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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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68/68

68、そして『南』へ

 起き上がると、俺は天日干しの匂いのする気持ちのいい寝具の中に寝かされていた。


 変な夢を見た気がする。


 耀の横に座って、お互いの現状を伝え合うような感じの夢だった。


 何を話したのか、詳しい事は覚えていなかった。


 ただ、耀も俺と同じようにこの世界に戸惑い、嫌な思いをしつつも、自分なりに出来る事を頑張っている。


 そんな印象を受けるような夢だった。


 俺は立ち上がって自分を見た。


 制服の上着だけは脱がされ、横の椅子の背もたれに掛けられている。ブーツは履いたままだった。


 そう言えば、と思い出す。マジールへの連絡船の中のベッドで寝かされていた時もブーツは履いたままだったな、と。


 一瞬、この世界の人々は寝る時も靴を脱がないんじゃ無いだろうか?と思ったが、そんな訳ないか、と思い直した。


 今居るのは、1組の寝具と小さな机と椅子が1つずつしかない、小さな部屋だった。人1人が通り抜けるのにやっとの小振りの扉が1つと、後は壁にソフトボール大の窓、と言うか覗き穴が開いているだけ。殺風景な部屋だ。


 その部屋が、何となく揺れている。


 俺は、覗き穴の外を見てその揺れの理由を知った。


 空を飛んでいたのだ。


 『飛空艇』


 マジールを出る為に、用意してもらった『飛空艇』で移動すると言うような事を聞いた記憶はあった。けど、それに乗り込んだのかどうかが良く思い出せない。


 それだけショッキングな事があったからだ。


 エリスに恋人がいる。


 今思い出しても、胸がズキンと痛んだ。


 あれだけの美人だ。周りが放っておく訳ない。逆に1人でいる方が変だ。だから、恋人がいたって何もおかしくない。普通だ。当たり前の事だ。


 そんな風に自分の心に言い聞かせる。けれども、言い聞かせる度に胸に痛みが走ってしまった。


 ああ、もうやめよう。考えない方が良い。


 そう思って頭を左右に激しく振り、そして見付けた。


 小さな机の上に乗せられた箱。


 マジールの王城でリグランから受け取った物だった。


 今は蓋が閉められているが、その中には預かった生体兵器『レニアⅩⅤ』と、それを操作する為の『魔鈴』が入っている筈だ。


 俺は、何の躊躇も無くその箱に近付いて、そして蓋を開けた。中には、受け取る時に確認したままの形で『レニアⅩⅤ』と2つの『魔鈴』が収まっていた。一度発芽するともう元には戻らないのだろう、『レニアⅩⅤ』は多足の軟体生物のような体を窮屈そうに丸くすぼめて小さく纏まっている。よく見ると時々動く。若干キモイ。


 けども、何かに縛られているでも押さえ付けられている訳でもないのに、自らの意思でギュッと小さくなっているその姿が、何だか可哀想に見えてしまった。


 ちょっと怖かったけど、俺は『レニアⅩⅤ』を箱から取り出してみた。


 触れられると一瞬ビクッとなる『レニアⅩⅤ』。けれども自分から動いたり、何かをする様子も無い。ただただ小さく、目立たなく、大人しくしている。


 その時、俺は『レニアⅩⅤ』の体に文字が書かれているのに気が付いた。小さな文字だがハッキリと読める。


 『魔鈴を持つ者こそ、我が主。いついかなる時も護り慈しみ、その命令に従う』


 それを見て俺は、『真ん中』のレニア神殿で見た3体の『魔物』の事を思い出した。


 『蛾』と『モグラ』と、そして『トカゲ』。3匹とも、その体に呪いのように文字を刻まれて、何者かに操られていた。そして、不完全な命令に齟齬を生じて自滅するように死んでしまったのだった。


