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29th 「嫉妬と羨望」

 翌日、朝一番でシリーニさんから呼び出しの電話をもらった。


「今ならドメーヌが居ないから、すぐ来てね♡」


 なんて言われて舞い上がらない男が居るだろうか? いや、いないっ!

 るんた、るんた、とスキップする勢いで部屋を訪ねてみると、


「よう来たな。はよ入れ」


 なぜにジジイが居る!? まさか、これが噂の美人局というやつかぁぁぁぁっ!?

 失意のまま室内に連行されると、そこには、皇太子殿下、いや、新皇帝か。それと、教皇たち十一人が勢ぞろいしていた。

アレ? ナニコレ、コノ、チンヒャッケイ!? ボクハイッタイナンノツミヲオカシタノ!?


「すまんな。緊急事態じゃけん。許せ!」


 ユルセ? ジジイを? ってか、


「どういうつながりぃぃぃぃっ!」


「シリーニ様は、先代の筆頭教皇であった方だ。未だ存命の方は、最早シリーニ様しかおられん」


 口パクパクしながら、シリーニ様の方を見やると、手を合わせて謝っている。その仕草といい、どう見ても今年入ったばかりの女子大生だ。もっとも、容姿のレベルが違いすぎるけどな。なるほど、この中じゃ、ドメーヌが居なくても当然か。


「それで早速だが、今、我々は命の危機にさらされている。 実は、昨日の飲料水劇物混入事件の原因だが、この会場内の井戸4箇所全てが毒物に汚染されていたことが判明した」


 ドーゼン猊下が、いま、なにやら大変なことをのたまった。


「つまり、我々八千人強の飲み水が一切無いと?」


 俺は、十一人の教皇と新陛下を見回しながら尋ねた。


筆頭教皇 ル=セッヅ 御年185歳の竜人族。この人の先輩って、ほんと、シリーニさんいくつ?

第二席  ダラ=スゥエイン 自由都市ウィーテスの元首長。温厚そうなお年寄りって感じだ。

第三席  仮面王 ソント=デル=サント 嵩天王国(こうてんおうこく)の仮面王か。強いらしいな。

第四席  リッキー=ドーゼン 薬指街道沿いの都市の統括者だ。

第五席  ジーン=キニスカヤ 唯一の女性、というか、ばーさまだな。先代の父の後継で一期限りだ。

第六席  ラス=コワルスキー こいつは商人出身だったな。金で地位を買ったと噂される人物だ。

第七席  ウィリエム=ミラー 陰気なんだよな。よく分からん人物だ。

第八席  ドン=リクスタイナー 鉱山ドワーフの親玉だ。大柄だが、ザ、ドワーフって感じだ。

第九席  ゼブラ=ザ=ヒガンテ でかいな。嵩天王国の出身らしいが、あちらには、普通にいるのか?

第十席  バリー=ルイス 彼は、エルフか。エルフの男初めて見たが、思ったより目つき悪いな。

第十一席 レイ=ハート ハート一家と呼ばれるグループで西部開拓している連中のボスだ。


 ふむ、と考えてみる。わざわざ俺を呼び寄せたのは、オフレコで何らかの頼みがあるからだろう。シリーニ様の部屋というのも、目立たないように配慮しての事だろう。皆真剣な顔つきで、そうとうヤバい気がする。


「それで、俺は何をすればいい?」


「話が早くて助かる。お前さんのアポートで水の工面できんか? あるいは、毒素の除去とか」


「アポートは、万能のお取り寄せ魔法じゃない。流石に八千人分は無理だ。あとは、毒素の除去だが、毒の内容は判明しているのか?」


「それは、私から」


第十席のバリー=ルイス氏が、挙手して話し出す。


「毒の内容は、苔の一種で、我々エルフの森に生息しているものだ。症状は、下痢、嘔吐、全身の衰弱、熱に弱く、摂氏80度あれば消毒できるが、まさか、井戸の水を全て汲み上げて消毒するわけにもいかない。都度煮沸するにしても、今度は燃料が足らん」


