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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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51/51

51、ⅩⅤの特性

 いない。一体どこに行ってしまったんだろう。


 薄暗い闘技場のバックヤードを走り回ってスレイの母親のサチさんを探していた。慌ただしく動き回る従業員達にぶつかる度に「すいません」と謝り、舌打ちをされては、舌打ちしたいのはこっちの方だと思う。


 焦燥感に襲われながら、息を切らせて、ズラリと並ぶ控え室をひとつひとつ確認し、それでも見つからずにとうとう裏口前の広間まで来てしまったのにここにもいない。


 スレイがさっきの試合で大怪我をしてしまったのに、それも、今までの選手生活で1番酷いと言っていい程の大怪我だというのに、何で様子を見に来ないのか。


 体中至る所を切り裂かれていた。出血は多く、意識の無いまま担架に乗せられて運ばれて来たスレイの体は、退場口まで移動するだけの時間で、戦いの熱がすっかり冷めてもう冷たくなっていた。


 その冷たさが怖くて、俺は会場内にいる筈なのに会いに来ないサチさんを探す。見付からない事に苛立ちを通り越して怒りさえ感じていた。


 そして、ようやく見付けた。


 サチさんでは無くて、ブリエヌ様の付人の、黒髪の小男。名前は知らない。いつもブリエヌ様の横に無愛想に立っているその小男が、必死の形相で走っていた。


 俺は肩で息をしながら、思わず立ち止まって小男を見た。


 もしかしたらブリエヌ様の元へと急いでいるのかも知れない。そのブリエヌ様の側には、サチさんもいるかも知れない。


 俺はそう考えて、小男を付けようと思った。けれども、会場の方から関係者控え室の方へと全力で駆け抜けて行く小男のその背後から、幾人かの警察と、黒いフードに身を包んだ少年が追いかけて行くのを見て驚いて躊躇する。


 何だ?何が起こっている・・・?


 追うべきか、引き返すべきかを悩んで、そして俺はやっぱり追いかける事にした。


 何としても、サチさんを探し出してスレイのところに連れて行かなくては。


 俺の頭の中は、その想いだけでいっぱいいっぱいだった。




「・・・タクト・・・」


 気が付くと暗くて何も見えない。手探りで辺りを弄ると、体中に鋭い痛みが走った。


「うぅっ・・・」


 呻きながら身を縮めて、そして思い出す。


 混合戦で、1枠の女と向き合ってぶつかった。


 そっから記憶が無い。


 俺、負けたのか・・・?


 何も覚えてないのに全身が痛い。訳が分からず、俺はもう一度タクトを呼んだ。が、辺りはシンと静まり返っていて返事は聞こえて来ない。


 見えない事と体中が痛い事が不愉快で、腹の底がむかむかして気持ちが悪い。


「タクト、どこ行ったんだよ。何も見えねえよ・・・」


 言いながら痛みを我慢しつつもう一度手を伸ばす。


 程よい弾力のヒヤリとした所に寝かされ、薄い布が体に掛けられている。


 医務室か・・・?


 自分の体を触ると、痛むあちこちにキツく布が巻かれているのに気付く。意を決して体を起こすとやはり周囲は暗くて何も見えない。体に掛けられていた布が落ち、服を着ておらず裸だと分かった。


 そのまま辺りを手探りで調べると、何かが手に触れる。持ち上げてみると、どうやら服のようだったので、それを引き寄せて身に付けて、俺は立ち上がった。


 暗闇の中、部屋の輪郭がうっすらと見える。机があり椅子があり、壁があって棚がある。棚の横にぽっかりと真っ黒い縦長の四角が見えて、何となくそれが医務室の出入口だと分かった。


 少しずつ、見えるようになっていっている気がする。そのうち見えるようになるだろう。そう言えば昔似たような事があった気がする。だから、多分ほっとけば平気だ。それよりタクトはどこだ。アイツがいないと何も分からなくて不便だ。


