7. 選択
シオンが装備を整え広場に戻ってくると、フォードが地べたで胡坐をかいてうたた寝していた。
「フォード!大人達の話し合いに参加しなよ。頭いいんだから」
「ん?あぁ、無駄だよシオン。大人達は俺たちの知らない情報を持ってる。というかあまりにもこちらに情報が少ない」
「でもフォードなら…」
「どの方角に向かって逃げるのがいいのか。こちらの戦力はどれほどか。大人達それぞれの魔法は?そもそもあの怪物はなんなのか」
「この村は、世界のどこにある?」
フォードは矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。こうしてる間にも少しずつこちらに迫ってくる有翼の怪物に目を向け、眉間に皺を刻みながら。
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子供たちが集まったころ、話し合いを終えたらしい大人達は村長を先頭に、怪物に背を向ける形で子供達に向かい合った。
一歩前に出た村長は、落ち着いた声で今後の方針を説明するため口を開いた。
「これより、邪竜討伐を行う」
…は?討伐?邪竜って、あれを?
「討伐って、そんなことできるんですか?」
エン兄が当然の疑問を口にする。
あれはどうみてもサイズだけでかい木偶ではない。森中の生き物が騒ぎ出す暴虐の象徴なのだ
「魔法を使えば、可能性はある」
「ジジイ、寝ぼけてんじゃねえよ。魔法はそんな万能の代物じゃない。逃げの一択だろうが」
立ち上がったフォードが珍しく焦りや苛立ちを顔に出しながら、無謀な作戦を切って捨てる。
「不可能。あれは明確にこちらを狙っている。あれの目的は人の間引き。すぐに襲ってこないのは逃げられないことを知っているからよ。時期に本気で来る」
「だとしても、戦うよりはバラバラに逃げた方が1人か2人は生き残る可能性があるだろう。あれを倒しうる魔法など存在するのか」
三日後に魔法を授かる予定だった三人のうちの一人であるイヴォールトが、現実的な案を上げるがそれに応えたのはフォードだった
「代償だ。
誰が何を支払って魔法を行使する気だ」
魔法について大した理解はないシオンだがフォードの顔を見て、ロクな代償じゃないことだけは理解できた
「イヴォールト、逃げれば1人か2人は生き残ると言ったな。それでは次善。儂らの選択は討伐により11人を生かし通す」
言ってる意味が、分からなかった
「ジジイてめえ未成年以外の村人の命を全て代償にするつもりか」
「それですら足りん。この盆地一帯の命を代償に奴を穿つ」
なにか?つまり父と母を生贄に生き残れと、そういうことなのか
「もっとなにか、方法はないのかよ!」
ムツキが声を荒げる。そうだよ、フォードならもっと別の作戦とかが
村長の後ろに立つ父さんが口を開いた。そうだ、別の作戦を話してくれよ
「村長。貴方は生き残るべきだ。誰か1人は大人が残らないといけない」
「儂に貴様らの命を使って生き永らえろと?」
「それこそ貴方が背負うべき責務です」
待ってくれ、そうじゃないだろう
「みんなで逃げようよ。それで全滅ならそれまでだったんだ。死ぬなら全員で死ねばいい。自分を犠牲に人を助けようなんて自己満足じゃないか」
「シオン……」
のどが絞まる感覚。息がうまく吸えず声が震える。どうにか思いとどまらせないと。早く。どうしたら。邪竜は今この瞬間、僕たちを狩りに来るかもしれないのに
「みんな大好きなんだよ…みんなで生きる努力をしようよ。誰かを犠牲にするのを前提にした話をもうやめてよ」
あぁ、大人達の立ち並ぶその奥で邪竜が頭をもたげたのが見えてしまった。
「ーーーーーーー」
咆哮
大きすぎる空気の震えに音を音と認識できない。逃れ得ぬ死の宣告をその身にうけて膝が笑い汗が滲む。
生物としての本能的な恐怖が、立ち向かおうとしていた心も、数人は逃げ切れるかもしれないという楽観もへし折る
しかしそれを意に介さず、大人達は穏やかな笑みで最後の言葉を紡ぎゆく
「俺たちはとっくの昔に覚悟を決めていた」




