束の間の平穏
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黒龍が現れてから十日経つが奴は寝ぐらから動こうとしない。こちらとしては、このまま大人しくしてもらう方が良いのだが、傷も癒えているはずなのに奴が大人しくじっとしているのは、何と言うか不気味な感じである。
「いっそのこと、こちらから打って出た方がいいんじゃないか?」いい加減ドックで引きこもっているのに飽きたのか、ギオルギーネがそう言いだす。
「ラングレストをどうにかしないと、奴を倒すわけにはいかないだろう」俺はシュバルツの剣を躱しながらグライドの機体をシュバルツに近づける。
「黒龍が死なない程度に痛めつけてやればいいんじゃないか」ギオルギーネが言う。
俺はシュバルツが上段から振り下ろしてきた剣を捌き、肉迫した状態でシュバルツの剣を奪い取った。剣は一旦、背中に担ぐ。剣を奪われたシュバルツは一度距離を取り、こちらの様子を伺う。
「そう都合よくはいかないさ。万一殺してしまったらラングレストが噴火するんだぞ。実際、前回の戦いで奴にとどめを刺さずに済んだのは本当に幸運だった。もし殺していたらと思うと冷や汗が出るよ」
「う〜む…」ギオルギーネが唸る。
「とは言え、ずっとこのままでいる訳にもいかない」
俺はそう言うと、グライドの背中に背負ったシュバルツの大剣を地面に突き立てた。
「お、おい。大事な剣なんだぞ。もっと丁寧に扱えよ」自分の愛剣を乱暴に扱われギオルギーネが文句を言う。
「訓練とは言え、自分の武器を簡単に奪われる、お前が悪い」
俺とギオルギーネはドックの中にある訓練場で模擬戦を行なっていた。何度か戦ってみて判ったのだが、ギオルギーネのグライド操縦技術はまだまだ未熟である。そのため暇があれば、このように模擬戦を行うようになっていた。
「しかしこんな訓練場まであるなんて凄いな。もはや、ドックというより秘密基地だな」俺がそう言うと。
「本当だな。部屋は一流ホテル並みに快適だし風呂にはジャグジーまであるもんなあ」ギオルギーネが呆れたように言う。
「内風呂だけじゃなくて、大浴場もあるぞ。おまけに、広間でピンポンも出来る」
「なんだよそれ(笑)どこかの旅館かよ」
「お気に召されたようで何よりです。主の趣味に合わせて作ったので」雪風がちょっと皮肉っぽく言う。
「あ、ああ。昭和っぽくていいよな」急に現れた雪風に驚き、取り繕うように話す。
「ところで何か用かな?」俺が言うと
「ドーントレスの修理がある程度終わったので試験飛行を行いますが、皆さんも一緒にどうかと思いまして…」
「行く行く。今準備するから待ってて」ギオルギーネが嬉しそうに言う。
「俺も行くよ」
「それでは格納庫の方へどうぞ」
俺達が格納庫に向かってゾロゾロ歩いて行くとギオルギーネが思い出したように言う。
「なあ、雪風。ラングレストを噴火させないようにする、いい手段はないのか?」
「現状ではラングレストの周辺も含め硬化剤を使用し固めてしまうのが一番確実です」
「でも、その方法だと二年くらいかかるんだろう。もっと早く出来る方法はないのかな?」
「う〜ん、そうですねえ。マグマ溜まりからラングレストに向かう溶岩の流れを、止めるか変化させれれば良いのですが…。途中の地脈を調べて流れに巨大な杭でも打ち込むしかないですねえ」雪風が答える。
「なんだ、いい手があるんじゃないか。なんでその方法でやらないんだ?」
「杭を打ち込むための機械がないからです。五十mくらいの太さの杭を2〜3kくらいの深さまで打ち込まないといけないのです」
「そうなのか…あっ」
「ふむう〜… ん?」ギオルギーネも気がついたようだ。
俺は雪風に言った。
「杭の代わりになる、良いものがあるぞ。おまけに機械など使わなくても自力で地面に潜ることが出来る」
「そんな都合の良いものが…、あっ。まさかドーントレスを杭にするつもりでは?」
「正解!」
「無茶な事を言わないで下さい。ドーントレスをそんな事に使うなんて出来ないですよ」雪風が慌てたように言う。
「確かに勿体無いかもしれないが、この方法なら今からでも黒龍を倒しに行ける」
「しかし…」雪風はまだ躊躇している。
「取り敢えず今は、こんな方法もあるって事を理解すれば良いんじゃないか。緊急時に使える手段って事で」俺がそう言うと、雪風のホログラム映像は渋々と言った感じで頷いた。
俺達がドーントレスの格納庫に着くと、そこには既にゼクトールとユリーシアが待っていた。
「なんだかんだで全員集合しちゃったな」
俺が笑いながらそう言うとゼクトールは何時もの曖昧な微笑を浮かべ、ドーントレスを見上げた。
「ドーントレスの修理もほぼ終わり、余裕が出来たのでちょっと作ったものがあります」雪風がそう言うとドーントレスの昇降口のハッチが開き中から歩いて出て来る人物があった。
「おい、これは」
「私が遠隔操作出来るロボットです。外見は私のイメージをそのまま使いました」
「驚いた。雪風のホログラムイメージそのものだねえ。普通の人間のように見える」ギオルギーネが言うと。
「やはり操作できる体がないと色々不便だったので」雪風のロボット体が言った。
「こいつ、喋るぞ」とギオルギーネ。
「当たり前じゃないですか。私もこんな体が欲しいな」エリシエルが言う。
「あ〜、そうそう。他にもこんな物も作りました」そう言って雪風のロボット体、いや面倒なのでこれを雪風と呼ぶ事にしよう。雪風は一着のスーツをユリーシアに渡した。
「これを私に?」とユリーシアが言うと
「ユリーシア用のパイロットスーツです。すみません。もっと早くに作って渡したかったのですがアーメスの改修に時間を取られて、中々時間がなかったので雪風に頼んで作ってもらいました」エリシエルがそう言った。
それは俺の着ているパイロットスーツとよく似た、ごくごく普通のスーツに見える。エリシエルと違って雪風は変な悪ノリをしたりしないようで、作ったスーツも当たり前の物の様である。
「では皆さん乗船して下さい」雪風はそう言ってドーントレスのハッチを指し示した。
ドック内においてはホログラム投影機があちこちに設置されているため、雪風が何処にでも現れることが出来ます。グライドの訓練中にいきなり現れて景一が驚いたりしています。
しかしドックの外や、ドーントレスから離れた場所では雪風が登場しにくいので、今回雪風のロボット体を作る事にしました。
元々はエリシエルに遠隔操作用のロボット体を作るつもりでしたが、話の中ではエリシエルには特に必要なかったため自分が使えるグライドを持たない雪風にロボット体を与える事にしました。
これで話の幅が少し広がれば良いのですが…