 早く、タクトを見付けないと。




 トールの『過去』の中から、レニアシリーズについての記憶を見る。


 実際に見た事のある生体兵器は、この前船の上で戦ったあの3種類のみ。つまりⅤとⅧとⅩⅢの、実用化された物だけ。他のⅠからⅣ、Ⅵ、Ⅶ、ⅨからⅫは資料で見ただけだった。


 紙媒体の情報を、頭の中で読み解く。


 すると、それらしいものがヒットする。触れた者に痛みを与える『影』と、『空間サーチ』と、『気化』。


 『影』は1から2、2から4と倍に増えて行き最大で256まで増加。最大増加後の増加は無し。触れるとペイン状態(つまり怪我は無いけど痛みだけ感じる)。『影』毎に地中20cm程度の位置に核があり、それを壊せば消える。常に移動する為、ルートを予測して破壊するのが良い、と。


 『空間サーチ』は、本体を中心に半径100mの球体内部に存在する生命体の戦闘能力を数値化し測定するというもの。つまり、グレイクが使う『第3の目』みたいなものだ。


 『気化』は、その名の通り自身を気体化し、空中を自在に移動。その際視覚感知不可。一度気化すると再度気化可能になるまで60分程度の間隔が必要。


 どうしたものか、と考えた時、『追記』の文字が見えた。


 『追記』・『影』には『挑発』が有効か?


 有効、では無くて、有効か?と疑問形になっている。けど、試してみる価値はありそうだ。


 『影』は、最初に現れて分裂を始めてから大分経っていた。既に256個、最大値まで増えていると考えて良いだろう。会場内の床を見れば、あちらこちらに穴が開いたみたいに黒丸が蠢いていて、互いにぶつかり合わないように上手い事避け合いながら、カクッカクッとそれぞれが規則的に動いている。


 眺めていると、そのうちのひとつが俺の足元に来て足裏に触れる。途端にゾワッと全身に鳥肌が立ち、次の瞬間激痛が走った。


「痛ー!」


 叫んで飛び退くと、痛みは消える。


 成る程、痛い。


 例えば戦場にコレを持ってって、敵陣で発生させたとしたら自軍に有利に運ぶ事間違い無い。


 避けた先にまたひとつの『影』がやって来る。俺は試しに『影』の進む少し先に向けて剣を突き刺してみた。


 刃を殺してある試合用の片刃の剣だったが、勢いを付けて突き立てれば20cm程度なら余裕で突き刺さる。刺した所に思った通りに『影』が到達し、俺の手に、まるでパンパンに膨らんだ風船に割り箸を突き立てるみたいな感触があって、少し力を加えるとパンッと音を立てて弾けた。と同時に『影』がひとつ消える。


 これで良いのか。難しくは無いが、256個。中々の重労働の予感がする。けど、これに『挑発』が効くのなら・・・。


「アキラ」


 トールが呼んだ。振り向くとトールの足元に『影』が来て、一瞬トールの顔が歪む。


 俺はその『影』の進行方向に剣を突き刺して消した。トールは、俺が2度『影』を消したのを見てやり方を理解したのだろう。再び近付いて来た『影』を、今度は痛みを与えられる前に自分の剣を突き刺して消した。


 そして言う。


「グレイクさんが押されています。このままでは危ないかと。どうしますか?」


 言われて見れば、操られるセシル王に追い詰められるグレイクが見える。その足元には沢山の『影』があり、構う余裕の無いグレイクは、襲い来る『影』を避けずにその痛みを全部喰らって、ひたすら耐えて戦っているみたいだった。『狂気』中のセシル王は痛みを感知しないだろうし、このままでは本当にグレイクは危ないかも知れない。


「影は俺がなんとかする。256個、いや、2個壊したから254個か。どんどん壊してってみるから、トールはその間レニアⅩⅤの本体を探しつつグレイクに加勢してくれ」


 俺がそう言うとトールは頷き、そしてグレイクの元へと向かって側の『影』を消しつつ加勢した。


 それを確認して、俺は床を見回した。そして、規則的に動き回る『影』を見ながら『挑発』を掛けてみた。


 俺の体から光の粒が飛び出す。無数の光が周囲に散らばると、次の瞬間再び俺に向かって集まり、集まった分強くなった光が弾けて俺の中に入った。


 集まって来いよ!


