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玄人仕事  作者: 千場 葉
#5 『パースペクティーフ・オブ・デザート』
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8.乾いた心


「やぁ、君はこの星の人なのかい?」


 巨大な鉄の船。彼の世界をして「SF」と評するべき建造物からそいつは現れた。


「……なんだお前は」


 ダテは呆然と、突然に現れた分厚いパイロットスーツらしきものを着込んだ西洋風の男を見ていた。


「僕はウェイロン、ウェイロン・マークスだ。言葉は通じるようだね、君は?」

「俺は…… ダテ、リョウイチ……」

「リョーイチか、よろしく」


 スーツの丸いヘルメットから覗く顔は三十かそこらに見える。金髪の青い瞳、ダテが異世界で出会う人物達には珍しくもないが、男の顔立ちはどこか彼が知る映画に出てくる外国人のようだった。


「それで君は、この星の人なのかい?」

「……違う、俺は人間だ。見てわからないか?」

「んー? 確かに見た目は古代日本人っぽいけど……」


 ウェイロンと名乗る男は大げさに腕を広げ、首を振るジェスチャーをやった。


「日本? お前今、日本って言ったか?」

「ああ、言ったよ、僕らの祖先が住んでいたホーム、地球にあった国だ。僕は大学では考古学をとっていたからね、結構詳しいのさ」


 ダテは頭が混乱しつつあった。先ほどまで戦ってきた相手とこの目の前の男の落差に。


「ちょ、ちょっと待て、世界観がおかしい…… なんだこの世界は……」

「オオウ? 記憶がヤバイのかい?」

「か、かもしれん…… えっと、今は西暦何年だ……?」


 男の雰囲気や話から、最早「その可能性」しかなくなっていた。手っ取り早くダテは答えの確信を探る。


「西暦? オオウ、イエス様のお話だね? ちょっと待ってくれよ」


 ウェイロンは右手を挙げ、手のひらから光線を発した。中空にパソコンのウェブのような画面が広がり、ダテもよく知るアルファベットが羅列される。

 画面は文字を入力されることもなく猛スピードで切り替わり、情報が表示された。



 ――A.D.23,275



「に、にまんさんぜっ……!?」


 西暦二万三千年―― 精霊の住む世界の一件は、途方も無い未来の一件だった。


「オウ? 君は…… タイムトリッパーなのかい? いつから来たの?」


 考古学専攻のウェイロンとやらが、驚いたダテにくいついた。


「二千年…… ちょい」

「二千年!? 無いよ無い無い! 時空移動のシステムが無いよ!」


 今度はウェイロンが大げさに驚く、演技なのか素なのか、わからないくらいだった。


「うっせ! そっちこそ嘘だろ! 未来人ってのはそんなアメリカアメリカしてなくて、もっとこう…… リトルグレイっぽい体格になってるはずだろうが!」

「ノン! ノン! そんな格好悪い進化人類は認めないよ! それを言えば君だって古代日本人っぽいじゃないか! 羨ましいよ! どこでそんな細胞サンプル手に入れたんだい!」

「俺は純日本人だ!」


 そこまで言い合って、多少以上に馬鹿馬鹿しくなってきたダテは、どかりと再び地面に座った。


「はぁ…… なんなんだよお前は…… いきなり来て未来だとか言い出すし…… 俺は「仕事」しなきゃなんないんだから、用が無いなら帰れよ」

「オウ? 仕事?」


 ダテはぶっきらぼうに紫色の岩石群を指差す。


「あれがこの世界に悪さしてるんだ。俺はあれをなんとかせにゃならん」


 話している間にも、ダテの右腕は隕石に反応し、脈打つように変形を彼に訴えていた。そして辺りには、変わらず紫の瘴気が渦巻いている。


「……ウン? それは困るお仕事だね」

「何……?」


 ウェイロンの空気が変わった。


「リョーイチ、でよかったよね? 君の雇い主は誰だい?」


 明確な敵意。フレンドリーな雰囲気とは打って変わって、笑顔の裏に悪意を感じる。人の悪意、それはダテにとって見分けやすい種類の心の動きだった。


「世界さ…… 給料も払わない、ロクデナシばかりのな」

「へぇ……」


 ダテは確信した。このタイミングで現れた、この男は――


「なるほど…… この隕石、お前が関わってるってわけだ」

「うーん、正確には…… 僕達の五百年くらい前のボスが関わってるんだけどね」


 五百年、老人の話と符合した。


「目的はなんだ? わけのわからんウイルスだらけの隕石を落とした理由、聞かせろ」


 ダテはウェイロンという男を探った。魔力は感じない。見るからに身体能力も低い。だが西暦二万年を超えた先の未来人。この人物とその後ろ盾には、隕石を落とす技術くらいはあるのだろう。魔法ではなかろうとも。


