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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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7/14

7、突入

「ふうん、レニアⅤがいたんだ」


 アンジェに呼ばれて移動しながら、俺は簡単にあった事をノワに説明した。


「レニアの下っ端のなんだっけ?名前忘れたけど、どっかで捕まってるアレと作ったんだよね?生体兵器って」


 そんな風に言うノワ。何言ってんだか半分以上分からない。


「はい、神名はバッシ、レニア神の3番目の使徒です。マジール王国の西にあるドマ領にバッシ神殿があり、生体兵器はそちらでバッシ神と共に作られました。全ての生体兵器にレニアの名が付けられ、ⅠからⅩⅢまである中、実用化まで行った物がⅤとⅧとⅩⅢの3種のみ。今回現れたのはⅤが1体のみでしたが、余りにも倫理観に欠ける事から殆どの国で生体兵器の使用は禁止されている筈です」


 分かっていないという事が顔に出ていたのか、聞く前にトールが説明してくれた。つまりはレニアって神様の3番目の弟子神バッシが、マジール王国の神殿で人と一緒に兵器を作ったと。13種類作ったけど成功したのが5と8と13だけで、しばらく流通したものの人道的に「無いわー」ってなったから禁止になったって事だ。


「禁止されてるのに現れたって事は、違法って事?」


 聞いた俺に「そういう事です」と肯定してくるトール。その違法な生体兵器を使って、先行するマジールの船で何かをしている。その何かの途中のアクシデントで、こちらの船にレニアⅤが飛んで来てしまった。


 そう考えると全て腑に落ちる。


 シージャック、もしくはそれに類する事件が起こっているのでは無いだろうか。


「マジールの船にもう追い付く。そしたら横付けして乗り込んで調査をするんだ。それでね、さっきの腕を見込んでトールさん達にも協力をお願いしたいの。タダでとは言わないよ、組合が正式に依頼して報酬も出すって言ってる。だから、お願い出来ませんか?」


 アンジェがそう言って、トールに向かって頭を下げた。


「何でトールに言うんだ?」


 ノワが不思議顔で聞いた。


「多分、どう見ても1番年上で責任者っぽいからじゃ?」


 俺はそう言った。8歳児と15歳の高1と近衛騎士の3人がいて、誰が主導権を持ってるかって聞かれたら、どう考えても近衛騎士だろう。


 トールは、俺の顔を見てどうするかを確認してくる。


「報酬とか要らないよ。困ってる人がいたら普通に助けたいし。勿論協力する」


 俺はそう答えた。


 アンジェは俺が決めるのを聞いて、目を瞬いて俺を見た。そしてノワとトールを見て俺の言葉に同意しているのを確認すると、納得して頷いたのだった。


「ありがとう。来て」


 そう言って駆け出すアンジェ。俺達3人もそれに続いた。




 雨は弱まっていたものの、まだ止んではいない。霧雨状態のまま河上を濡らし続けている。


 停止したマジールの船は、近付くにつれてその異様さを露わにしていった。


 こちらの船の倍はありそうな広い甲板は、激しい戦闘があったのかあちこち板が剥がれたり穴が開いたりしている。人影は皆無。張り出した屋根の下に等間隔に3箇所火を焚いた跡があり、それがさっき聞いた救援要請の跡だと思われた。


「あれ!」


 並んで目を凝らす乗組員の中、アンジェが声を上げて一点を指差す。見るとそこには枯れた植物の蔓のような物が見えた。それを見て俺は、戦ったばかりのレニアⅤを思い出す。


「枯れた蔓の量が少ない。まだ倒せていないかも知れません」


 トールが言う。それを聞いてその場の全員がグッと言葉に詰まった様に沈黙した。


 向こうの船の方が大きい。乗っている人の数は、あっちの方が多いだろうに、その人達の気配は感じられなかった。


 上手く隠れているのか、或いは・・・。


 嫌な考えを振り払うように頭を振って、俺は「乗り込もう」と言った。


 頷き合ってトールがロープを投げた。帆桁に巻き付いて固定されたのを確認すると、それに俺とノワと3人で掴まって、ターザンみたいにして向こうの船に渡る。


 続けて2本のロープが投げられて同じ様に巻き付き、それぞれにナイルと箱、ゴーシュとアンジェが乗り移った。


 乗り込むのはこの6人。移ったのを確認すると、『真ん中』の船が離れて行った。大部屋の窓からは乗客達が見守ってくれているのが見える。その中に俺は、焼菓子をくれた2人組の姿を確認した。祈る様に手を組んで、心配そうな顔をしている。俺は、その2人に向かって笑って手を振った。


