暗殺者、推しの生存確認に成功する
敏腕暗殺者である。
前回、推しを暗殺する仕事を受けた。
結果、肩を撃った。
方々から、怒られた。
だが推しは生きていた。
万歳。
以上である。
しかし、暗殺者にも生活があるし、推し活にも金がかかる。
暗殺者は今日も元気に暗殺の仕事を続けていた。
「仕事は仕事」
なお推し案件は除く。
ある日のことだった。
酒場で情報屋と話しているときに暗殺者は興味深い噂を聞いた。
「田舎に変な診療所がある」
「変?」
「身元不明でも治療する」
暗殺者の目が光る。
それは非常に重要な情報だった。
暗殺者は怪我をする。
かなりする。
普通の医者に行けば通報される。
それは困る。
すごく困る。
「場所は?」
情報屋が教える。
暗殺者は頷いた。
「下見だな」
暗殺者は仕事のできる男である。
もしもの備えは大切だった。
数日後。
暗殺者は問題の診療所付近に到着した。
木の上から周囲を観察する。
「ふむ」
平和だ。
平和すぎる。
怪しい。
こんな平和な場所で本当に裏稼業の人間を治療しているのか。
その時だった。
診療所の扉が開き、ひょこっと女性が出てくる。
金髪。
青い瞳。
優しい笑顔。
美人。
とても美人。
いや、そんなレベルではない。
暗殺者の呼吸が止まる。
「…………」
見間違いではない。
「…………」
もう一度見る。
「…………」
推しだった。
シャルロット・シッティンだった。
「うわあああああああああああああああああ!!!!!」
心の中で絶叫して、あまりの動揺で、危うく木から落ちかける。
「生きてる!!!!!」
知ってた。
知ってたけど。
実物だ。
生きてる推しだ。
しかも、
「なんか幸せそう!!!!!」
めちゃくちゃ幸せそうだった。
社交界にいた頃も綺麗だった。
だが今は違う。
柔らかい。
自然に笑っている。
なんだその笑顔。
心臓に悪い。
「尊い……」
暗殺者は木の上で拝んだ。
不審者である。
完全に不審者である。
その時、家の裏から金髪の青年が現れた。
暗殺者は脳みそをひっくり返す勢いで、金髪の青年について情報を持っていないか思い出す。
暗殺者は社交界に出ている人間なら、たいていの情報を持っている自信があった。
(……。こいつ、あの女遊びが激しいって噂の、クルル・アルベール子爵じゃないか?)
正解である。
暗殺者は、仕事については一流だった。
その金髪の青年は薪を抱えているシャルロットに話しかけた。
「シャルロット」
「なあに?」
「それ重いだろ」
「平気よ」
「平気じゃない」
自然に荷物を奪う。
シャルロットが少し笑う。
クルルも笑う。
「は?」
暗殺者は固まった。
「誰だお前」
知らない男だった。
少なくとも、社交界にいた頃に、2人が仲良くしていたなんて、そんなことは知らない。
それなのに、推しの近くにいる。
距離が近い。
なんか仲良い。
「誰だお前!!!!!!」
心の中で二回叫んだ。
すると今度は別の男が出てくる。
茶髪の男だった。
茶髪の方の男は、すぐに暗殺者の脳内検索でヒットした。
(オーウェン・ウィロウ。王都の王立学園で優秀な生徒で、将来を期待されていたのにもかかわらず、なぜか王都での生活を捨てて、田舎に引っ越した変人)
なんでそんな奴のところに、推しが、いるんだ。
「おーい、昼飯できたぞー」
「今行くわ!」
シャルロットが笑う。
また笑う。
めちゃくちゃ笑う。
幸せそう。
暗殺者は泣いた。
「良かった……」
推しが幸せそうだった。
もうそれだけで良かった。
だが次の瞬間、クルルが何気なくシャルロットの頭を撫でた。
「今日も頑張ったな」
「子供扱いしないでちょうだい」
少し照れたようなシャルロット。
「待て」
涙が引っ込んだ。
「待て待て待て」
推しが照れている。
男。
頭なでなで。
距離が近い。
「おい」
暗殺者は考える。
そして結論に至る。
「まさか付き合ってるのか?」
衝撃だった。
人生最大級の衝撃だった。
推しの恋愛。
ファンとしては複雑である。
だが、推しが幸せそう。
すごく幸せそう。
暗殺者は静かに空を見上げた。
「推しが幸せならそれでいい……」
少しだけ大人になった。
そして、数秒後。
「いや誰だあいつ!!!!!」
結局気になってしまった暗殺者はその日から、診療所周辺の監視を始めることになる。
なお本人は護衛のつもりだったが、実態はただの熱心な推し活である。




