↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/58

code06:vision05 蒼い部屋から②

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

 目の翳りが『思考停止』に変わった。

 すこし瞬いてから、小さく笑う。


「あれか、道警本部の」

「噂というより、聞きました。見た、という人から……」


 おなじ部署の先輩の話だった。

 地元のスーパーで、女性と買い物をする。

 そういう高桐を目撃した――という、話。

 研修が始まってすぐ、聞かされていた。


 高桐は、笑った目のまま、続ける。


「ほかには」

「……え?」

「ほかにはないのか。まとめて答えようかと」


 今度は三朝が目を瞬く番だった。

 否定も、肯定も、しない……。


「わかるよ。上官だから、女がいるなら。

立樹の場合は、とくに……止める理由になったんだろうな。

けど『怖がること』じゃない」


 薄い笑みは、やがて消えて。

 奥の深淵が三朝を射抜く。

 

「知らなかったんだよな、立樹は」

「……何をですか?」

「再会すること」


 ……え?


「俺は知ってた。警視監に聞かされてたから」


 突然、出てきた伯父の名前を。

 三朝は、また処理できずに聞いた。


「研修先として、俺の所に送るからって。

東京でも世話になると思うが、

よろしく頼むって、立樹が来る前に言われてた。

もともと北海道へ行く前に、JPO入りも決まってたから。

組織が始動したら、立樹がまた部下になるって、

知ってたんだ」


 はじめて聞く話だった。

 言う機会なら、何度もあっただろうに。

 伯父は話すつもりは無かったのだろう。

 三朝には。


「だからな」


 蒼い部屋に、堕ちた、声。


「あの時も……立樹にキスした」


 研修最終日の、烙印。

 消えなかった、薄い感触――。


「『またな』ってメールしたよな。

あんな場面だったけど……勢いだったわけじゃない」


 ぱらっと。

 何かの欠片が、剥がれ落ちた。


「そうだったんですね……」


「立樹にしたら分からないだろうから。

それで怖がらせたか、と思う事もあった」


 また、小さく首を振った。

 あの時、高桐が来てくれたからこそ――。

 烙印は、確かな救いでもあった。


「だったら」


 高桐の声が、再び一石のように、堕ちる。


「なんで、そこまで怖がるのか」

「…………」

「話はそこに、戻ってしまうな」


 優しい色に戻った、高桐の目を。

 三朝にすれば、いろいろある。

 もはや本体がどれか、わからないほど。


「……どうする?」


 包む手の力が、少し緩んでいた。


「俺は、立樹が怖いなら、進めない。

……少なくとも、いまは」


 職務ではなく、初めて触れた手。

 この手を……離す?


「ただ。これだけ言っておく」


 ぐっと。

 もう一度、両手を握りなおした。

 強い視線を、向けた。


「俺は、立樹と始めないのは無理だから」


 ガラッと、今度は大きく崩れ堕ちた。

 ぱらぱらと積もっていた破片の上に。


「立樹を連れて帰って来て、ここまで話した。

止める理由も、俺にはない。

あとは立樹がどうしたいか……悪いけど、

実際、止められる自信もない」


 逸らさない目を見つめて。

 離したくない、と思ってしまった。


「それは……」


 気配が、少しだけ動く。


「怖い、ですよ……」

「うん」

「恐れ多いですし……私なんかでいいのかって」

「それで?」

「相手の方がいるなら、なおさら」

「いないよ」


 すぱっと。

 高桐が切った言葉に、息を飲んだ。


「いない、立樹のほかには誰も。

ごめん、その見たって話は本当だけど。

一緒に住んでた相手がいて。

けど立樹が来る何か月も前に東京へ帰って。

それから会ってない。いま、どうしてるかも知らない。

完全に終わってる」


 その言葉を、素直に受け取っていた。

 人伝てなんて、こんなものか……。


「まとめて答えるって言って、

後回しになってたな。そういうことだから」


「はい……」


「だから今は、立樹のほかに、好きなヤツはいない」


 大きな何かは、崩れて瓦解していた。

 いま、確かに言った、高桐は。


「どうする? 立樹」


 目を上げた。


「怖いで止まるか、一緒に進むか」

「…………」

「俺と居るか、このまま帰るか」


 帰る――先。

 この手を離して、行きつく先。

 伝わる熱を、失った、明日。


「どうしたい?」


 蒼い部屋に、限りなく優しく響いた。

 ずっと封じ込めてきた自分。

 高桐は、けして押し切らなかった。


「止めないで、いいんですか」

「いいよ」

「高桐さんと居ても……」

「いい。居て欲しい」


 言い終わる頃には、すでに重なっていた。

 熱い手で、しっかりと首元を抱き寄せ。

 1年4か月ぶりの感触を、唇に受ける。

 涙が流れそうだった。


「立樹」


 手どころじゃない、全身に温もりを受けて。

 今までにない耳元で、その声を聞いた。


「俺だって、怖かった。

言えなかったから。立樹だけじゃない」


 長い、三朝の髪に顔をうずめて。

 はじめて気づいていた。

 結果、長い時間をかけてしまった。


「ごめんなさい……」


「いい。来てくれたから。

俺と居たいなら、それで――」


 ふたたび唇が重なって。

 割り入った舌を、熱ごと受け止めた。

 

 肩からすべり込む手が、

 カーディガンを、はらりと落とす。


 外気にさらされた腕に、

 蒼い月の、光の温度まで差すようで。

 体が芯から熱くなった。

 

 支えきれずに、両腕を掴むと。

 重みをかけた高桐と一緒に倒れ込んだ。

 

 慣れた手で、残りの服が取り払われる。

 動きには一切の迷いもなかった。

 あまりの手際が少し気になったが。

 信じられない想いで、委ねていた。


 好きになりすぎて、怖かった。

 とめどない想いを、今夜、赦された。

 これで、もし。

 高桐を失う日が来たら。

 その時、自分はもう立ち上がれない。


 分かっていたが、それでもよかった。

 それでもいい、とやっと思えた。

 高桐の腕の中に自分がいる。

 他ならぬ自分が。

 なら、いまは――それだけでいい。


 あふれる熱を体ごと受け止めながら。

 三朝ははじめて、高桐に出会えた事を。

 心の底から、感謝していた。 


LOVERSコード1巻

―完―


LOVERSコード2ignite―北海道警研修編―へつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。