初恋キャンディ
「食べる?」
はてなマークが書かれた袋。 『何味出るかは運次第』 そう書かれた袋。 それを私に差し出す君は、可愛い笑顔でこっちを見てる。
髪を長くしてるのは見られたくないから。下を向くのは恥ずかしいから。猫背になるのは自信がないから。 それが孤立してる原因だとしても簡単に変えられない。 明日から、明日から変わるんだ。 なんて思ってるうちに時間は過ぎてた。 本当はクラスに溶け込みたいけれど、一度貼られたレッテルはなかなか剥がせない。
そんな私に君は話しかけてくれた。 突然なのに。初めて話すのに。 君は普通に話しかけてくれて。 嬉しいけれど戸惑ってしまって。頷くのが精一杯だった。 差し出された袋からアメ玉一つ取り出して口に入れる。
「何味だった?」
興味津々な君の顔。 ドキドキしてるの隠すために、必死にアメ玉を口の中で溶かす。…… 段々口の中、辛くなってきた。 なんだろこれ、唐辛子? あまりの辛さに私は少しむせてしまった。
「大丈夫?」
心配する声、でも顔見たらどこか嬉しそう。いたずらが成功した子供みたい。 いじわるだね、君は。
「唐辛子、かな?」
少しヒリヒリする唇でそう答えた。 こんなのよく買うなぁ、いつも持ってるよね? 友達にあげたりして笑ってるとこ、よく目にするよ。 ………なんで今日、私にくれたの? 意味はあるの? だって昨日まで話したこともなかったんだよ? それがこんな突然さ…… 理由はあるのかな。 この問いの答えは、いつか聞けるのかな………
とある日の選択授業。 視聴覚室、席は自由。 みんな仲良く固まって座るけど。 私はいつも、一番後ろの窓側にいく。 あんまり目は良くないから、本当は前の席行きたいけど。 仲良くはしゃいでる人たちに混ざるのは勇気がいる。 それに私のせいで空気を悪くしたら申し訳ないし。 だからここが私の特等席、邪魔にならないよう静かに授業を受けるんだ。
「隣、いい?」
そう言って、君は答えも待たずに隣に座った。 すごくびっくりした、なんで⁉︎ って思った。 聞いてみたいけど…… それで君が違う席に行ってしまうのもなんだか嫌だったから。小さな声で「どうぞ」って返したんだ。
スクリーンに映された映像。 先生の声。 それを真面目に聞いてる人、隠れてスマホをいじる人。 小さな声で友達と話す人。 一番後ろはそう言うのがよく分かる。 それだけは少し面白いかな。でも結局、仲良さそうな光景みて落ち込んだりするんだけどね。
「食べる?」
隣から現れた、はてなマークの袋。 私は前に貰ったことを思い出して少し遠慮してしまった。 それを見て、君はとても残念そう。 そんな顔しないでよ…… 申し訳ない気持ちになってしまって、結局「一つだけ……」 と答えてしまった。 急に笑顔になる君。そんな君を見ながら、私は袋からアメ玉を一つ取り出した。 辛かったアメ玉を思い出し、嫌だなぁ、と思ってしまう。 でも君にそれを言えそうにはないから、覚悟を決めて口に入れた。
「………」
「何味だった?」
辛くはない。 むしろ、甘いな。 うん、美味しい。 これってーー
「青リンゴ、です」
私は小さな声でそう答えた。 そしたら君は前みたいに嬉しそうな顔をした。 その顔に、またドキッとした。
「ほんとに当たり入ってるんだ」
はてなマークを見つめながら、君は小声でそう言った。 え? もしかして、普通の味を引いたことないのかな。 そんな物、人に勧めてたの?
「本当に青リンゴ?」
彼はまだ納得いかないらしく、しつこく聞いてくる。 ほんとだよ、嘘なんてつかないよ。美味しい青リンゴ味のアメ玉だよ、これは。
「美味しいよ」 私はそう言って、彼の方を見た。
避けられなかった。 一瞬訳がわからなくなった。ただ…… 君の唇が、私の唇に触れている。 ほんの数秒触れた唇、それがゆっくりと離れていく。
「ほんとだ。 青リンゴの匂いする」
そう言って君は笑った。 口の中の青リンゴの香り。ゆっくり触れた自分の唇の感触に、ようやく現実に戻される。
口の中の甘い香り。証明の消された教室に、 スクリーンの光。 カーテンの隙間からこぼれる日差し。 隣で笑う君。
私の初めては、そんな記憶になってしまった。




