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漆黒に映る  作者: 夏雪
一章
9/12

7─変化(物理)と、女の常識

読んでくださり本当にありがとうございます。


更新停滞が長引いてしまい、本当に申し訳ありません。

お待たせしました、再びリル視点からです。

人によっては不快になられる方もいらしゃるような表現があります。ご了承ください。



…る……リル………おき…リル、「リルっ」



はっ、ばちり。

いつの間にか横向きになっている世界。顔の下に置かれた手。…どうやら、寝落ち、していたらしい。視界に映る窓の外は暗く、時間が経過していたことを顕著に伝えていた。


リル。

もう一度その名を呼ばれて、起こされたこと、その声の主──フィオさんが居ることを思い出して、目を2、3度擦って、むくりと上半身を起こした。

首を動かすとその人は居た。……それだけじゃないことに気づいて、表には出さなかったものの、動揺した。

…何というか…、混乱しすぎてカラフルって感想しか出てこない…。


「起こしてごめんな?でも、寝落ちなんて珍しいね」

「あ、いえ、寧ろ起こしてくれてありがとうございます…。まさか寝落ちするとは思わなくて…、…あの、その人達は、」

「うん、ちゃんと説明する。先にリルのこと紹介させて?」

「自分でします」


私の言葉に、後ろのカラフルな人達に口を開こうとしていたフィオさんが目を瞠る。

自己紹介くらい、自分でしないと。それくらい、当然の礼儀だ。…それに、この部屋に来て、フィオさんが何も言わないどころか好意的、ということは、同じギルドの人達なんだろう。

目尻を下げて柔らかな目になったフィオさんは、分かった、と柔らかな声色で言ってくれた。じゃあお願いしようかな、と続けて言われ、こくりと頷いて───その人達をまっすぐ見て、口を開いた。


「初めまして、リル、です」


ぺこり、軽く会釈をすると、その中の一人、緑色の目と髪(目は緑というよりは黄緑色に近い)をした人が、一歩前に出て、口元に笑みを携えて、笑っているけれど笑っていない目で、すっと左手を差し出してきた。


「初めまして、俺はセスロカ。ここのプレマだよ」


セスロカ、セスロカ…

彼の名前を頭の中で復唱してみるけれど、発音が少し難しい。うまく発音できるだろうか…、まあ、名前を呼ぶほど親しくなるとは思えないし、大丈夫だろう。

……ん?

…今…、プレマ、って?

プレマ、プレマって確か…、ギルドのボス、トップのことってフィオさんは…

え。

…この人、が?

もっと年齢が上で(大体壮年の白髪のおじいさんくらい)、しっかりしてる人かな、と想像してたけど(お世辞にもしっかりしているようにはあまり見えない)…、意外、だ。


どうも、と差し出された手を握る。

…うん。

()()()()()()と同じくらいの肉体年齢だろう、と思われる男の人の手も、今はその時以上に大きく感じる。


───こちらの世界に来て、一番受け入れ難かったのは、私自身の()()()()だ。

目を覚ました翌日の夜、入浴することになった時、妙に全てのものが大きく見えた。お風呂場にあった鏡を見た時、声にならない悲鳴を上げた。

自分の身体が、幼退化していた。

何故、どうして。その謎が解明されたのは、時間軸のことを教えてもらった時。元の世界との時間の差が、物理的に表れているのだ、と。元の世界では19だったけれど、軽く計算して、この世界では11歳になるようで。…フィオさんの子ども扱いにも、納得してしまった。


だから今も、そういう、まだまだ幼く青い子どもを相手にするような態度や視線なんだろう、と、思った。

…因みに、その体の異変のことはフィオさんにも言わないでいる。言ったところで混乱を招くだけなのが目に見えているから。


「…君の目と髪は、美しいくらいに真っ黒だね」


…息をするように向こうの世界では口説いているのか、と突っ込まれそうな言葉を言われた。うん、まぁ、先にそういう世界だって知ってたから、動揺はしない。

それに。


「あなたには美しく見えているんですね」


この黒を見て、そう言う人を初めて目の前にした。私自身、この色を良い方に捉えたことがない。呆気にとられたのか単純に力を弱めただけなのか、握る手から力が抜けていくのが分かって、するり、手を離して、下ろした。


「リルちゃんは違うんだ?キミにはどう見えてるの?」

「リルでいいです」


どう見えてる、か。

…分かった、と私の言葉にそう返した彼に、気色悪かったな、と頭の片隅で思ったことは心の中に留めておくとして、そうですね、と呟くように相槌を打つ。

この色が、この黒が、どう見えているのか。

私の、この目に。

嫌いではない。決して、好ましく思っていなくとも。それは、これを‘美しい’という形容以外で褒めてくれた人が、居たから。

…けれど、私は。

それでも、私には。


「都合のいい色に、見えます」


この黒が、漆黒が、狡猾に見えている。

あの世界でかつて、あの国を治めていた、かの有名な将軍でさえ、その狡猾な頭脳を持っていたのに、黒や藍のような落ち着いた、控えめの色を好んでいたというから。

ああ、なんて私にお似合いだろう、と、それを知った時にはそう思ったほどだ。


「何故?」


純粋な疑問。何故、と。誰だって問いたくなるだろう。まして、この世界の人間であれば、私はまだ幼い少女でしかないのだから。

とんだ愚問を、と、大人同然の精神は嘲笑する。それは自分の中だけに留められた。

目を細めて、じっ、と、その緑の瞳を見据える。

浮かぶのは、深緑の葉。

その色をそのまま切り取ったようなそれの方が、美しいと思えるのは、きっと。


「全部、隠せてしまうから、です」


この黒が、絶対になれない色だから。

色も、存在も、全てを隠せてしまうこの色は、本当に狡猾で。

例えばそれが思い出だとしても、この色は、それすら呑み込んでしまうのだろう。

善も悪も、その黒の前では皆平等で。全てを映すのが白ならば、この黒は全てを隠す。だから、この黒は私にとっても都合がいい。

この黒は、私を守ってくれたから。


「…随分変わったことを言う子だ」

「面白いでしょう?プレマ」

「まぁなー。で・も。

普通じゃない」


頭上で交わされる会話は、緊張感を孕んでいて。彼の言葉に、フィオさんは黙りこむ。


「髪は女の誇り。

肌は女の命。

3歳児だってそう思う。そう教わる。10歳くらいの女の子なら、‘普通は’色気づいて、お礼の一つくらい言う。

────この子は何者だ? フィオ」


それは、まだフィオさんから教えてもらっていなかったもの。

男尊女慈については教わったものの、そんな‘普通’、私は知らない。

これが、世界の違いで。

これが、私が禁忌であり異端である証で。

ずくり、心のどこかが疼いた気が、した。




次回、リルの正体が明らかに───…!?(なりません、多分)


またしばらく更新期間が空くかもしれません。ご容赦ください…。


2018.09.08 サブタイトル変更しました。

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