 そう思う俺の元に、規則的に動いていた周囲の『影』が急に角度を変えて集まって来る。でも、全部じゃ無い。俺のごく近くを動いていた『影』のうちの何個かだけ。


 ・・・アレ?


 首を捻りながらも、とりあえず俺は寄って来た『影』を消して行く。


 ぶすっ、パン!ぶすっ、パン!一回に1個、たまに2、3個を一気に消す。


 ひと通り消し終わると、首を捻りながらもう一度『挑発』を掛けた。けど、今度はさっきよりも集まって来る数が少ない。


 資料の中の『有効か?』の『?』の意味が分かった気がした。『挑発』がバッチリ効くのと効かないのがある。この資料を作った奴にはその理由が分からなかったのだ。


 俺にも理由は分からない。分からないながらも他にやりようがないので、俺は『影』の沢山ある所で『挑発』を掛け、集まって来た『影』を消すという作業を、ひたすら続けていった。


 続けながら考える。『挑発』の効く効かないの差は一体何なのか。


 一個一個の『影』を視界に収めながら『挑発』を掛ける。効いて誘き寄せられる『影』とそうで無い『影』。繰り返し繰り返し『挑発』を掛けて消してを20回程やった頃に、段々とその差が分かって来たような気がした。


 誘き寄せられる『影』は規則的な動きを続ける中でも、俺の方に向かって来ている最中だったり、こちらに向けて向きを変えたり、変える途中だったりするやつ。逆に俺から離れて行くのや、向きを変えて反対側に行こうとするやつには効果が出ていないみたいだ。


 つまり、この『影』には()()がある。


 こちらを向いている奴に『挑発』を掛ければ寄って来る。後ろを向いてる奴に掛けても効果が無い。


 パッと見ただけだと単なる丸だから分からない。けどコイツらには()がある。俺はそう思う事にした。


 顔と仮定した側がこっちを向いている時に『挑発』を掛けて、誘き寄せて剣を突き刺す。後ろを向いてて逃した奴は、間に合えば回り込んで剣を突き刺す。


 何度も何度もそれをやって、ようやく終わりが見えて来た頃に、俺の目の前に長い剣が飛んで来た。


 ビシッと床に突き刺さって、たまたまそこにいた『影』を消す。


 よく見ればそれはグレイクのサーベルで、俺は慌ててグレイクとトールを振り返った。


 見れば2人はセシル王に追い詰められていて、今にもトールが斬られそうになっている。


 待て待て!トールとグレイクの2人掛かりでも勝てないとか、本当に強いんだな。


 そう思いながら俺は、慌ててそっちに駆け付けて、効くか効かないか分からないがセシル王に向けて『挑発』を掛けた。


 すると、背中を向けていたセシル王が振り返った。そして、さっきのスレイと同じ、瞳孔が小さな点になった奇妙な目で俺を見る。


 『挑発』は効いた。それは良かった。


 ターゲットを俺に変えてこちらに向かって来るセシル王。振り返るその前にチラッと見えたその背中。


 俺は気付いた。人の手の平みたいな物が何かがくっついていた事に。


 セシル王が俺の方を向いた事で、トールとグレイクも、その背中を見て気付いただろう。


 多分、それがレニアⅩⅤだ。


 すぐさま、先程見ていたトールの過去の中の資料が脳裏に浮かぶ。


 『寄生』、対象に付着し養分を奪いつつ相手を自在に操る。対象を解放するには本体を倒す他無い。注意・無理矢理引き剥がすと触手が体内に入り込み、そのまま抜けずに対象者を死に至らしめる。


 さて、どうやって倒すべきか・・・。


 セシル王の振るう剣を刃を殺した片刃の剣で受け流しながら、俺は脳味噌をフル回転させるのだった。

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