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⑳──異世界に思い馳せて

 


「では、こちらが報酬となります」

「ありがとうございます」

「四葉の皆さんのますますのご活躍楽しみにしております。では、また······」


 今日もクエストを達成し、受付嬢に報告を終えた四葉一行は馴染みの店に祝杯をあげに行った。



「えー、では皆さん本日も無事でなにより。お疲れ様でした。カンパーイ」

『お疲れ様ー』


 喜びの音色がカチンっと爽やかに鳴らされ、和んだ空気が一同を包み込む。



「あー、空腹に肉が染みる······」

「ふふ、トミーは本当によく食べるわね」

「いやー、俺って脳筋だからさあ」

「コリンもお肉いる?」

「ありがとうアイ。でも僕はこっちの魚にするからトミーにあげて」

「いいのか?コリンも育ち盛りなんだからもっと食わなくて平気か?」

「僕、少食だから」

「じゃあ、あたしが食べようかな」


(······今日も平和でなにより)


 三人のリラックスした様子を眺めてチェニアは一人ほろっと頬を緩めた。



(少しづつだけど段々みんな打ち解けあってきたかも。まだまだ腹を割って話せるって程ではないかもだけど、このままいけばいつかは──)


 ジョッギを傾けながらチェニアはふと思った。


(そう言えばこの三人は同じ世界から来てたんだった。まあ、背景からの憶測ではあるけど。いわゆる同郷の士ってやつだ。出身地が同じなら価値観も近いはずだし······なにかそういう共通の話題とかあればもっと仲良くなれるかも)


 チェニアはサトリの力で三人の心の声をそっと探りにかかった。



「いやー、こうやってみんなで飲むのは楽しいなあ」

(社畜だった時は出たくもない飲み会に連行されて気苦労が絶えなかったからなあ)

「ふふ、飲みすぎないでねトミー」

(JKだった時は分からなかったけど飲み会って結構楽しいかもー)

「勝利の美酒ってやつだね」

(元の世界だったら未成年の飲酒でアウトだろうけど)


「······」

(元の世界、か······)


 頬杖をついてチェニアは微睡(まどろ)むように目を細めた。


(この三人の世界ってどんな所だったんだろう?断片的な記憶しか見た事ないけど凄い発達した文明社会っぽかったのは確か。妙ちくりんな道具とか、山みたいに高い建物とか沢山あったなぁ。でも、魔法が存在しないみたいだったなあ。どうやって文明を発達させたんだろう?モンスターが居ないのは羨ましいけど、それでも色々不満はあったみたいだし。うーん。なんか気になってきたかも)


 それまでは特に意識していなかった異世界への好奇心がチェニアの中で膨らみ始めていた。


(せっかくだし、どういう所だったのか三人に教えて欲しいな)


 とは言え、普通に尋ねる訳にもいかない。そもそも三人は転生者である事を隠しているのだ。

 その上で、上手く話を聞き出す方法をチェニアは考えた。


(とりあえずサトリの力で思考や記憶を読むとして、どうやって聞き出そう。子供の頃何してたー?とか?いや、それよりももっとナチュラルな感じがいい。うーん······あっ、良い方法を思いついた)


 飲みかけのジョッギをゴトリと置いて、チェニアが三人を見回す。


「ねえねえ、みんな」


「ん?」

「なに?」

「なんだい?」


 三人が一斉に振り向く。チェニアは考えついた話の切り出し方をした。


「あのさー、私この間変な夢見てさー」

「変な夢?」

「うん。不思議っていうか、奇妙な夢でね。なんて言うのかな。こことは違う別の世界に居るっていう夢なんだけどー」

『えっ?』

「いやー、夢の中の話なんだけどさ、すごく印象に残ってねー。不思議だったよ。ああいうのを異世界って言うのかな」

『·········』


 トミー、アイ、コリンの三人はまじまじとチェニアを見た。


(い、異世界?)

(それってここの事だけど······)

(どんな夢だったんだろう?)


「······そうだねえ。例えば······あ、あれ。なんかさ、鉄の箱っていうか、馬車をもっと鎧みたいにして角ぼったくした物がそこら中走ってたりしててさ」


 三人の記憶の光景から、具体例を取り上げて口にするチェニア。ちなみに、今彼女が言っている物体は──車。自動車である。


「変な乗り物だよねえ。馬も無いのにあんなのがすごいスピードで走る訳ないのに」

『·········』


 三人は考え込み、視線を手元に落とした。その思考をチェニアの目が見ている。


(鉄の鎧の馬車?あ、車の事か?)

