code03:vision05 司令室の朝
目が覚めて――。
どこにいるのか、すぐ分からなかった。
自宅にはない大きな窓から、
海とビルの景色が見えている。
宿直だった――と思い出した。
時計を見ると朝の6時だった。
昼まで勤務して、何もなければ、
帰って良かったはずだ、今日は。
三朝はベッドを降りて、
シャツとパンツスタイルに着替えた。
司令室に出る。
当然、まだ誰も来ていない。
スティックの紅茶を入れて、
パソコンの前に座った。
書類仕事がたまっていた。
聞き込み後の報告書数点。
JPO独自の書式も多く、
慣れないため苦労していた。
みんな、いつ書いているのやら。
紅茶を飲み、キーを叩いていく。
承認者の欄にある名前が目に止まる。
入力を続けて、半時間ほどが経った。
そこへ司令室のドアが開く音がした。
三朝は思わず顔を上げた。
出勤時間にはまだ早い。
ドアを注視していた。
入ってきたのは。
同じ三係の白石彼方だった。
異動直後に顔を合わせたきりだ。
白石も、三朝を見て目を丸くしていた。
夜通し勤務していたのだろうか。
手にコンビニ袋を提げている。
ともかく立って、頭を下げた。
「おはようございます」
「あ、うん」
白石は気まずそうに隣に来て、
もう1台のパソコンを立ち上げた。
レジ袋を置いてイスに座り。
誰もいないかのように、作業をはじめる。
三朝も座りなおして、入力を続けた。
また分からない箇所にぶつかって。
引き出しにある記入例を出そうと――。
そこへ横から両腕が伸びてきて、
素早くタタタっとキーを叩いた。
驚いて画面を見れば。
キレイに入力が終わっていた。
三朝は感心して白石を見た。
ちらっと、盗み見る視線が返される。
画面に戻って、パンをかじりはじめた。
「あの、ありがとうございます」
かみ砕きながら「いいよ」と言う。
「こんな凄まじいキータッチ、はじめて見ました」
コーヒーを飲む手を止めて「うん」と返す。
「分からない書式が多くて。助かりました」
少し間があった。
こちらを見ずに言った。
「独自のフォーマット多いから。何度か書けば覚えると思うよ」
聞こえるか聞こえないか、くらいの声。
白石も最初は苦労したのだろうか。
「提出先によって書式がちがいますもんね。内容は同じなのに」
すると考えるように上を見て。
また身を乗り出して。
三朝が使うパソコンを操作しはじめた。
ファイル管理アプリ。
フォルダアイコンで画面が埋まる。
迷わず 『白石』のフォルダを選び。
階層を下って次々と開いていく。
一度もマウスは使わなかった。
「ちょっと裏技があって」
キーを叩きながら話す。
「ここにデータを入れておいて、
このアプリを立ち上げて、書式を選んだら……はい」
と言われて画面を見ると。
書式の半分ほどが、すでに埋まっていた。
署名欄には『白石彼方』と入っている。
「あとは保存して、次の書式を選んで、また保存」
三朝は白石を見つめてしまった。
「自分で作ったんだけど。よかったらあげるよ。
ここに立樹のフォルダ作って、入れておくから。
データ書いとくといいよ」
なおさら『スゴイ……』と見てしまう。
白石は困ったように目をそらし。
「報告書はほとんどテンプレートだから。
手抜き。秘密にしといて」
目を逸らさず、お礼を言った。
それからのはかどり様は段違いだった。
世の中にはすごい人がいるもんだ。
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