「そうだね…… 安く買いたい人がいる、そんなところかな?」

「安く……? 何をだ?」

「うん? この星」


 ウェイロンは両手を賑やかに、意味の掴めないジェスチャーを交えて話す。


「このポイントはね、僕達のホームである星から丁度いい距離にあるんだ。他の星に攻め込むための補給路としてね。それで、五百年と前に僕達の星で買い上げたのさ」

「買い上げた? ちょっと待て、そんな話はこの世界の人間からは……」

「買い上げたのは惑星連合を相手にした競売だよ? どこの星が所有するかの金の出し合いさ。空にも行けない原住民達には関係の無い話だろう?」


 こいつは何を言ってるのか、そんな体を見せてウェイロンはさも当然のように言い捨てた。


「でもこの星ってさ、緑豊かっていうか、宇宙にしても珍しい結構綺麗な場所でお値段高かったんだよね。で、その取り決めの支払い期日である今現在、当時から五百年後までの間になんとか価格を下落させておきたかったわけ。それで、僕達の会社がその仕事を請け負って土地を砂漠化できる石を振らせてやったわけだ」


 ダテは開いた口が塞がらなかった。

 聞いた内容が耳から抜けるのではと思うほどに、男の話は常識と道を外れていた。


「僕達の星のお偉いさん方は大満足だったよ。価格は安くなるし、砂漠ばっかりで惑星連合の言う環境保護は無視して建物建て放題だし、いいことずくめ。うちの会社の業績も上がって言うことなしって状態だよ」


 ダテの手にも口元にも、紫煙を出してくれる一本は無い。

 彼はそれがある前提で息を吸い、吐いた。


「……ビジネス、ってわけか」

「まぁそうだね、ところでリョーイチ? ウイルスだらけってのはなんだい?」

「ああ……?」

「君が言ったんじゃないか、ウイルスだらけの石ってのはどういう意味なんだい?」

「……知らないのか?」


 ウェイロンの口調は柔らかい、相も変わらず笑顔。だが、ヘルメット越しに見る目元には一切の笑みが無い。


「知らないね…… 僕が知っているのは、この石を落とした場所の土地は枯れる、それだけだ。その現象さえも理由はわかっていない。君は…… いや、君の雇い先は僕達の知らないことまで知っている…… そういうことなのかな?」

「なんか勘違いしてるようだな……」


 ダテは右手を額に当て、前髪を掻いた。


「まぁいい、聞きたきゃ聞かせてやる。あの石は今、こうやって話している間もウイルスをばらまき続けている。土地を枯らし、吸い上げた力を元にな。そのウイルスは生き物に作用して――」


 彼の腕がバラリ、と赤黒く避ける。ウェイロンの目元がわずかに開いた。


「化け物にしちまうってわけだ。ウイルスの言いなりになる、そんな化け物にな。まわりを見てみな、ここで死んでる連中はその感染者達の慣れの果てだ」


 今更見るまでもなく、ダテの戦いを遠くから見ていたのだろう。ウェイロンはただ、ダテの右腕を見ていた。


「……恐ろしいね、スーツを着ていなければと思うとぞっとするよ」

「ああ、俺もワクチンが無ければと思うとぞっとする。無ければ多分、こいつらのお仲間だったんだろうよ」


 ダテは腕を戻した。顔をしかめる。

 戻りが遅い、確かな感覚としてそれがあった。


「未知のウイルスにワクチンか…… 興味深い話だね。ああ、念を押して言っておくよ、ウイルスに関してはほんとに初めて聞いた。素直に教えてくれて礼を言うよ」

「本当にお前か、お前らが石に仕込んだわけじゃないのか?」

「何を言ってるんだい、そんな危険なものを仕込んだらビジネスにならないじゃないか。そもそもさっきも言ったように僕達はあの石についてだってよくわかってないんだから。こんな近い距離にだって、今まで近づいた人はいないよ」


 百メートルも無い先、巨大にうずくまる石群を見ながらウェイロンは言った。確かにそうだろう、この男の住む星の連中とやらはここをあの鉄の船、宇宙船やら宇宙戦艦の補給場所として使うつもりなのだ。こいつの言っていることに嘘はないだろう、ダテはそう思った。そして――


「……お前らは、そんなよくわからんものを仕事に使うのか?」


 伏せた彼の目元の皮膚が、若干の強張りを見せる。


「そりゃ使うよ、太古の昔にあった自動車って乗り物を知ってるかい? あれの内燃機関の詳細だってしっかりわかったのは普及して百年近く経ってからだったんだよ。サーチライトだって、この僕が着てるスーツだって同じさ、考古学が専門の僕には仕組みなんてまったくわからない、要は使えて結果が出せるなら使う側には中身なんてどうでもいいんだよ」

「そうだな…… 確かにそうだ」


 ダテが力を込めて、騒ぎ続ける右手を握り込む。


「確かに、ウイルスだの魔法だの科学だの…… 中身なんざどうでもいいな、どういう結果が出せるのかさえわかりゃ、使う側には充分だ」


 そして緩慢な動作で、右手を見ながら彼は立ち上がった。


「ああ、そうだろう? じゃあそろそろリョーイチ、ビジネスの話に入ろ――」


 言い終わる前に、ウェイロンの体はくの字に曲がり、空を飛んでいた。


「結果が最悪だったら意味ねぇだろうがタコ……」


 真下には一瞬で懐に潜り込み、ボディアッパーを決めた体勢のダテが立っていた。


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