#018 「美弥お姉様軍団」
翌朝の登校時間。まだチャイムも鳴っていないというのに、特別教室前の廊下は異様な静かな熱気に包まれていた。
「お姉様こそ至高ーーー!!!」
突如、女子たちの大合唱が天井に突き刺さる。
その声は揃いすぎていて、もはや応援というより儀式に近い。
廊下の中央には巨大な横断幕。《美弥お姉様ファンクラブ》の文字が赤く踊っている。
足元には整然と並ぶ手作り冊子の山。インクの匂いがまだ新しい。
「昨日の朗読、完全に書き起こしました!」
「模写もあります!」
冊子の表紙には、美弥の横顔イラストがずらりと並ぶ。光沢紙が蛍光灯を反射していた。
「……何これ」
想太が立ち止まり、顔色を失う。
「完全にカルトっぽい……」
はるなは無意識に半歩下がる。
その瞬間。
「お姉様……!」
女子たちの視線が一斉に集まった。人の波が左右に割れ、中央に一本の“参道”のような空間ができる。
美弥が歩くたび、周囲の空気がぴんと張り詰める。両手を合わせ、拝む者まで現れた。
「……もうやめて」
美弥は額に手を当てる。その頬がほんのり赤い。
「朗読CD出してくださーい!」
「目を合わせてください!」
声が幾重にも重なり、廊下の空気が震える。
「俺、お姉様軍団って名前が怖いんだけど」
想太が小声でつぶやく。
「完全に組織化してるな」
隼人は周囲を見回す。名簿らしき紙を配る係までいる。
「これは宗教的熱狂の典型」
要は冷静に状況を分析する。
「すごーい! 私もお姉様って呼んでいい?」
いちかが純粋な目で見上げた。
「あんたはそれが普通でしょ!」
美弥が即座にツッコミを入れる。
一瞬の沈黙。
そして――
「ツッコミまでお姉様!」
「本物すぎる!」
歓声が再び爆発する。
「違うって!」
美弥は完全に顔を赤くしていた。その照れが、さらに燃料になる。
「尊い……!」
「照れてるお姉様も尊い!」
女子たちは涙を浮かべ、誰かは本気でハンカチを取り出している。
「……無理だ、止まらん」
隼人が首を振る。
「統計的に、この熱狂はしばらく続く」
要は断言した。
そのとき――
黒服のSP新人が、人波をかき分けて現れる。ネクタイは曲がり、額には汗。
「……俺ら、もう警備じゃなくて信者整理ですよね?」
その一言で、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
「ほんとそれ!」
六人の声が重なり、特別教室の中だけが爆笑に包まれる。
だが廊下ではまだ、「お姉様ーーー!」というコールが、途切れることなく響き続けていた。蛍光灯の光が、揺れている。