 特に『トカゲ』は、俺を倒すべき敵だと言われたのに、優しくされて混乱して死んでしまったのだった。


 呪いだ。純粋な生き物の意思を無視した忌むべき呪い。


 許せないな。


 俺はそう思って、その文字を何とか消すことができないかと考えた。


 体に刻み付けるように書かれた文字は、古い傷のようになっている。治癒する事が出来れば、消す事ができるのかもしれない。


 けれども、俺には治癒する術が無かった。


 ココナが使っていた『金糸』。それをイメージして、もしかしたら俺にも出来ないものかとチャレンジしてみた事があったのだが、どうやっても出来なかった。以前『金糸』は、人の体について学び、その知識を元に施すのだと聞いた事があった。それじゃまるで医大に通って医師免許を取るのと変わらないな、と思った覚えがある。そんな特殊な『加護』だから、俺みたいな公立高校に定員割れでギリギリ合格したような平凡高校1年生には使えない技なのかも知れない。


 治癒が出来ないのならば、と、俺は考える。


 俺に出来るのは、各種戦闘に関する『加護』と、『過去』を見たり『未来』を見たり持って来たりする事・・・。


 ならば、この『レニアⅩⅤ』にまだ文字の刻まれていない『過去』を持って来る事は出来ないだろうか。


 そう考えて、俺は『レニアⅩⅤ』の体に刻まれた文字を睨むように見た。


 全部じゃない。文字を刻まれた部分だけを、過去に巻き戻して行く。


 その部分が暗くなり、明るくなり、少し膨張し、また暗くなって、そして文字が消えて行った。


「あ、出来た・・・」


 部屋の中に俺1人しかいないと言うのに、思わずそう言ってしまった。そして、言ってから気が付いた。


 今は動かないでいるけれども、実はコレは危険な生体兵器である、という事を。その危険な物から縛(・)り(・)を取ったらどうなるのか。


 自由になった生体兵器。最悪、誰の言う事も聞かなくて良くなった生体兵器が暴れ出して大変な事になってしまうかも知れない。


 やばい。とりあえず捕まえないと。


 そう思いながら、俺は生体兵器に手を伸ばした。


 が、伸ばした手は空を切る。スカッと音を立てて空気をかき分けた俺の手に、生体兵器の触手が絡み付いた。


 まるで映画のエイリアンの幼体のようだ・・・!


 このまま顔に取り憑かれて体を乗っ取られるイメージが巡る。全身からバッと汗が吹き出す。


 が、そうはならなかった。


『ありがとう』


 そんな、感謝の思念が頭の中に流れ込んで来たのだ。


「・・・え?」


 思わず声が出た。


 その俺の声に応えるように、続けて思念が流れ込んで来る。


『ありがとう、自由になれた。嬉しい。私、貴方に付いて行く』


 それは、『レニアⅩⅤ』の声なのか。


 驚き固まっている俺の肩の上に『レニアⅩⅤ』が移動する。そして、沢山ある触手の何本かで、俺の頬を優しく撫でた。


 その時、トントンと扉をノックする音が響いて、続けてトールの声が聞こえて来た。


「アキラ、目が覚めましたか?開けますよ」


 と、こちらの返事を待たずに扉を開けるトール。


 俺と目が合ったトールは、一瞬固まって、そして視線をそのまま少し横にズラす。トールの目に『レニアⅩⅤ』が写った。


「・・・はっ!」


 そう声を発するトール。一瞬の間の後、両手をクロスして左右の剣の柄に手を掛けた。


 待て、今剣を抜いて切ったら俺も切れる。


 俺は右手の平を前に出してトールに待てとジェスチャーし、そして反対の手で『レニアⅩⅤ』を掴もうとした。


 が、その手をスルリと躱して俺の頭上に移動する『レニアⅩⅤ』。


 焦る俺。


 もっと焦るトールは、俺の静止を無視して抜刀し、『レニアⅩⅤ』に向かって2本の剣を振り下ろした。


 切られる!


