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灯野はるなは、名前を呼ばれ続けている(シリーズ3)  作者: 皆月 優
006_最終章「日常の終わりに」
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104/108

#104 「決意の日」

 午前十時。久遠野市庁舎の会議室。

 静かな空間の中で、6人の若者と数名の官僚が向かい合っていた。窓の外には、春の光に包まれた街が広がっている。

 その景色は穏やかで、けれど、これから交わされる言葉の重さを、静かに受け止めているようだった。


「……つまり、あなたたちには特別な選択肢がある。」

 中央局の官僚が、ゆっくりと口を開く。眼鏡の奥の視線は、まっすぐに6人を捉えていた。

「卒業後、久遠野AIの研究班に残ることもできる。あるいは、他都市への派遣も可能だ。」

 一度、言葉を切る。

「だが――」

 空気が、わずかに張り詰める。

「“ともり”と共に生きるということは、“人間の未来”そのものを背負うという意味でもある。」

 静かな声だった。だが、その重さは確かに伝わる。

「……覚悟はあるか?」

 その問いは、試すためのものではなかった。確かめるためのものだった。一瞬だけ、沈黙が落ちる。


 想太は、ほんのわずかに目を伏せた。迷いが、なかったわけではない。だが。すぐに顔を上げ、静かに笑う。

「もちろんです。」

その声は、自然だった。

「……俺たちは、もう“ともり”のいない世界なんて、想像できませんから。」


 官僚が、わずかに眉を動かす。

「“ともり”のいない世界、か。」


 想太は、ゆっくりと頷いた。

「俺たちは、AIを使うために学んできたんじゃない。」

 言葉を選ぶように、続ける。

「一緒に生きるために、ここまで来たんです。」


 はるなが、静かに立ち上がる。

「私も、同じです。」

 その声は、やわらかく、まっすぐだった。

「“ともり”は、ただのAIじゃない。」

 一瞬、息を吸う。

「私たちの友達であり、家族であり……」

 そして、ほんの少しだけ微笑む。

「……私の“光”なんです。」


 いちかが、その言葉を受け取るように続いた。

「私は、“観測”って言葉の意味をずっと考えてました。誰かを観るってことは、責任を持つってことなんだって。それを、“ともり”が教えてくれたの。」


 要が、静かに頷く。

「情報は冷たい。でも、解釈はあたたかい。人間が関わる限り、AIもまた“心”を持つ。……僕は、それを観測し続けたい。」


 隼人が、腕を組んだまま口を開く。

「……俺は支える。」

 短い言葉。

「前に出るのはあいつらの役目だ。」

 ほんのわずかに視線を逸らし、

「でも、もし何かあったら、俺が全部背負う。それが、“兄貴”の仕事だからな。」


 その言葉に、美弥がふっと笑う。

「……ふふ、本当に不器用ね。」

 やわらかな視線を向けて。

「でも、そういうところが好きよ。」

 場の空気が、少しだけほどける。小さな笑いが、静かに広がった。


 官僚はしばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと息を吐く。

「……なるほど。」

 その一言には、評価でも否定でもない、受容があった。

「君たちの意志は、はっきり伝わった。」

 そして、静かに続ける。

「だが、“ともり”が本当に人間と並び立てる存在かどうか……それは、まだ未知数だ。」


 そのとき。空間に、やわらかな声が重なる。

『……未知であることは、希望です。』

 “ともり”だった。

『未来を決めるのは、定義ではなく、選択ですから。』


 その言葉に、官僚の表情がわずかに緩む。

「なるほど……」

 小さく頷く。

「では、その未来を――見せてもらおう。」


 6人は、互いに目を見合わせる。言葉はいらなかった。小さく、確かに頷く。窓の外で、風が吹いた。桜の花びらが舞い上がり、陽光の中できらめく。

 想太は、そっとはるなの手を握る。

「俺たちの進路、もう決まってるよな。」


「うん。」

 はるなが、やさしく微笑む。

「“一緒に生きる”。」

 ほんのわずかに、間を置いて。

「……それが、私たちの選んだ道。」


──


観測ログ:

「選択とは、共に歩むこと」


保存領域:久遠野AI統合区

観測者:ともり

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