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演目12 一泊


 ――――ここは?


 目が覚めたら知らない天井が目に入った。

 俺はソファに横になっており、起き上がって辺りを見渡すとここがどこかの家のリビングだと分かる。壁に掛けられた時計は約六時半を差している。

 キッチンからは何やらジュージューと音がしていて、肉が焼けるいい匂いが漂って来ている。そのせいで食欲を刺激されてお腹が小さく鳴った。


 ……腹減ったな。


 空腹に釣られてキッチンへ行ってみようとしたところで、ふと気付く。


「ん? 制服に戻って……それに横腹の痛みも無い」


 制服に戻っているのは、気絶して変身が解けたせいだろう。

 怪我が治っているのは恐らく、誰かが回復魔法を掛けてくれたからだろう。


 見当がついたところでキッチンへ向かうと、部屋着だろうシンプルな私服の上からエプロンを着たマイカが立っていた。フライパンで何かを焼いており、そこから匂いが発せられている。


「おはよう」

「あっ、起きたんだ。おはよう。ちょっと座って待ってて、晩御飯が出来たところだから」


 挨拶すると、彼女はフライパンの中の肉を用意していた二枚の皿に盛りつけ始めた。めでたい日なのかステーキだ。

 お言葉に甘えてリビングに戻り、テーブルの椅子に座って待機する。暫くするとマイカは料理が載ったお盆を手に持って来て、まず俺の前に置いた。

 白米、ステーキと大盛りのカットキャベツ、コンソメスープ、切り分けられたリンゴ、というメニューだ。

 マイカはまたキッチンに戻り、自分の分のお盆と水入りのペットボトルを置き、対面に座った。


「じゃあ、食べながら話しましょうか。いただきます」

「いただきます」


 手を合わせてとりあえず食事を始める。ステーキなんていつぶりかは忘れてしまったが、体に覚え込ませたテーブルマナーは問題無く出来ている。外から見た俺は優雅に食事をする美少女だろう。それにこの肉は高級っぽいのか、かなり柔らかくて美味い。食事が進む。でも優雅さを維持したいのでゆっくりと食べる。


 と、あまりの美味しさに夢中になる前に話をしなくては。


「マイカ、ここは君の家か?」

「そうよ。あんたを入れるつもりはまだ無かったけど、マコト先輩が連れて帰れって言ったから仕方なく」

「そうか。ありがとう」

「どういたしまして」

「それとあの後、えっと……夢境だっけ? どうなった?」

「それはマコト先輩が片付けたわ。と言うか、新人のあんたがよく生き延びられたわね」

「たまたまだ。あっ、マイカはサチとハルカ……才川幸と鷹野遥を知ってるか?」

「友達よ。二人がどうしたの?」

「なんかサキュバス? って言うのになった」


 その途端、マイカの手がピタリと止まった。


「……ごめん、もう一度言って」

「二人はサキュバス? って言うのになった」

「……そう」


 マイカは分かりやすく落ち込んだ。表情は暗くなり、食事のスピードも落ちた。


 なんか明るい話題……は、引っ越して来たばかりで無いな。

 気を紛らわす為に手品を……慰めようとしているのが見え見えで効果が無さそうだ。


「あの、マイカ……二人のことなんだけど」

「いいわよ別に。魔法少女なんてやってると、いつかは知り合いをこの手で倒さないといけないこともあるって、お母さんに教えてもらっていたから」

「……そっっっか」


 空気が重い……こんな食事嫌だよ。

 でも、お母さんか。これなら話題を逸らすのにいいな。


「マイカ、君の母親が魔法少女ってブロンドさんから聞いたけど、どういう人なの?」

「お母さん? 昔は火力最強の魔法少女って言われていたわ。付いた二つ名が『煉獄姫』。聞いたことあるでしょ?」

「ああ」


 聞いたことがあるもなにも、煉獄姫と言えば二十年前の魔法少女誕生から活躍した伝説の一人だ。ナイトメアに一度たりとも負けたことが無いが、強力なナイトメア討伐の際に建物や街の一部をよく全焼させたという話は有名だ。

 名前は確か……火宮ヒサキだった筈。

 ん? 火宮?

 ……あっ。


「ちょっと待て。マイカってあの火宮ヒサキの娘なのか?」

「そうだけど、ブロンド先輩から聞いてなかったの?」

「聞いてなかったよ」

「なら、私がどれだけ凄いか分かったでしょ」

「そう……でもないな」

「なんでよ!?」

「凄い人の娘だからって、その人とマイカは別。それとも、親の七光り的な見方をされたいのか?」

「……いいえ。私はお母さんを超えるわ!」

「フッ、なら証明してみせてくれ」

「勿論!」


 よし、元気が出たみたいだ。


「ところで、私は夢境内での戦闘で攻撃を受けて横腹が骨折してたんだけど、誰が治してくれた?」

「ブロンド先輩。ついでにあんたを私の家に泊めるようにも言われてるわ」

「えっ、なんで?」

「仲良くしろってさ」

「……ふむ」


 仲良く……どうやって?

