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赤松円心

登場人物

新田義貞(五領徳業):主人公。新田義貞に転生して、犬死人生を回避するため悪戦苦闘する。物語開始時33歳

祟り神(新田義貞の怨霊):ネズミや天狗を使役することができる

新田義顕:新田義貞の子、16歳

脇屋義助:新田義貞の弟、32歳

脇屋義治:脇屋義助の子、11歳

船田義昌:義貞の執事

新田四天王:栗生顕友、篠塚重広、畑時能、由良具滋

保子・知子・宣子:義貞の妻たち

安藤聖秀:義貞の正室保子の伯父

赤松円心:与えられた恩賞が佐用庄一カ所だけだったことに強い不満を持っている

世尊寺尹子:世尊寺経尹の娘で勾当内侍と呼ばれている

元弘三年八月七日


「義助、戻ったぞ。今後の方針について話し合いたいから、義顕・義治と主な家臣らを集めよ。あと、世尊寺家との同盟の証に尹子殿を預かってきたので、彼女の部屋を用意してくれ」

世尊寺家から壬生寺に戻った俺は、早速弟の義助に指示を出した。

「尹子殿を連れてきたのですか?だとすると、兄者の色ボケはまだ治っていないのか・・・」

「いいや、俺はもう大丈夫だ。お前には、特に心配をかけて本当に申し訳ない。ところで話は変わるが、赤松円心殿は今何をしているか分かるか?」

「赤松殿は恩賞に不満を持っていて、今日明日にも自領の佐用庄(兵庫県佐用郡)に帰るともっぱらの噂です」

「じゃあ、俺はちょいと赤松殿の所へ行ってくるから、お前は俺が戻るまでに家臣や一族の者どもを集めておいてくれ」

「承知しました」

ということで、赤松家の宿所へと急ぐ俺。

赤松円心は播磨国の土豪で、俺は播磨国司だからな。

何もしなければ、播磨国は円心に押領されるであろう。

であれば、こちらから先手を打って円心に播磨国を任せ、赤松家を新田側に取り込むに如くはなしってね。

そんなことを考えていると、赤松家の宿所に到着した。

取り次ぎの侍に用件を話すと、すぐさま客間へと通された。

客間では、円心とその息子3人が俺を待ち構えていたのだが、条件闘争とか面倒くさいので俺は単刀直入に用件を述べた。

「えー、俺は先の除目で播磨国を賜ったが、播磨国を治めるための知識・経験・人材など何も持っておらぬ。そこでだ、俺に代わって赤松家の誰かに播磨国を治めてもらおうと思い、こうして今日お願いに参った次第だ。どうだ、引き受けてはもらえないだろうか」

「つまり、我らに義貞殿の家臣になれと、そういうことですかな」

円心の発言に対しては、『形だけだ』と答えておいた。

「円心殿、播磨国は貴殿の好きなように治めてもらえば良い。俺に、国司の取り分を納める必要も無い。俺が求めるのは、造船のための用地買収と新田水軍の育成に協力してもらいたいということだけさ。確保した土地では、船以外にも様々な品物を作る予定だから、そいつを赤松殿に売ってもらえると、こちらとしても助かる」

円心は、新田家の家臣になるか、自力で播磨国を手にするかで悩んでいるようだ。

一方、息子たちは『形だけの家臣で良いのであれば』と、俺の提案に乗り気であった。

赤松家としても、いきなり後醍醐帝の新政権に喧嘩を売るような事態だけは避けたいようだ。

「まあ、いきなり返事は求めないけど、できれば早めに連絡を頂けると助かるかな」

そう言い残して、俺は帰路に就くのであった。

次は、今後の方針の打ち合わせだー。


評定(元弘三年八月七日)


赤松家との話し合いを終えて宿所の壬生寺に戻る俺であったが、義助には『遅い』と怒られてしまったよ。

すまん、すまん。

えー、大広間には既に新田一族と主要な家臣たちが集まっていたので、早速俺は現状分析と今後の方針について話し始めた。

「新田家は恩賞として上野国・越後国・駿河国・播磨国の四カ国を賜ったわけだが、播磨国は我らの本拠地から遠く離れており、国内には元守護で倒幕に功のあった赤松家という勢力も存在する。現状のまま、新田家の人間が播磨国に乗り込めば、新田と赤松の間で戦争になるのは容易に予想できるであろう。そこでだ、播磨国は赤松家に任せるかわりに、造船のための用地買収と水軍育成に協力してもらうという条件を、つい先ほど赤松家に提示してきたわけだ。下手に戦争を起こして朝廷に播磨国を没収されるくらいなら、いっそ播磨国は赤松家に任せて、赤松家を新田家の味方にした方が良いと思うのだが、皆はどう考える?」

俺の問いかけに対し一部の者は難色を示したが、最終的には『殿に従います』と賛成してくれた。

まあ、俺の意見が比較的スムーズに通る現状はやり易いけれど、この前みたいに俺がおかしくなると、組織が回らなくなるのが問題だよな。

義助・義顕・義治には、今まで以上に勉強に励んでもらうとしよう。

話を戻す。

「上野国・越後国の目代は安藤聖秀に任せ、引き続き農業改革や金山城築城などを頑張ってもらおうと思っている。聖秀には、フミで指示を出すとしよう。そして、義助が賜った駿河国だが、実はかなり有望な金山(富士金山:静岡県富士宮市)があるのだ。今の内に金山衆を派遣して、少しでも多くの金を集めるのが良いのではないかな」

