6. 二年
僕はシオン、この村の人はみんな苗字を持ってないからただのシオンだ。
僕は今日で15歳になる。
そして3日後には今年で18歳になる3人に魔法を授ける儀式が行われる。
15歳というのは前世で死んだ年齢で、前世と同じ時を生きた今世の自分の誕生日にも感慨はあるが、それよりも今は魔法習得を見てみたい。
そんな思いでここ数日そわそわしてしまい、今日は朝早く目が覚めたので現在の時刻は5時だ。
んー、鍛錬もいいけど春の陽気が気持ちいいし散歩にでも出よう。
北門のいつもの広場に向かおうかな。
我が家は南側にあるので、中央広場を通って、朝の静寂を聴きながら歩く。
北門に着くと、物見櫓の上にいた人影がこちらを向いた
「よー、シオン。こんな朝早くにどうした?誕生日でそわそわしてんのかガキめ。こっち来いよ」
ニヤつきながら茶化してきた天才に梯子を登りながら呆れ顔を向ける
「…まぁそんなとこだよ。フォードこそ見張りなんてどうしたの。仕事じゃないでしょ」
「討伐で動いてねえんだから代われって」
フォードの隣に腰を下ろし息をつく
「またぁ?あのハゲ一回ちゃんと痛い目見せてやった方がいいよ」
「いいんだよ。使えねえと思われてるうちは責任が生じねえのさ。俺ここの眺め好きだしな」
「ま、良い眺めなのは確かだね」
少し冷えた乾いた空気と森の緑、空の青が溶け合っているかのような美しい景色。
そびえる連峰に囲まれたこの村の清浄さに目を細めた。
「ねえ、そういえばフォードはなんの魔法を」
「しっ。口を閉じろ」
「え?」
なんの気なしに世間話を振ろうとしたシオンに対し、フォードが唐突に口に指を当て静止を促す。そこでシオンもフォードが何を感じ取ったのか理解した
「…揺れてねえか」
「…うん。地震?」
「長いし揺れ方が細かすぎる。それにジジイによれば自然災害なんて何十年も起きたことがないらしい。これじゃまるで…」
「ねえ、あれなに」
シオンが視線を送り、指を指す
森の北方。その山の裏側から大量の鳥達が飛び立っている。
渡り鳥の群れでもあそこまで多くはないだろう。
シオンは言葉にできない予感を感じ、騎獣舎に首を向けた。
「オォォーーーン」「グルルルル」
飼育場のウルフ達が遠吠えを始め興奮しだしていた。
「何がおきてるんだ」
呆然とする。こんなこと15年間起きた試しがない。
「シオン!警鐘を全力で鳴らせ!非常警戒だ!」
「で、でも動物が騒いでるからってこんな早朝にならしたら」
「理由は後付けで考える。いざとなりゃ真顔でドッキリ大成功といってやるさ。何か起きてからじゃ遅い」
確かにその通りだ。
梯子を降りていくフォードを尻目に夢中で鐘をかき鳴らす。
よく見れば森中の動物、モンスターが南に向かって走っていた。
感じた揺れはこれか。大重量のモンスターがこれだけの数走ればそりゃあ地震の如く揺れるだろう。
震える大地に対し、仰ぎ見る空はいつのまにか鳥達で覆われている。
「何が」
北の山に目を凝らす。
なんだ。そこで何が起きてる。
自然災害?天変地異?何者かの、魔法?
数多の鳥によるカラフルなキャンパス。そこに描き出される山脈の頂上。
その一点のみ、巨大なサークル状に鳥がいない
そこに、この世の暴虐を体現するかのような黒が少しずつ、少しずつ差し込まれた
得体の知れない緊張感が作り出す数時間にも思える濃密な時間、目を奪われる
顕現。天より降り立ったその怪物は、有翼の竜種
「なんでこの距離で竜種だとわかんだよ…どれだけでかいんだ!」
物見櫓を飛び降り中央広場に最速で向かう。
非常事態時の決まりにより村人は既にほとんどが中央広場に集まっていた。
「父さん!母さん!」
「良かった無事ねシオン!」
「警鐘で飛び起きたらいなかったから焦ったぞ!」
「ごめん散歩に出てて…」
「子供達!あれが向かってくるにはまだ時間がある。討伐用の装備一式と持てるだけの兵糧を取りに向かえ!その間に大人達で動きを決める!」
広場中央。村長が声を張り上げ指示を出した
「「了解!」」
村を捨ててあの怪物から逃げるにしろ武器は必要だ。
大人達が集まって話し合いを始めたのを視界の端に捉えながら、子供達は武器庫に向かって走り出す。
その中でフォードだけが、動かず怪物を凝視し続けていた