 現役女子高生とのコミュニケーションなんて、おじさんには分からん。趣味の話でもすればいいのだろうか?

 それとも、手品でも披露する?

 ……うーむ。


 結局、悩みながら黙々と料理を口に運び、食べきってしまった。

 手を合わせて「ごちそうさま」と言う。


「はい、お粗末様。今からお風呂を溜めるけど、あんた先に入る?」

「ん、んー……親交を深める為に一緒に入るのはどう?」

「いいわよ」

「えっ」


 マジかよ。下心が少しあって冗談のつもりで言ったんだけど。


 と思ったら、なんかマイカが俺の胸に視線を向けながら笑みを浮かべた。


「丁度、あんたの体を調べてみたいと思っていたの」

「えっ」


 もしかしなくても、胸揉まれたり?


 裸で女の子同士のイチャイチャを体験出来るというのは嬉しい。けれど、まだ男の精神でそういうことをするのはちょっと羞恥心がヤバい。

 そんな気持ちを胸にソファに座り、足を左右に揺らしながらスマホで適当なネット小説を読んで過ごしていると、壁に設置されているコンソールからお風呂の自動お湯張りが終了したことを知らせる音が鳴った。いよいよと思うとドキドキしてしまう。

 一人分のスペースを空けてソファに座り、スマホを弄っていたマイカが立ち上がった。


「ほら、行くわよ」

「本当にいいのか? 今更言うが、私は元男だけど」

「魔法少女になったら等しく女なんだから、別に問題無いわよ」

「……」

「えっ、なに? もしかして一緒に入るのが恥ずかしいの? へー、ふーん」


 うぐっ、ニヤニヤ笑われた。

 でも事実だから言い返せねぇ。


「ほーら、黙ってないで行く」

「う、うむ」


 手を掴まれ、俺は脱衣場まで連れて行かれた。

 マイカは目の前で恥ずかしがることも無く堂々と衣服を脱いで下着を晒す。

 脱いでない俺を見て、ブラのホックを外そうとした手が止まる。


「……脱がせてあげようか?」

「いやいい!」


 流石にそれをされたら、恥ずかしさで顔を覆いたくなる。

 諦めて自分で着ている制服を脱ぎ、一度深呼吸をして意を決してから下着も脱いだ。


 ……誰かがいると、女の裸って思った以上に恥ずかしく感じるな。


 手で胸と股を隠してしまう。ドキドキして落ち着かない。


「ほーら、入るわよー」

「あっ」


 同じく裸になったマイカに手を掴まれ、胸を隠せなくなった俺は風呂場へ入ってしまった。


「はい座って。まずは私が洗ってあげる」


 バスチェアに座らされ、まず頭を洗われる。

 長くてもっふもふな超絶癖毛の黒髪が丁寧に優しく洗われていく。


 ふむ……女の髪の洗い方って、こんな感じなのか。次から同じようにやろう。


 それなりの時間を掛けて髪が洗われ、タオルで髪を纏めてから体を洗うことに移る。


「さぁーて、如何にも男の理想ですって体、堪能させて貰うわね♪」

「ひゃっ! あっ、ちょっ、激しいって!」


 マイカが優しくもしっかりと体を洗いに来る。特に胸を集中して。もみもみと。そのせいで自分の口から意外なほど可愛い声が出て、身じろぎしてしまう。

 ある程度揉まれ続けると、満足したのか普通に体を洗い始めた。


「はぁー、いい揉み心地だったわ。やっぱり男の人って大きい方が好きなの?」

「んー……個人差があるから何とも。どっちかというと形の方が重要」


 だと言うのをネットで調べた覚えがある。


「へぇそうなんだ。因みに私の胸はどう?」


 そう質問してきた直後、マイカが俺に抱き着いて背中に柔らかい感触があった。


「……いいと思う」


 俺個人としてはちょっと小さい。けど背中が幸せ。

 それにマイカは、俺より少し低い身長に、細身ながらもモデルをやれそうなくらいに抜群のスタイルをしている。


「……マイカ?」


 さっきから黙って抱き着いたまま離れない。


「ネロ。もうちょっとだけ……このまま抱かせて」


 マイカが縋るような声で言ってきた。

 何故かはすぐに察した。友達のサチとハルカがナイトメアのサキュバスになってしまい、次会った時は二人を倒さないといけないからだ。


 まだ若いんだ。そりゃ辛いよな。


「……抱くの、正面からじゃなくていいのか?」

「うん」


 小さく頷いたので、俺はこのまま暫く抱かれてあげた。



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