「「「ははー、殿のお考えには一分の隙もありませんな」」」

うーん、こんな感じで全て受け入れられちゃうと、逆に心配になってくるよな。

こいつら、思考停止しているんじゃないかってね。

誰か、まともな意見を言ってくれー、なんてことを考える俺であった。

「(由良)具滋には、今までの火薬生産に加えて情報収集も任せる。全国各地に忍びを放ち、様々な情報を集めるのだ」

「ははっ、承知しました」

「(船田)義昌、おぬしは此度の官位の礼として、朝廷にガラスの器を献上しておいてくれ。あと、播磨国の造船用地買収と水軍育成についてもおぬしに任せたいのだが、可能か?」

「それがし一人では不可能にございます。播磨国の事については、弟の(船田)経政に任せるのが良いかと思います」

「分かった。播磨国には船田経政を派遣するとしよう。それでだ、今後我らには武者所(皇居の警備や京の治安保持にあたった機関)の仕事とか回されるはずだから、我々は公務をこなしつつ、新商品を開発して研究開発費や軍資金を集めるとしよう。朝廷や公家の情報収集については、世尊地家に任せるつもりだ。基本はこんな感じで、問題があればその都度修正しよう。この意見に賛同する者は挙手してくれ」

俺の発言が終わるや否や、ここに集められた者全員が挙手した。

こうして、俺の意見は新田家の皆に受け入れられたのだった。

あとは、官位を貰ったら祝賀会を開催しなければならないのか。

まあ、梅酒・うな丼・ざるそば・天ぷら・どら焼きなどで客をもてなせばよいか。うーん、結構面倒だが、まあ仕方ない。

そんなわけで、貴族や武家に未来の料理を披露したのだが、俺の予想以上に好評で、万里小路藤房や洞院実世、二条良基(まだ13歳)らは、うな丼をおかわりしまくっていたよ。

うーん、料理で人脈作りをするのも良いかもしれんな。


◇安藤聖秀視点◇

義貞殿から、わしを上野国・越後国の目代に任ずるとのフミが届いた。

六月に新田荘の目代になったと思ったら、二ヶ月後には上野・越後二カ国の目代か。

状況の変化が激しすぎると思うが、これも変革期ゆえのことなのであろう。

わしも、時代に取り残されぬよう、努力せねばならぬか。

文には、農業改革・金山城築城・醤油や麦芽糖の製造工場作りなど、多くのことが書かれていた。

農業改革については、米や椎茸の増産だけでなく、木綿栽培や養蚕法の改善も付け加えられていた。

木綿は来年の4~5月頃に種まきをすれば良いとして、問題は養蚕だ。

通常、年に1回しか飼育できない蚕を、風穴を利用して蚕種を冷蔵保存することで年4~5回飼育できるようにして、生糸の生産量を4~5倍にするように、とのこと。

風穴は、榛名山東麓に冷風の吹き出す場所があるから、そこに小屋を建てて蚕種を貯蔵するように、か。

風穴を利用した蚕種の冷蔵保存については、飽間氏の3人にやらせるのが良いかな。

醤油・麦芽糖の製造工場については、上州屋清兵衛に任せるとしよう。

新田金山城については、コンクリートで多数の堡塁を作り、そこに青銅砲・投石機・連弩を据えて攻め寄せる敵を攻撃すれば難攻不落の城となる、か。

投石機で投擲するものとしては、石や焙烙玉だけでなく、火炎瓶も用意したらどうかと書かれているな。

ふむふむ、設計図を見る限り、投石機と連弩は簡単にできそうだ。

火炎瓶も、越後国で産する臭水をランビキで蒸留し、それを瓶に入れて布で封をすれば完成か。何とかなりそうだな。

一番の問題は反射炉か。費用は、総工費・諸経費合わせて七千三百十一両(約9億円)かかるらしいが、そんな金がどこにあるというのじゃ。まあ、耐火煉瓦を少しずつ作っていくしかないかな。

それにしても・・・、仕事量の多さには閉口するが、義貞殿はわし以上に仕事が集中していて大変なのであろうな。

ここまで来れば、行き着くところまで行くしかないか。

義貞殿、老いぼれのわしも協力してやるから、民が自身の望む生き方を選択できる選択肢の多い世というものを、わしに見せてくれ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


◇保子視点◇

義貞様から文が届きました。

早速、知子様・宣子様とともに読んでみることとします。

「義貞様は、従四位上左馬助に任じられて上野国と播磨国を与えられたそうですよ」

「義助様は駿河国司、義顕様は越後国司ですか。保子様、義顕様のご出世おめでとうございます」

「それにしても、このようになるとは数ヶ月前には思いもよりませんでした」

「本当に。長楽寺再建のための資金集めに四苦八苦していた頃を思うと、夢のようです」

「このまま天下が鎮まればよいのですが、まだ一波乱も二波乱もあるのでしょうね」

「「・・・・・」」

「話は変わりますが、ここを読んでください。義貞様は、世尊寺家と手を組むことにしたようですね。それで、同盟の証として世尊寺尹子様を預かることになったとか・・・」

「「これって、尹子様が義貞様の京都妻になったということですか?」」

「尹子様は出家して尼になったとも書かれていますが、状況が良く分かりませんね。フミを持ってきた使者に、よく問い質してみましょう」

「「それがよろしいかと思います」」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


◇世尊寺尹子視点◇

気が付いたら、新田家に引き取られて尼になっていました。

しかも、怨霊の呪いで死ぬところを義貞様に助けていただいたとか。

あまりの境遇の変化に驚くことしかできません。

怨霊に操られていた時のことは、ぼんやりとですが記憶に残っております。

そう、わたくしは義貞様を篭絡して操り人形にしようとしたのでしたね。

そのことを考えると殺されても文句は言えないのに、義貞様はわたくしを熱心に看病してくださいました。

どうやって、この恩に報いれば良いのでしょうか。

新田家は料理が美味と伺っています。

体調が良くなったら、料理人として新田家の厨房に入るのも良いかもしれませんね。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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