漸く私も 今日から悪役令嬢だ。