 この至近距離で、しかもトール相手では避けられるはずもなく、俺は頭を割られる事も覚悟した。


 が、そうなる事は無かった。


 思わず閉じてしまった目を開ける。と、トールの剣は、突如現れた盾に防がれていた。俺にダメージは無く、そして『レニアⅩⅤ』も無事だった。


『コイツ速いね。手強い。殺(ヤ)る?』


 それを聞いて俺は、頭に響いてくる声が『レニアⅩⅤ』による『思念会話』だと確信した。


 目だけを動かして視線を頭上にやると、『レニアⅩⅤ』の触手の1本の先が盾に変形しているのが見えた。


 体の一部を好きに変形させる事も出来るらしい。


 俺を、守ったのか?


 そう思いながら俺は「殺(ヤ)らない!」と叫ぶように言って両手を頭上に持って行き、今度こそ『レニアⅩⅤ』を捕まえた。


「アキラ!無事ですか!?それは生体兵器ですよね!?何故箱の外に!?」


 剣を構えたままそう叫ぶトール。


 それを半ば無視して俺は『レニアⅩⅤ』を見た。


『主、怒った?』


 高い声だった。ボカロみたいな機械的な高い声。


「あ、主!?アキラの事ですか!?」


 驚きを隠せないトールのその声に、俺は「分からん」と答えた。


『主、私を自由にしてくれた。私嬉しい。主に付いて行く』


 さっきと同じような事を言う『レニアⅩⅤ』は、俺に捕まれたまま2本の触手を伸ばして再び俺の頬を撫でる。


 助けたら懐かれた。まるで桃太郎の家来みたいだ。


「ねー、どうしたの?うるさくて寝られないんだけど」


 部屋の外からノワの声が聞こえて来た。


「女に振られて機嫌悪くて暴れてんのか?」


 と、続けてゴーシュの声も聞こえて来る。


 振られた訳では無い。そもそも告白してないんだから。


 そう心の中で反論した時、ノワとゴーシュの2人が部屋に入って来た。そして俺の手の中で触手を蠢かせる『レニアⅩⅤ』を見て固まる。


「ふ、ふぇえ!む、虫!」


 そう叫んで壁にぶち当たるようにして飛び退くノワ。


 虫じゃ無いだろう。


 そう思う俺。


「な、何で出してんの?」


 ゴーシュはその場でそう言い、『レニアⅩⅤ』を指差した。


「そこまで大きな『飛空艇』では無いんですよ。あまり暴れないで下さい。揺れますし、最悪落ちま・・・す!」


 のんびりした様子のカミュが後からやって来て、そして『レニアⅩⅤ』を見て固まった。


 そんなこんなで、俺達は『南』へと向かう。


 セーライ神殿の件と、エデンの闘技場の件、双方共に俺が犯人だと言う噂は広がって行く事だろう。


 指名手配もされている。


 その噂から逃げるようにして向かう『南』は、今まで巡って来た場所とは比べ物にならない程に治安が悪いそうだ。


 『南西』。


 その地の果てにある『門』。


 そこにいるという『南西の君』。またの名を『魔王』。


 俺の好きな人の、恋人。


 その人に会いに行ってみようと思う。


 多分その人は、その人を恨む誰かに悪名を着せられて、そして、俺と耀がその人を倒す為に異世界から呼び出された。


 間違った噂を流されてるんだ。どういう人なのかは、会ってみないと分からないだろ?


 直接会って、場合によってはぶつかる事になるのかも知れない。


 どうなるのかは、会ってからのお楽しみだ。


『うるさいですね。コイツら、殺(ヤ)る?』


 新しい仲間も増えた。


「殺(ヤ)らない!」


 俺は叫んで、そして溜め息を吐いた。


 まずは『南』へ。


 思いながら俺は、丸い覗き穴みたいな窓から空を眺めた。


 青い空は吉兆か、或いは凶兆か。


 その空を一直線に『南』へと向かう一羽の鷲を見る。


 行こう。何があるかは行ってみないと分からない。まずは行動あるのみだ。


「アキラ!それ捨ててー!」


 ノワの叫び声と共に、その場にいる全員が何故か揉みくちゃになる。


 揺らぐ『飛空艇』で、俺達は新たな地へと向かうのだった。




     次作へ続く・・・。

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