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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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4、生体兵器の倒し方

「消耗戦だな」


「そういう()()なんです」


 ナイルのぼやきにトールが答えた。


 魔物を元に作られた生体兵器『レニアⅤ』の蔓は、切り落とされてもすぐさま再生した。刈り取っては裂き、刈り取っては裂き。それがひたすらエンドレス。


 トールの体力は化け物級。全く変わらぬペースで蔓を切り落とし続ける。けれども他の()()()が限界を迎えつつあり、裂くのが追い付かなくなってきていた。


「アンジェ、矢くれ」


 ゴーシュがそう言うと、エクボの可愛い女性、アンジェが木箱へ走り、新しい矢筒を取り出して投げる。受け取って装填したゴーシュは、すかさず連射して装填する間の遅れを取り戻した。


「エネルギーが尽きると蔓の再生が止まります。そうすると次のフェーズに」


 手を休めずにトールが説明をする。フェーズとかゲームみたいだ。


「根がエネルギー源を探して動き回るのと同時に、頭頂部から種を飛ばします。種が着地するとそこから新たな芽が出て来て同じものが育ってしまうので、種のうちに始末するか、発芽直後に引き抜かなくてはなりません」


 それを聞いてゴーシュが言った。


「種は俺が何とかするよ」


 ゴーシュの改良型クロスボウなら飛んで来た種を撃ち抜くのに最適だろう。


 ならば後は、と思い、俺は聞いた。


「根と本体はどうするんだ?」


「本体も蔓と同じく中心部に芯があります。茎は縦に裂き、根は切り離せば倒せます」


 俺の質問に答えたトールの言葉に続けてナイルが言った。


「そっちは任せろ。お前らとアンジェは援護を頼む」


 頷く全員。


 俺達は、疲弊する体に気合いを入れ直して()()()を待った。




 レニアⅤの本体から生える蔓の数が減り始めた。残りの数が数えられるようになる。5本、4本、3本と終わりが見え始めて、残り2本になった所で()()は始まった。


 レニアⅤは、2本の蔓を長い両手の様に扱い、床にドンと付いて押した。グッと力むような素振(そぶ)りを見せると、まるで人が穴の中から脚を引き抜くように1本1本丁寧に根を引き抜いたのだ。


「来ます!」


 トールの声が響いた。それとほぼ同時に、頭頂部の玉ねぎが膨らむ。膨らんでそこから茶色くて丸っこい泥団子みたいなのが飛び出した。その数5〜6個。


「任せろ!」


 言ったゴーシュがすかさず連射して撃ち落とした。全弾命中。お見事。矢が刺さって落下した種は、そのままグズグズと崩れて消えた。


 喜んだのも束の間、再び玉ねぎが種を発射する。今度の方が多い。けれどもゴーシュは、落ち着いてこれまた全弾を命中させた。


 が、


 気付くと、根が全部抜けていた。それをナイルが切ろうとした瞬間、レニアⅤは巨体に似合わぬスピードでサッと移動し、なんとその根をゴーシュに伸ばしたのだった。


 根の先端がゴーシュの脚を捕える。絡め取られて引きずられ、床の上に倒されるゴーシュ。


 ほぼ同時に3度目の種が発射された。その数は今までで1番多い。ゴーシュは反応出来ない。


 マズイ。


 俺はゴーシュに巻き付いた根に駆け寄り、その一本を切り離す。それによって動ける様になったゴーシュは立ち上がり、改良型クロスボウを構え、ナイルは茎に追い付いて、根と茎を切り離した。


 間に合うか・・・!


 思いながら、俺は種がタッチダウンした瞬間に引き抜く心算で、発射された種の軌道を読む。


 空中にある落下しつつある種の数は19。少なくはない。その19個の種の落ちる順番と俺自身が辿るべきルートを、焦らず脳内で描いて行く。


 落ち着け、落ち着けと念じながら、1、2、3・・・、と点繋ぎみたいにカクカクのラインを描いて9まで行った時だった。


 背後から弓矢の弦を引き絞る音が聞こえて来たのだ。


 一瞬、アンジェかと思った。彼女は弓を持ち構えていたし、ナイルとゴーシュの援護をしていたのだから。でもすぐに違うと分かる。さっき彼女が弓を引いた時の音と、あまりにも違っていたから。


 素速く、力強い弓引きの弦の音。


 振り返って確認する間も無かった。一瞬も無い。1/10瞬くらい。その短い間で、俺の背後から無数の矢が飛んで来た。矢は弾丸のように速かった。目に見えぬその矢の1本1本は、正確に宙を飛ぶ種を貫いた。


 その数、19本。


 貫かれた種は勢いを失い、全て床に落ちて崩れて消えた。


「すげ・・・」


 思わず俺の口から、そんな声が漏れた。


 種が全部崩れ消えたのを確認した後、安堵した俺の目にナイルが茎と頭頂部の玉ねぎを切り裂くのが見えた。


 裂かれた側から茶色く変色して、枯れて行くレニアⅤの茎。


「おし、終わった!」


 ナイルのその声に被せる様にして背後から拍手が聞こえてきた。振り返って見ると、そこには深いエクボを見せながら笑顔で手を叩くアンジェと、その横に彼女の弓を持ったトールが立っていた。


「良かった、一時はどうなるかと思った」


 アンジェがそう言ってトールを仰ぎ見る。


「トールさん凄い。こんなに速く矢を放てる人初めて見た」


 俺は、呆然とトールを見た。その視線に気付いたのか、トールが俺を見て少し笑って、そして皆んなに向かって言った。


「皆さん、お疲れ様です」


 俺はトールの所に歩み寄った。すぐ横まで行って、そしてトールと、トールの持つ弓を見る。そして思い出す。会ったばかりの時にトールが「弓の方が得意」と言っていた事を。


 剣の腕だって相当凄いのに、それよりも弓の方が得意だなんて、どんだけ凄いんだ・・・。


「あんた凄いのな、ホント。驚くわ」


 そう言ったのはゴーシュ。言いながら俺の肩に手を置いて、そして振り返った俺に「根っこ切ってくれてありがとう」と礼を言った。


 近い・・・。


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