「神聖魔法の浄化は?」


「植物性というのがネックだ。生物に神聖魔法をつかうと活性化する。事実、犯人は、この毒に神聖魔法をかけた状態で井戸に投げ込んだと思われる」


「と、なるとやはり熱処理が一番確実か。熱、まてよ、あれが使えないかな?」


「何かあるかの?」


ジジイが聞いてきたが、取りあえず無視。


「ちょっと、部屋まで戻る。すぐ帰ってくるから」


 慌てて部屋に戻ると、みんな起きてた。


「どこいってたのさ?」


「教皇全員に囲まれてた。それよりも」


 俺はPHSの電源を入れると、剛力の番号にかける。呼び出しが十回、出ねぇ。更に十回呼び出しようやく不機嫌そうな声が出てきた。 


『朝っぱらから、何だい、何だい! 返答次第じゃ爆弾ぶちかますよ!』


「すまない。早速で悪いが、迷宮討伐の時の焼夷弾。手持ちがないか?」


『……今、二つだけ、持ってるよ』


「頼む。それ、両方売ってくれ!」


『訳ありかい? 急ぐなら、今なら何とかできるよ』


「助かる。ヒロシの所へ持っていってくれ。例の孤児院だ。ありがとう、じゃあこれで」


 ぴっ、と通話終了ボタンを押すと、今度はヒロシにかける。


「モシモシ、ヒロシか? 実はかくかくしかじかで、今から剛力が例の焼夷弾を持ってくる。それをいつもの棚に乗せておいてくれ。準備出来たら連絡よろー」


 ぴっ、これで準備はOKだ。


 程なくして、ヒロシから返事がきた。剛力が焼夷弾を持ってきたので、いつもの所に配置してくれた。

代金は、金貨一枚だけ受け取ったらしい。もっとふっかけてくるかと思ったが。




「準備できた。この爆弾を井戸に投げ込む。それで解決する筈だ」


「井戸が崩落して使い物にならなくなるんじゃないのか?」


 第八席のドン=リクスタイナー氏が訝しげに聞いてきたが


「衝撃を極力抑え、熱量に転換するタイプの爆薬だ。効果はロサで実証済だ」


 その一言に、ようやく安心したのか、教皇たちが安堵の溜息を出した。


「では、早速で悪いが、実行に移ってくれ。必要な物はないか?」


 筆頭教皇 ル=セッヅ氏が最後に聞いてきたので、


「井戸の傍に人が近づかないようにしてくれ。万が一水蒸気爆発があったら大やけどを負うからな」


 と、お願いして、実行に移る。




「3 2 1 点火」


 どん! と、音がして、30秒程井戸から湯が噴き出たが、直ぐに勢いは沈下していき、やがて、見た目だけは平常通りに戻った。早速、汲み上げて検査キットを使い水質をチェックする。

 温度 98℃ 

 酸性、アルカリ性、共に無。

 ポイズンチェック、問題無


「一応、大丈夫そうだが、他の井戸からも水質チェックしてくれ。それで問題無ければ大丈夫だ。なんなら、コーヒーでも淹れるか?」


 付いてきていたドーゼンのジジイに軽口を叩くと、ジジイは部下に指示してから、


「ご苦労じゃった。今回の件は、正式に褒賞を出そう。それと、次の集合時にお主の名前をだしてもいいかの?」


 ふむ、確かに俺へちょっかいを出そうとする奴は減るだろうな。後見人の俺が安全になれば、エルノス達の安全も確保できる。


「わかった。ちょっとだけだぞ。壇上にも上がらんからな」


「ええええっ! 言っておいて何だが、まさか了承するとは思わなんだ! 守るものが出来ると人はこうも変わるんじゃなぁ!」


「しみじみ言うな!」


「いっそ、アキナを嫁にとって正式に男爵にならんか? 手続きは全部やってやるから」


「ひー! 勘弁!」


 そこに、アフが俺に飛びついて来た。


「ちーちーうーえーっ!」 ぴとっ


 顔面に張り付かれた。


「お、おんし、まさか、妖精にまで手を出したんかぁぁぁぁっ!!」


「んなわけあるかぁぁぁぁっ!!」


 アフを引きはがしつつ抗議する。


「そんで、昨日から、何かなかったか?」


「あそこになにやらすてさったものがおりまするー」


 井戸にか? ビンゴ!


