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宝珠細工師の原石  作者: 桐谷瑞香
【番外編】
36/38

祭りの前夜の鏡の前で

平成29年春にイベント用に発行のペーパーに載せた掌編小説。

時間軸は幕間内です。

「ああ、疲れた……!」

 エルダは自分の部屋に入るなり、端に置いてあったベッドの上にうつ伏せの状態で倒れ込んだ。ふわふわとした弾力を持つベッドは、エルダのことを優しく包み込んでくれる。

 今日も朝から晩まで仕事だった。それが一週間以上も続いていたため、もはや体力は限界に近づいていた。しかしそれも今日で終わり。明日の予定は昼過ぎからのため、昼前まで寝ていても問題はなかった。

 しばらくベッドの上で転がったり、伸びをする。やがてむくりと起き上がると、ベッドに腰掛けた。その位置から窓の外を眺める。二階にあるこの部屋から隣の家の一階を見るには、少し首を伸ばさなければならなかった。

 エルダが見た部屋は光で溢れていたが、ほどなくして光は消えて真っ暗になった。寝るために明かりを消したのだろう。

「サートルは明日、早いって言っていたものね……」

 幼なじみの少年の顔を思い浮かべながらエルダは呟く。自分勝手で世話の焼ける少年だったが、いつのまにか町の自警団員の一人として、真面目に職務に励んでいた。明日も昼前まで祭りが行われる町の中を巡回するらしい。そんな彼と明日の昼過ぎからエルダは祭りを見て回るのだ。

「二人で出かけるなんて……最近あったかな?」

 昔はよくサートルに連れ回されていた。商店街にある食堂に連れて行かれたり、幽霊が出そうな空き家に入ったり、町の端にある大樹にのぼったりした。あまりに無理矢理連れて行くので怒りもしたが、どれもが貴重で楽しい経験だった。

 エルダは床に足を付け、結った髪をほどいて姿見の前に立った。深い緑色の瞳の黒髪の少女が映っている。膨らみの小さい胸の上には浅緑色の宝珠が輝いていた。上はシャツを、下はキュロットスカートをはいている。よく言えば機動性がいい、悪く言えば地味だ。

 髪を軽くいじりながら、エルダは自分の姿をまじまじ見た。

「明日はお祭り。ずっと見たかった舞が間近で見れる……」

 祭りの一大イベントでもある舞は、多くの人が見にくる。町長といった身分の高い人や他の町の人も来るらしい。こんな地味で野暮ったい服では――駄目だ。

 エルダはクローゼットを開き、服を探し出した。あれでもない、これでもないと言って、ベッドの上に服を出していく。

「小綺麗な感じで、お祭りにふさわしくて、サートルが可愛いって言ってくれるような服――」

 そこで言葉を切り、エルダはベッドの上に振り返った。様々な服が散乱している。頬が仄かに熱い気がした。

「か、可愛くないよりも可愛いって言ってもらった方が、嬉しいじゃない!」

 周りが見えない向こう見ずな馬鹿で、世話の焼ける弟みたいな存在の幼なじみ。そんな彼がいつのまにか――青年の横顔を見せるようになった。

 大切な人だとは思っている。それ以上でも以下でもない。自分の中で言い分けをしながら、ある一着の服に手を付けた。

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