王の花嫁探し2
メリッサとレモンの姉妹とバウム夫妻は乗合馬車に揺られて王都に向かっていた。バウム卿だけが王都に向かう普段なら乗合馬車で済んだが、(寄宿舎学校にいる息子レミオンを除いた)一家総出の今回は貸し馬車を利用する予定であった。しかし、貸し馬車の空きがなく、乗合馬車になったのである。
それもこれも、国王の花嫁探しの舞踏会のせいだった。
交通手段がなくなることは予想されていたので、軍隊の兵と馬車が臨時の乗合馬車として動員された。その運賃はタダ同然。
お世辞にもあまり裕福ではないバウム一家は喜んで、臨時の乗合馬車を選んだ。舞踏会に招かれている多くの者と同様に。
「王都に入ったよ、お嬢ちゃんたち」
陽気な御者が御者台から叫ぶ。その馴れ馴れしい口調に大人たちは眉を顰め、子どもたちは興奮のあまり気付かず、代わりに歓声を上げる。
「王都よ! とうとう王都に来たのよ! 王様のいるところよ!」
「美味しい物、いっぱいあるよね!」
「あ~、あこがれのマダム・ジャスパーのドレス~! 待ってて~、すぐに行くから~」
「スゴイ! 王都って、空気まで違う!」
娘たちが口々にはしゃぐ声に、御者は苦笑する。この娘たちが国王の花嫁候補だというのは冗談としか思えない。現実味がないもの当然で、彼女たちが選ばれることはまずない。ある程度有力な家の娘で既に決まっているものの、それを知られたくない国王側の最後の足掻きだろう。その代わり、娘たちは一生足を踏み入れることのない王宮の舞踏会に1日だけ入ることを許されている。正しくは、王宮の舞踏会に1日だけ、強制参加が義務付けられている。
「田舎臭くな~い」と、鼻をクンクン鳴らして匂いを嗅いでいた娘が言った。
御者は笑いながら言った。
「そりゃ、人が多いからゴミゴミしてんだよ。オレっちは、草や土の匂いが濃いほうが好きだな~。そうだ、道が石畳になったから、揺れも小さくなったろ?」
言われてみれば、ガタガタと揺れていた馬車の揺れが心なしか小さく、規則正しくなったような気がする。
「そうね」
「外見ちゃ、駄目かな。 お父様?」
バウム家の妹娘レモンは姉の隣に座る父親に尋ねる。
同じ馬車に乗るルー家の娘メリー=ルーが馬車の後ろに付けられている船布を捲って、外を見ながら言う。
「後ろから見えるわよ。うわー、見渡すばかり、建物ばっか」
「メリー、危ないから座っていなさい」
ルー夫人が腰が引けた状態で言った。馬車の揺れに弱い彼女は吊り革に両手で掴まって、蒼白な顔をしている。
バウム卿は姉娘メリッサの頭越しに妹娘に言う。
「レモン。あとでゆっくり見れるから、待ちなさい。先に宿に行こう」
「はーい。で、宿ってどんなところに泊まるの? 鵲亭みたいなところ? 酔いどれグリーンマンみたいなところ?」
メリッサは妹の言葉に吹き出す。酔いどれグリーンマンは激しい雨を避けるために寄った酒場だ。宿としても機能しているが、女子供連れで利用するには相応しくないたぐいの宿だった。それを知らないメリッサの言葉に、今度は御者が吹き出す。
「レモン。酔いどれグリーンマンは、酒場じゃない。宿じゃないわ」
「お嬢ちゃんたちを見ていると飽きないよ。帰りも送って行けたらな~」
御者の言葉を他所に、ルー家とバウム家の主たちは声を潜めて囁き合う。
「帰りは馴れ馴れしい御者じゃないといいのだが」
「本当に」




