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灯野はるなは、名前を呼ばれ続けている(シリーズ3)  作者: 皆月 優
001_第一章「ファンクラブ大戦争」
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#017 「想太派の逆襲」

 昼休みの廊下は、昨日より明らかに密度を増していた。人波が壁に張り付き、掲げられた即席うちわが天井の蛍光灯を反射する。

 はるな派と想太派の声が入り混じり、空気はむっとした熱を帯びていた。


「はるな様は女神だー!」

 男子たちの声が揃い、床を踏み鳴らす振動が教室まで伝わる。


「想太くん最高ーー!」

 女子たちが負けじと叫び返す。声と声がぶつかり、まるで衝撃波のように廊下を震わせた。


「二番目でもいいからー!」

 そのコールが、波のように揃い始める。


「……二番目って何の基準だよ!」

 はるな派男子のツッコミが空を切る。


「関係ない! 想太くんは尊いの!」

 女子たちは一歩も退かない。押し寄せる熱気に、窓ガラスが微かに軋んだ。


「……やめろーーー!」

 教室の中で、想太が頭を抱える。


「なんでアンタまで人気あるのよ!」

 はるなの頬は完全に赤い。


「俺が聞きたい!」

 想太は半泣きで返した。


「もはや言葉の意味が崩壊してるわね……」

 美弥は腕を組み、冷静に観察している。


「こうなると止まらんな」

 隼人が深いため息をつく。


「混乱は指数関数的に拡大している」

 要の声は相変わらず落ち着いていた。


「二番って楽しそう!」

 いちかが窓越しに手を振る。


「お前までノリノリか!」

 想太が机に突っ伏した瞬間、廊下の歓声はさらに一段階跳ね上がった。


「はるな様!」「想太くん!」

「女神!」「天使!」

 足音と歓声が重なり、蛍光灯がかすかに揺れる。


「騒音レベルが規定を超えました」

 AI先生の無機質な声が流れる。しかし、その音は完全に飲み込まれた。


「……聞いてないな」

 隼人が苦笑する。


 ついに想太は耐えきれず、窓を勢いよく開けて身を乗り出した。

「俺は普通だーーー!!!」

 声が廊下を貫いた。


 一瞬。

 本当に一瞬だけ、廊下のざわめきが止まる。

 誰かが息を呑む音が聞こえた。

 次の瞬間。

「普通が尊いーーー!!!」

「想太くんの謙虚さ最高!」

 爆発。

 歓声が天井を揺らし、床がびりりと震える。


「……もうダメだ」

 想太は窓枠からずるりと崩れ落ちた。教室の中に、遅れて笑いが広がる。

 外ではまだ歓声が続いている。けれど、教室の空気だけが少し柔らかくなっていた。

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