(車っぽいけど······え?そんなピンポイントな夢を見る事ある?)

(車の事かな?そうか、車かぁ)

(確かにこの世界の文明レベルは中世とかそんくらいだし、エンジンだとかそういう概念は無いもんなぁ)

(馬が居なくてもアクセル踏めば勝手に走り出すなんて、それこそ魔法みたいよね)

(詳しくは分かんないけど、ガソリンで動くし、ハンドルで操作出来るし、クーラーとかもあるし)


「おお······」


 三人の思考から流れてくる情報に、チェニアは小さく感嘆の声を漏らした。


 彼女にとっては斬新で、驚異的な発明品であった。地面深くに眠る液体を燃やして、その力で車輪が回り、動く鉄の箱。しかもスピードは馬よりも速く、大きさや用途も様々。大人数を一度に乗せたり、荷物を運ぶ種類なども。そんな物をどうやったら思いつき、どうすれば作れるのか。

 流石に、専門的な知識を三人は持ち合わせていなかった。


(ふむふむ。自動車かぁ。言い得て妙。異世界人は面白い物を考えるなあ)


 チェニアはさらに次の話に移った。


「他にはね、部屋の中に四角い板っていうか、カンバンみたいな物があってね。その中に色々な物が入ってるんだよ」


(四角い板?)

(カンバン?)

(色々入ってる?)


 三人が揃って首を傾げる。


(それは多分俺の世界には無いな)

(車はあたしの世界のとそっくりだけど、そんな妙なアイテムは無いわね)

(カンバンに色々な物が?不思議道具かな)


「あ、あれ?」


 三人とも分かっていなかったため、チェニアは戸惑った。


(おかしいな。三人の記憶の中には確かにあった道具のはずなんだけど。あ、そうだ)


 チェニアはポーチから紙とペンを取り出した。


「今から描いてみるから見てみて」

「ああ」

「ええ」

「うん」

「えっとー、こんな感じでー」


 ──カリカリカリ──


「こういう風に大きくて──」


 ──カリカリ──


「で、この中にこうやって色々入ってるの。そうそう、人とか動物とか景色まで!」


 ──カリッ──


「こんな感じ」

『···········』


(これ、もしかして──)

(テレビ?)

(あ、そうか、テレビだ)


(テレビ?テレビって言うのか)


 チェニアは三人の思考に意識を集中した。


(多分テレビの事だよなあ。そうかそうか、知らない人からすると中に色々入ってるように見えるか)

(原理は分かんないけど、光で映像が出力されてるだけだもんね。実際にそこに何かあるわけじゃない)

(それにしてもチェニアの見た夢って具体的だなあ)

(仕事忙しくて見る暇無かったから懐かしいな)

(アニメとかバラエティ見てたなぁ)

(ニュースとかは難しくてよく分かんなかったけど、リアルタイムで離れた所の映像見れるのは凄いよな)


(ほうほう)


 チェニアはテレビという道具の知識も得た。


(そこには存在しない光景や、人の声とかを電波とかいう目に見えない魔力のような物にして飛ばし、世界中に送る技術。いや、凄すぎないかその力。というか、魔法をはるかに凌駕してるような)


 チェニアの好奇心は次の探求への話題へと進んだ。


「あと、他にも変なのあったんだよ。その夢の中には」


 チェニアは最も気になった道具の説明を始めた。


「こういう平たい板みたいのでね。で、小さくて持ち運び出来て、みんなポケットの中とかに入れてるんだ。本?なのかな。それとも宗教的な道具なのかな、みんな持ってたし」


(本?)

(平たくて······)

(みんな持ってる?)


「歩いてる時とか、ベンチに座ってる時とか、寝転がってる時とかもずっとそれを熱心に眺めてるんだよ。すごい信心深い教徒のように」


(常に見つめて······あ)

(あ、ひょっとして)

(もしかして──)


 トミーがチェニアに尋ねる。


「それを時々耳に当てたりしてなかったか?」

「え?うん。耳に当ててブツブツ独り言言ってたりしてたよ」


 アイも質問する。


「たまにこうやって指先でチョチョイって表面とかさすってなかった?」

「あ、そうそう。指でチョイチョイやってた」


 最後にコリンが聞く。


「それって光ったり音を出したりしてなかった?」

「そうそう、してた。あれ、何だったんだろうなあ。お守りとかなのかな。みんなすごく大事にしてたというか、肌身離さず暇さえあれば眺めていたみたい」


『············』


 三人は同時に結論を出した。


(スマホだな)

(スマホ)

(スマホだろうな)


(スマホ?)


