観測者
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「やあ、雪風。久しぶりだな」アルカイックスマイルを浮かべたゼクトール王子は雪風に語りかける。
「二百年を久しぶりと呼んで良いのか私にはわかりませんが」雪風が答える。
「ちょ、ちょっと待って。これは一体どう言うことだ」困惑した俺は二人に質問する。
「正直、私にもよくわからないのですが、ゼクトールは二百年前主の友人だった男です。当時異世界から転移して来た主に対し、恐れたり不信感を持たずに付き合っていた数少ない友人の一人でした」
「だがそれは二百年前の話だろう。子孫かもしれないじゃないか」
「私も初めはそう思いました。もしくは他人の空似かと。ですが余りにも似すぎている。そして本人もその事を認めているようです」
俺達の話をニヤニヤと笑いながら聞いていたゼクトールは
「皆さん私に興味津々のようだね。喜ばしい。だがこんなところで話す内容ではないだろう。私の屋敷にこないかね。謹んで招待するよ」
「招待と言われても、私の本体はこの空中戦艦内にあり、戦艦から余り離れて会話することなど出来ません」と雪風。
「彼が持っている通信端末経由で話せば良いじゃないか。彼だけじゃなく、そちらのお嬢さん達もご一緒にどうぞ」
とゼクトールはギオルギーネやユリーシア達の方を見る。
「お、おい景一どうすんだよ」会話についていけないギオルギーネが慌てて俺に尋ねてくる。
「行くしかないでしょうね。私にもちょっとした縁がありますから」とユリーシア。
「わかった。すまないが神楽坂の端末に同期させてくれ。ホログラム機能も使わせてもらうと有難い。姿があった方が会話しやすいだろう」雪風がいう。
「それは構わない。だがどうやって移動する。馬を使っての移動じゃ時間がかかりすぎる」
「馬は置いて行きますよ。おい、誰か」ゼクトールがそう言うと、何処からか現れた使用人が馬を引いていった。ゼクトールはそのままシュバルツの所まで歩いていき、軽く手をかけるとシュバルツの肩に飛び乗った。
「私はここで大丈夫です。さあ、行きましょう」
「驚いたな。なんて身が軽いんだ」俺が言うと
「彼は昔からこうでした」雪風が答える。
ユリーシアもアーメスに乗せ、ゼクトールの案内で屋敷に向かう。
彼の屋敷は小高い丘の上に建てられた、思ったより地味な感じの建物だった。まあ地味とは言ったがお金をかけるべき所にはお金をかけているのだろう。見えないところにお金をかけるのが、真の金持ちらしい。
アーメスとシュバルツを中庭に降ろすと使用人達が慌てて駆け寄ってくる。
それには目もくれず、シュバルツから飛び降りたゼクトールは俺達を屋敷の中に案内した。
「この部屋でいいだろう。おい」ゼクトールは使用人の一人を呼びつけた。
「何か飲み物を」
「かしこまりました」お辞儀をして使用人が足早に去って行く。
「まあ、適当にかけてくれ」とゼクトールが言うので俺達はてんでに席を選ぶと椅子に座る。
椅子に座った俺は端末のホログラム機能を使い雪風のイメージを表示させる。
ドアをノックする音がして、「失礼します。お飲物をお持ちしました」と言ってさっきの使用人が入ってくるが一人、人数が増えていることに気がつく。
「ああ、彼女のことは気にしないでいいよ。映像だから」
ゼクトールがそう言うと、「し、失礼しました」と言って持ってきた飲み物をテーブルの上に置くと使用人は部屋から出ていった。
「済まないね、気のつかない使用人で」などとゼクトールが言うが、普通ホログラムで一人増やすなんて事わかるはずもない。
「そろそろよろしいでしょうか」
「雪風は相変わらずせっかちだね。ああ、勿論質問してくれて構わないよ」
「貴方は二百年前、主の友人だったゼクトール本人で間違いないんでしょうか?」
「ああ、その通りだよ」
「では何故二百年間、歳をとっていないのですか?」
そう雪風が問いかけると
「君は神を信じるかい?」
なんだ?急に宗教勧誘してる人みたいな事を言い出したぞ。雪風も面食らっている。
「う〜ん、色々面倒な事を説明したくないのでぶっちゃけて言おう。私は神の使者、不死者なのだよ。この世界の観測者として人類を見守っている」
「は?どう言う事」
「だから私は神の使者なんだよ」
言った言葉はわかっても、その内容が理解出来ない、っていうか理解する事を拒むってことがあるんだな。
時間をかけて、その内容が頭に染み込んでくるのを待つ。
「え〜っと、宗教の勧誘ならお断りです」
雪風もだいぶ混乱しているようでおかしな事を言い出す。
「別に信者になれとは言っていない。そもそも私はこの世界の観測者としてここにいるだけで、宣教師でもなければ布教者でもない」
「だいたい、神の使者とか言っても信じられないですよ」
「まあ、そうだろうな。私は君達の質問に答えただけだ。別に無理に信じてもらう必要はない」
「ふむう」
「君達のようなイレギュラーはこの世界にどんな影響を及ぼすかわからない。神の力を持つ私でも異世界から来た者には力を及ぼすことが余り出来ないのだ。だから君達を調べ、もしこの世界に悪影響を及ぼすのなら排除しなければならない」
「俺達を殺すって事ですか」雪風達の会話に俺は口を挟んだ。
「そんなことはしない。元の世界に送り返すだけだ。私が君達に出来るのはそれくらいだ」
「主に近づいたのもそのためですか」雪風がきつい表情でゼクトールを睨むようにして言った。
「そうだ」
「私達には貴方の正体を明かしたのに、主には言わなかったのは何故ですか」
何故かゼクトールは辛そうな顔で答えた。
「橘にとって私が数少ない親しい友人だったのと同様に、私にとっても橘はかけがえない友人だった。彼とはごく普通の人間同士の友人として付き合いたかった。彼を騙すつもりはなかった。それだけだ」
雪風は複雑な表情をしていたが、ため息を一つつくと顔を起こし「いいでしょう。貴方を信じます」
かすかな笑みを浮かべ雪風はそう言った。