「魔法使ってなかったか?」


「つかってたー」


「で、お前はどうしたんだ?」


「みつかっておとされたー」


「どうやって出た?」


「みずのなかぷらぷらしてたらーばーんとすごいのがきてーどびゅーっとはっしゃしたー」


 さっきのアレか。熱湯に浸かっても何ともないとは、大概チート生物だな。


「お前のこと落とした奴の顔わかるか?」


「からりおならからーでしゅつりきかのー」


「よし、アポート!」


 USBケーブルをアフに咥えさせ出力。カラ○オは、ぎーこぎーこ動き出した。出来た画像をジジイに渡す。

 

「これが犯人らしい。身柄を押さえてくれ」


「こ、これが!? わかった。直ぐ手配しよう」


 男二人組、どちらもフードをかぶってるか。だが、衣装に特徴がある。下位貴族。俺らと大差ない衣装で、家紋が入っていない。と、いうことは、誰かの従者だ。下位貴族、従者となれば、黒幕がある程度名のある貴族という可能性もあるな。そろそろ、エルノスも心配になってきた。一度、彼のところに行きたい旨頼むと、了承してくれた。午後から予定通り所信表明をやるそうだ。大丈夫かよ。


「ああ、そうじゃ。最後に一つ聞いとかにゃならん事があった。アコちゃんの〝神託〟は、次いつ頃かのお?」


 やっぱ気になるか。まあ、この場で炸裂したら核兵器並の威力を持つからな。

「残念だが、丁度ロサで迷宮退治してた時に起こってる。当人の予想は後2、3日中には起こりそうだという話だ」


「ぬ、むむぅ……いや、わかった。後はそれまでに終わるよう努力するしかないかの」





 エルノスたちは、選管の人達に守られていて無事だった。と、いうか、ドメーヌがここの指揮をしていたらしい。最初彼女の名を聞き、流石に動揺していたらしいが、とりあえず遺恨をこの場に持ち込まない事で合意したらしい。それだけ聞いても、昨日の〝老害〟より立派なことだ。


「それで、次の演説だが、大丈夫か?」


「ああ、フッカー卿の指示通り、この場は通過するつもりでやる。それに、例のフランケル=ゴーディシュとやら、やはり食わせ物であったな。僕と手を組みたいと言ってきた。あ、それと僕派を名乗る連中が目通りを求めて来ていたぞ」