 三人の記憶や、その場の思考を統合していくチェニア。


(なるほど。今までの道具の中で一番特殊な物のようだ)


 スマートフォン。略してスマホ。

 離れた地点に居る人間との遠距離会話を目的とした携帯電話なる道具に、コンピューターなる道具の性能を導入し、単体での連絡機能を初めとし、その性能は多岐に渡る。


 チェニアが最も惹かれたのはその情報力であった。

 科学的な知識から料理のレシピ、各国の情勢や学問の教本、ファッションの流行から他人への悪口などなど。どこに居ても世界中と繋がれるようなそんな道具。


(とんでもない物作るよな。異世界人は)


 しかし、中毒性の高い危険な物でもあるという側面も兼ねているようであった。


(ふーむ。狂信的な教徒達と似たような感じか)




 異世界の道具の詳細を理解したチェニアは改めて三人の元居た世界に興味を抱いた。


(いいなぁ。なんだか凄く楽しそうな世界だ。きっと夢やワクワクだらけの所に違いない。水や食べ物が豊富で、娯楽が沢山あって、しかもモンスターは存在しない。まさに天国じゃないか。少なくともこっちよりは楽しい所だろうな。あー、私も転生したいなぁ)


 より文明の発達した世界を羨ましく思うチェニアなのであった。

 と、しきりに感心していたチェニアの頭にふと小さな企みがよぎった。


(お?)


 その思いつきは、彼女の悪い癖である悪戯心をくすぐった。


(······ははーん。面白そう。やってみよ)



「ねえねえ、みんな~」

『なに?』

「私、この夢に出てきた世界のあれこれに名前付けてこうかと思うんだー。聞いてみてちょっと感想聞かせてよ」

「え、うん」

「ええ」

「わかったよ」

「·········フフフ」


 三人を見回してからチェニアはニヤリと笑った。


「まず、さっき話した馬も無く走る鉄の箱。これを自動車と名付けたいと思う」

『えっ?!』

「まあ、夢の中に出てくる産物だからねえ。名前も設定もテキトーでいいでしょ。そうだなあ。原理は地面の下に埋まってる不思議な水を燃やして走るって事にしよっか」


「お、おお?」

(す、すげえっ!ネーミングドンピシャ!)

「い、いいね」

(チェニア凄くない?!なんならガソリンの事すら言い当ててる!)

「な、なるほど」

(普通にビックリしたよ!知ってるのかと思ったくらいに!)


「······フッフッフ」


 チェニアは調子に乗った。


「あと、さっきの色々な物が入るカンバンはそうだなあ、テレビってどう?」

『ええっ!?』

(これまたドンピシャだと?!)

(え、エスパー?!)

(こんなピンポイントに?!)

「設定はそうだねぇ、電気魔法で動くって事にしよう。それで、中に入ってるのは本物じゃなくて映像って呼ばれる光魔法による再現って事で──」

(いやいやっ!正にそうなんだよ!)

(設定もほぼ本物じゃん!)

(こんな事ってある?!)

「あー、さっき最後に話した薄い板はねー。うん、賢い本って事でスマートホンって事にしよう。略してスマホ」

『?!?!』

(ほぼ、まんまー!)

(名前の由来が違うだけーっ!)

(略称おんなじーっ!)


「ぷっ······くくくっ······」


 三人の驚く表情にチェニアは一人笑いを堪えていた。


 その後も様々な道具の名前や設定を作って(本来の情報をただ言っているだけ)いき、その度に三人は度胆を抜かれていった。


(チェニアって天才なんじゃ······)

(もう一人で文明作れるでしょ······)

(なんという想像力······)



 すっかり感心しきった三人を見て嬉しくもあったチェニアだったが、チョッピリ罪悪感も覚えた。


 その夜のチェニアは高い食事を三人にご馳走したそうな。




お疲れ様です。次話に続きます。

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