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宝珠細工師の原石  作者: 桐谷瑞香
【本編2】宝珠を実らす絆の樹
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エピローグ 魔宝珠と二つの樹

 廃村での出来事から一週間程度で、サートルは第四部隊の鍛錬――まずは座学に合流することができた。実技に関してはしばらく見学をしていたが、今日からゆっくり慣らすことになっている。

 鍛錬場に行く前に、エルダがひょっこり城に顔を出してきた。店に一度行ってから来たらしい。廊下の脇で肩から鞄をかけている彼女と向き合った。

「ごめんね、鍛錬の前に。これを渡したくて……」

 そう言って手渡してくれたのは、紺碧色の魔宝珠が正方形の型にはめられ、さらに茶色の宝珠も一緒についている、フック付きのアクセリーだった。でこぼこしていた魔宝珠は綺麗に四角く研磨され、ささやかに輝いていた。

「これは……」

「どういうのがいいかなって考えて、少し形を変えて細工してみた。丸よりも四角い方がかっこいいから、そっちにしたの。あとベルトを通すズボンの穴に引っかけられるような作りにして……よかったら付けてみて」

 サートルはエルダに言われたとおりに、右側にあるベルト穴に引っかけてみた。目立ちすぎず地味すぎない宝珠が腰のあたりで輝いている。体をひねったり、足を動かしたりしたが、特に動きに違和感はなかった。

「そこにあればすぐに召喚できるでしょう。あと服とも馴染んでいるから、他の人にからかわれることもないだろうし……。ジェードさんに聞いたら、男の人ってあまり魔宝珠をアクセサリーとして使わないんだって。でもそれならいいと思わない?」

 サートルは宝珠を軽く手で触れてから頷いた。手で届く範囲にあるのが、何よりもいい。

 ペンダントや腕輪だと、体に密着しているため、それがあると不自然な感じがしてしまうが、これなら問題ないだろう。

「ありがとう、エルダ、色々と気を使ってくれて。すげぇ嬉しい。これならすぐに召喚できる」

 サートルが感想を言うと、緊張していた面持ちのエルダは表情を崩した。

「そう言ってくれて嬉しい。男性向けの細工って初めてだから、ドキドキしていたの……。これからはこういうのも作れるって、他の男性客に勧めてみる」

「それがいいぜ」

 どんどん彼女の技術が広まればいいと切に思った。

 受け渡しが済むと、エルダは廊下の奥を覗き込んだ。

「今から鍛錬場に行くのよね」

「そうだ。怪我で動けなかったから、今日は軽く慣らすだけだ」

「お願いだから無理しないでよ。――ジェードさんに言われて、今日は出張して、第四部隊の宝珠を磨いてこいって言われたの。一緒に行ってもいい?」

「あ、ああ。それくらい別にいいが。……もしかして昨日、先輩たちがそわそわしていたのはエルダのせいか?」

「え、私が何?」

「……時間もやばいから、さっさと行くぞ」

 エルダの言葉を遮り、サートルは彼女の鞄をとって歩き始めた。おずおずと隣を歩かれる。

「……ありがとう」

「……おい、意外と中身重いぞ。お前の兄弟子は何を持たしたんだ……」

 磨くと言っていたから、てっきり布だけかと思ったが、どうやらそれ以外にも必要な工具が入っているようだ。

 足早に廊下を進んでいくと、途中で数名の人間とすれ違った。一人で黙々と歩いていく学者、穏やかな笑みを浮かべて歩く金髪の女性、そして地図を広げながら話をしている黒髪と銀髪の青年たちなど。

「――隊長も突然仕事をふってきやがって。シュリッセル町に行け? しかも明日には出ろって急すぎだろ」

「まあまあ。あの唐突さは今に始まったことじゃないでしょ。愚痴をこぼす暇があったら準備するよ」

「お前は気持ちの入れ替えが早いな……。わかったよ、早く済ませればいいんだろう。まったく模擬戦の約束をしていたのに、予定が狂うぜ……」

 青年たちの会話を聞いて、サートルは何気なく振り返った。聞いたことがある町の固有名詞が耳に残ったのだ。

「サートル?」

 エルダが立ち止まっていたサートルに声をかけてくる。

「いや何でもない。行こう」

 ラウロー町の帰りに、シュリッセル町に寄るだろうか。いや、寄るように提案してみよう――それを思い出させてくれるような、彼らの会話だった。

 エルダがそわそわしながら城の廊下を歩いている。その様子が面白く、新鮮だった。常に先に行っている気がした彼女だが、それは時と場合によって随分と違うようだ。

 外に続く廊下に出ると、並んで生えている二本の樹が視界に入った。それらの枝葉は、まるで追いつき追い抜こうとしているかのように、空に向けて伸びていた。

 いつかこの二本は、奥に見えるような立派な大樹になるのだろうか――。

 それはその大樹自身が秘めた成長力と、周りから受ける栄養などによって、大きく変わってくるのかもしれない。

 二本の樹を見ながらサートル、そしてエルダも心の中で願った。



 ――願わくば、二人の心の中で芽生えた樹が、より大きなものとなりますように――




 宝珠を実らす絆の樹 了

 




次回、番外編を更新して、完結となります。

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