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漆黒に映る  作者: 夏雪
二章
12/12

10─女性の称号

お読みくださりありがとうございます。


エープが終わり、薄く化粧を施し、次は髪を結える。


「今日はどんな髪型になさいますか?」


するり、するり。

おこがましくも、その美しい銀糸のような御髪に手を、指を、通して、そのさらさらな、上質な質感を確かめる。以前に付かせてもらった時と、なんら変わらない、枝毛なんてものも一切ない、痛みとは程遠いそれに、思わずうっとりしてしまう。


「そうねぇ…、リルは器用だから何でもいいのだけど…あっ、そうだわ、この間してくれたのがいいわ。

あの日、お客様に大好評だったの」

「分かりました」


お団子か…、あの世界で本でちらりと見た程度で、試し半分でやってみたら良い感じに出来上がったんだけど…、好評だったのなら、良かった。アリシュナ姉さまにも喜んでもらえたみたいだし。

髪は女の誇り、と言われるだけあって、長ければ長いほど良い、と言われる。勿論、長いだけでなく手入れ具合や状態も善し悪しには左右されるけれど。

それを着飾るのだから、その人がより映えるものでなくてはならない。主に多いのはポニーテールやアップスタイル。あの世界のように、工夫されたものは少ない。あまり豪奢にしすぎると、逆に引かれてしまうのだとか。…けばけばしい、と思われるらしい。だからお団子っていうのは、シンプルかつ今までにない‘可愛らしさ’を惹きたてる、珍しいものらしい。

くるくる、長く美しい銀糸を、丁寧に編みながら纏めていく。…器用でよかったな、と今になって思う。でなければ、こんなことはできなかったし、きっと、この世界で生きていくこともできなかった。

するり、と手を離して、最後にレナーピを飾り付けた。


「出来ました」

「…、あら、編んだのね」

「はい。駄目、でしたか?」

「いいえ、とてもいいわ。やっぱり器用ね、リル」

「アリシュナ姉さまこそ、今日もとてもお綺麗です」

「ふふっ、ありがとう」


「それでは、私はこれで失礼します。寄席の時間になりましたら、イスア姉さまがいらっしゃいます」

「えぇ、分かったわ。今日はありがとう、リル。楽しい時間だったわ」

「こちらこそ」


もう一度、失礼します、と、今度は一礼して、アリシュナ姉さまのお部屋から退出した。

廊下を歩きながら、ふぅ、と溜め息を吐く。…楽しみではあるけれど、あの人の傍は、いつ居ても緊張するな…。

元来た道筋を引き返す。


姉さま、か。

まさか、自分がそんなことを言うような立場になるとはね…。

──この世界には、女性特有の称号がある。それが、<ラユイ>だとか、<カイロム>だとか言われるものだ。

主にその称号が重視されるのは、接客業だ。と言っても、娼館のようないやらしいものではなく、食事処やお茶処(所謂カフェ)での接待。…まあ、娼館で重視しない、というわけでもないし、娼館がない、というわけでもないから、完全にそういう方面じゃない、とは断言できないけれど。

称号は全部で6つ。上から、ラユイ、ケシファ、サチュン、ルム、ビュシラー、カイロムの順だ。

その中でも、ラユイの称号は最も特別で、一生かかっても得られない女性の方が多いくらいに、ラユイになることは難しい。…21歳にして、ラユイの称号を持つアリシュナ姉さまは、相当どころか滅茶苦茶凄いお人なのだ。


奥へ奥へと進み、私にも与えられた、私‘達’の部屋の前まで来る。

中から聞こえるきゃらきゃらした声に、憂鬱さを感じながら、扉を開いた。


「あっ、リル!」

「ほんとだー。今日もお疲れ様だねー」

「今日アリシュナ姉さまだったんでしょ?」

「どうだったどうだった!?」


扉が開く音に気付いて此方を見て、私の姿を認識すると、彼女たち三人は、そう言いながら詰め寄ってきた。…中身が19歳とは言え、物理的には同じ時間を過ごしているのに、妙に幼いな、と思う。…そんなに喜んだり、わくわくしたりすることか?確かにアリシュナ姉さまは美しいとは思うけれど。…まあ、思想と意識の違い、か。


「楽しかったよ」


特別に何かを思うことはなかった。強いて言うなら、楽しかった、それだけだ。けれど、そう思うのはやっぱり私だけのようで。


「もうちょっと他にないのー?」

「エープがどうとかレナーピとかは!?」

「どんな髪型にしたの?」


と、まあ、更なる質問の嵐に見舞われた。…まあ、それもそうか。<ラユイ>の称号を持つ人の確率は本当にごく僅かで、商売区の中央に行けば各店に一人、多くて三人ほど居るらしいけれど、ここは商売区の中でも一、二を争う下町にある店。この近辺で<ラユイ>の称号を持つのは、アリシュナ姉さまだけだから。

そんな彼女と接することができるのは、同じ店で働くスタッフと、お客様だけ。…まるで遊郭みたいだな、と最初に聞いた時には、そう思った。


「エープは朱色。髪はお団子を編み込んで、エープと同じ朱色のレナーピで仕上げた」

「えっ!?お団子って、こないだリルがアリシュナ姉さまにしてたやつだよね!?」

「編み込みなんてできたのー?」


予想外にも、髪のことに食いつかれた。余りに興味深々な、キラキラした目で見られて、内心戸惑う。…実際に見せた方が、早いのかな。

編み込みなんてできたの?、とのんびりとした口調で言った彼女、シアナを呼んで、私の目の前に座るように促す。はーい、とおとなしく背を向けて座った彼女の髪を、触るよ、と一言入れてから、櫛で梳かす。シアナにしたのは、単に、アリシュナ姉さまと同じくらいの髪の長さだったから。

くるくると編み込んで、お団子に纏めて、ピンで留めて、完成。

手鏡を、見ていたうちの一人、ミーシャに一つ借りて、それをシアナに持たせる。彼女の後ろで少し大きめの鏡を向けて、こんな感じ、と見せれば、シアナとミーシャ、それともう一人、ニルアネの三人が、おぉー…!と歓声のようなものを上げた。


「すごいすごいっ!」

「やっぱりリルって器用だねー」

「可愛いっ」


三者三様の反応に、ふと、ここに来たばかりの頃を思い出した。

あのときも、こんな感じで───…。




次回の投稿は少し後になりそうです…。


宜しくお願いします。

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