「さて、どうなっているのかな」


 甲板に降り立ったゴーシュが、例の改良型クロスボウを構えながら言った。


「ジャッキーはしぶといから、絶対どっかに隠れてるよ」


 アンジェが箱を抱えてそう言う。


「ジャッキー?」


 ノワが聞いてきたので「有名な釣り師らしいよ」と簡単に教えた。


「ならば隠れた釣り師と乗客を探して、生体兵器は動き回ってるんだろう。ああいうのは人を殺すように設定されてるんだろ?」


 ナイルがそう言った。それに答えるトール。


「はい。ターゲットを設定する事も出来ますが、基本的には『人間』を襲うように出来ていると聞いています」


 恐ろしい話だ。


「だったら、僕達がここで騒いだらこっちに来るよね?」


「そういう事なら、騒ぐか」


 ノワの提案に、ゴーシュが同意する。そして、全員がそれぞれにあちこち叩いて音を立て始めた。


 床を叩き、足を踏み鳴らし、手摺りを叩く。


 すると、すぐに反応があった。


 シュルッという音が聞こえたかと思うと、突然蔓が床の穴から出て来た。そして、その穴のすぐ側にいたナイルの足を絡め取ろうとする。


 すかさず退いて距離を取るナイル。と、その背後からも蔓が伸びて来た。


「俺狙いかよ、良いだろう。相手してやるよ!」


 言いながら、背後からの蔓をわざと左腕に絡み付かせて、逆に強く引くナイル。ある程度引っ張り出すと、両手斧で切り離して縦に裂いた。


 それに続けて四方八方から蔓が出て来た。皆んなそれぞれのやり方で引っ張り、切り離してから裂く。


「本体が出て来ないからやり辛いな」


 ゴーシュが蔓を裂きながらそう言うと、アンジェが箱に走った。そしてよく分からない木製の装置を取り出すとゴーシュに見せる。2人でアイコンタクトを取ったかと思うと「おい、引っ張り出すぞ」とゴーシュが叫んだ。


 見ていると、ゴーシュが襲い掛かって来た蔓を捕まえてその木製の装置に絡めて、アンジェが横に付いていたハンドルみたいなのを回す。すると、糸巻き車のように蔓を巻き取り、そのまま本体が引き摺られて出て来た。


 すかさずノワが床に手を付き、闇色の鎖を引っ張り出す。影の中を鎖が走って、現れたばかりのレニアⅤの本体を蔓ごと縛り上げた。


「やった!」


 蔓を封じられて何も出来なくなったレニアⅤを見て、俺は思わず声を上げて喜んでしまった。


 さっきもノワがいてくれたら楽だったのに。そんな風に思ってしまう。


 が、縛り上げられたレニアⅤの根元を見て、俺は固まってしまった。


 その根には、人が絡め取られていたのだ。それも3人。


「え、待ってやだ・・・」


 アンジェが呟く。その3人は全員が男で、それぞれ頭にアンジェと同じバンダナを巻いていた。もしかしたら全員がこの船の乗組員で、組合に所属している知り合いなのかも知れない。


 乗客を守って捕まってしまったのか・・・。


「多分まだ生きてる」


 胸の中に何とも言えない嫌な気分が浮かびかけたが、ノワのその言葉でそれは消え去った。


「エネルギーが切れると、エネルギー源を根で捕獲して吸収するんですが、吸い尽くすと破棄するんです。まだ捕獲しているままなので、吸い尽くしていない」


 ノワの言葉を補足してトールが言った。つまり生きてる。


「根を切り離せば良いのか?」


 俺はそう聞いた。


「はい。それで助かる筈です」


「分かった!」


 ナイルがそう言うとすぐに動いた。巨大な斧を振り上げて力一杯振り下ろし、レニアⅤの根元を両断する。


 解放される3人。良かった。


 床に投げ出された3人を、俺とアンジェで抱え上げた。「うぅ」と小さく唸る。


「大丈夫、生きてる」


 俺は皆んなにそう伝えた。


 ホッとしたその瞬間だった。


 手摺りの外側から新たな蔓が現れた。そして、そのすぐ側に立っていたゴーシュを捕らえようとする。


「まだいる!2匹目だ!」


 俺はそう叫んで、アンジェと2人で解放された3人を隅の安全な場所へと運ぶ。


「もう一度引っ張り出して、縛り上げるから」


 ノワが言って、次の闇色の鎖を準備する。


「了解!ねぇ、この巻き取った蔓だけ切り離して処理して。もう一体の方を巻き取るから!」


 アンジェの声を聞いて、俺はその一本を切り離した。そのまま切口を掴んで思い切り引っ張る。糸車が逆回転して解放される蔓を、駆け寄ったトールが剣で裂いた。


 ゴーシュが迫り来る蔓を避けつつ、そのうちの一本を捕まえて引っ張る。後はさっきと同じ工程を繰り返した。絡めて、巻き上げて。出て来た本体をノワが鎖で締め上げた。


 今度の根元には男が1人。こっちはバンダナが無いし、黒一色のワントーンコーデ。乗組員では無さそうだった。でも捕まってるって事は生きてるって事だ。こちらもナイルが根元を切り落として解放した。


 みんな慣れて来て処理速度が上がって行く。


 が、レニアⅤが2体、それだけでは無かった。


 船室へと続く扉が、バタンと大きな音を立てて開いた。そこから新たな蔓が伸びて来たのだ。


「まだいるの?僕の腕は2本しか無いのに」


 ノワが悲鳴じみた声を上げた。左右の腕から繋がった鎖には、それぞれ一体ずつのレニアⅤ。もうこれ以上は捕獲出来ない。


 しかも・・・、


 その蔓は今迄の蔓とは違っていた。先が二股に分かれていて、更にそこから伸びて二股に分かれて行く。


「レニアⅧ・・・」


 トールが呟く。


 次の一体は、また別物らしい。

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