#017 「想太派の逆襲」
昼休みの廊下は、昨日より明らかに密度を増していた。人波が壁に張り付き、掲げられた即席うちわが天井の蛍光灯を反射する。
はるな派と想太派の声が入り混じり、空気はむっとした熱を帯びていた。
「はるな様は女神だー!」
男子たちの声が揃い、床を踏み鳴らす振動が教室まで伝わる。
「想太くん最高ーー!」
女子たちが負けじと叫び返す。声と声がぶつかり、まるで衝撃波のように廊下を震わせた。
「二番目でもいいからー!」
そのコールが、波のように揃い始める。
「……二番目って何の基準だよ!」
はるな派男子のツッコミが空を切る。
「関係ない! 想太くんは尊いの!」
女子たちは一歩も退かない。押し寄せる熱気に、窓ガラスが微かに軋んだ。
「……やめろーーー!」
教室の中で、想太が頭を抱える。
「なんでアンタまで人気あるのよ!」
はるなの頬は完全に赤い。
「俺が聞きたい!」
想太は半泣きで返した。
「もはや言葉の意味が崩壊してるわね……」
美弥は腕を組み、冷静に観察している。
「こうなると止まらんな」
隼人が深いため息をつく。
「混乱は指数関数的に拡大している」
要の声は相変わらず落ち着いていた。
「二番って楽しそう!」
いちかが窓越しに手を振る。
「お前までノリノリか!」
想太が机に突っ伏した瞬間、廊下の歓声はさらに一段階跳ね上がった。
「はるな様!」「想太くん!」
「女神!」「天使!」
足音と歓声が重なり、蛍光灯がかすかに揺れる。
「騒音レベルが規定を超えました」
AI先生の無機質な声が流れる。しかし、その音は完全に飲み込まれた。
「……聞いてないな」
隼人が苦笑する。
ついに想太は耐えきれず、窓を勢いよく開けて身を乗り出した。
「俺は普通だーーー!!!」
声が廊下を貫いた。
一瞬。
本当に一瞬だけ、廊下のざわめきが止まる。
誰かが息を呑む音が聞こえた。
次の瞬間。
「普通が尊いーーー!!!」
「想太くんの謙虚さ最高!」
爆発。
歓声が天井を揺らし、床がびりりと震える。
「……もうダメだ」
想太は窓枠からずるりと崩れ落ちた。教室の中に、遅れて笑いが広がる。
外ではまだ歓声が続いている。けれど、教室の空気だけが少し柔らかくなっていた。