「もちろん、速攻追い返したけどな。このテリー様が」


「また、言葉!」


「あら、ごめんあそばせ。おほほほほ」


 やれやれ、こいつらの通常運転ぶりが頼もしいよ。俺も歳かねぇ。

 ドメーヌの方を向き、さっきの手配書(もう一枚出力した)を見せる。


「それで、こいつらが、昨晩の毒混入の犯人だ。井戸はもう大丈夫だが、犯人の心当たりはないか?」


「うーん、これだけでは難しいですわね。むしろ、犯人をおびき寄せるえさにしたらどうですの?」


 それもそうか。壁にでも貼っておけば、ここから逃走しようとするかな? そんな事を考えていると、


「そろそろお時間です。サバラン卿は、会場へ移動して下さい」


 と、御呼びがかかった。いよいよ所信表明演説か。エルノスは、ゴーディシュの後、4番目。なので、まだ二時間以上かかるはずだが。




 廊下に出たところ、一般審査員のエルノスを見る目がどうもおかしい。




「昨日の毒物混入もサバラン卿が仕掛けたらしい」

「聖女様の命を狙って、我々まで犠牲にしようとしたとか」

「いや、命を狙ったのは教皇猊下たちだそうだ」

「いずれにしても、反乱軍の息子が出馬なんておかしすぎるだろう」

「もっとおかしいのは、それに味方する奴があんなに居ることだ」

「父親の地盤を受け継いだだけの子供がそれを顎で使って思いのままかよ。世も末だぜ」

「いや、噂じゃ、あの聖ゴーリガンや神官様を味方につけて逆らう奴は皆殺しだとか」

「ひぇーっ! くわばら、くわばら」

「第一、なんであの餓鬼が、まだ生きてこんなところに出馬できるんだ? そこに不正があるからだろ」

「その通りだ! 不正に出馬したあのガキを殺せ! その後選挙は一次からやり直しだ!」

「そうだ! 不正に出馬したあのガキを殺せ! その後選挙は一次からやり直しだ!」

「そうだ、そうだ! 奴が不正だから俺が一次で落選したんだ。盗まれた選挙を取り返せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」

「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」「殺せ!」



 やばい!

 群集心理が、エルノスを害しようとしている。いまや、ホールにいる大多数の人間がエルノスが生きてる事こそ不正だ! と、思うようになってしまった。



「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 甲高い、ソプラノの少女の声で、うるせえ呼ばわりされた野郎共は、反論しかけて、その少女の神々しさに絶句した。


「お前たち! エルノスがどんな思いでここに来たか、知らないくせに、勝手なこと言うなぁぁっ!」


「エルノスが、ロサを守る為にどれ程心を砕いていたか、知りもしないで。あんな小さな体で出来ることを探し回っていた日々が嘘でなんかあるものか! それなのに、大人共ときたら、邪魔をするだけならまだいい方だ。中には、小使い稼ぎの為に俺たちごと殺そうとした神官戦士まで居たんだぞ!」


「聖女様とだって、親の仇だぞ! それと、和解して今回一緒に行動してるんだ。逆に言えば聖女様が、邪悪ではないと認定した相手が、お前たちには邪悪に見えると? お前たちは聖女様が間違っていると言う前提で話をしているけど、お前たちは聖女様よりえらいのか?」


「その子の言う通りですわ」


 ドメーヌが、テリーの後押しをしてくれた。


「今回、わたくしは、選挙管理委員として活動しておりますが、彼が一度とて不正に手を染める行為を行っていないことは、この聖ドメーヌの名において証明いたしますわ。むしろ、この選挙期間中に票固めの為に不正なお金のやりとりをしていた人が別にいました。老アシュフォード伯爵。あなたを選挙妨害、及び贈賄罪、そして殺人教唆の現行犯として拘束いたします」


 そう、言われてドメーヌの部下達にしょっ引かれて行くのは、あの〝老害〟だ。


「そ、そんな、馬鹿なぁぁぁぁっ! 儂が、この儂が、逮捕されるわけがないぃぃっ! ひひっ、そうだ、これは、夢、夢なのだ。本当の儂は、綺麗なお花畑で幸せにくらしとるんじゃぁぁぁぁっ!」


 そう、言いながら退場していく逝かれポンチは、最早、誰も一顧だにされなかった。


「さて、エルノス=サバランJr卿には、お早目に会場入りしていただきたい。そこな、者共よ。道を開けよ!」


 そうして、モーゼの十戒宜しく道を開ける人々。その中を威風堂々行進し、会場隣の控室に入ったエルノスを、最早非難するものなど居なかった。


 後の世に、戯曲の一場面として描かれることになるこのシーンこそが、

(セント)エルノス=サバランJrの誕生」

 である。



 

 次回予告


 既にお腹一杯のトラブルの果てに

 ようやく始まる所信表明演説。

 無難な前二人の後を受け、

 やはり、とんでもない爆弾しかけてきやがったのは、

 勿論、フランケル=ゴーディシュ!

 どうする、どうなる、この国の未来!

 次回 「戦争経済」

 今度は、男を見せる番だ! エルノス!

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