第11話 グーラとアヴァリティア ※
2014.4.18 話を大きく修正しました。
康司は灰色の狼に追われていた。
「くそっ。またかっ!」
走って走ってなんとか逃げ切れたと思っても、また現れる。
すると追いつかれて今度は右足を喰われて膝から下がなくなった!
もう一頭が左足を襲う!
「やめてくれっ! オレが何をしたって言うんだっ! もう勘弁してくれよっ! 助けてくれっ! 親父っ、お袋っ、誰でもいいから助けてくれっ!」
その瞬間、康司は目が覚めた。慌てて自分の足を確認する。ちゃんとついている事がわかった康司はため息をひとつついた。
「ゆ、夢か……。両手だけじゃなくて足まで奪われるなんて、もう勘弁してくれよ……」
びっしょり汗をかいている。
また寝ると同じ夢を見そうな気がした康司は寝るのが怖くなっていた。
「どうすりゃいいんだよ……」
だが、体力が戻っていない康司はしばらくするとまた眠りに落ちていった。
翌朝、浅い眠りの中で康司は人が会話する声で目が覚めた。
(同じ牢に誰か入って来たのだろうか?)
康司は周りを見渡したが誰もいない。
「おい、こっちだよ」
声はすぐ傍で聞こえていた。
その時康司は、はっと意識が覚醒する。
なんと両腕が付いている。手もある。
康司は喜びのあまり叫んだ。
「昨日のおっちゃんはこの事を言ってたのか! 凄ぇなシャンハール!」
康司は両手の指が動くことを確認するように手のひらを上に向けて握ろうとした。
その時、両手の手のひらにあってはならないものがあるのに気が付いた。
そこには、右手には男の、左手には女の口がついていた。
「よう、宿主!」
「ようやく気付いてくれたわね」
声の主はこいつらだった。
康司は人生で今までにあげたことがないくらい絶叫し、そのまま気絶した。
「おーい、宿主ーっ。起きてくれよ!」
康司は気絶しているにもかかわらず自分の手に顔をぱんぱん叩かれている。
「あら、意外に脆いわね」
「しょーがねーなぁ。こんな程度で」
「う、うっ……」
康司が気絶から目覚めてみると、容赦のない言葉を吐きかけられた。
「おい、しっかりしろよ宿主」
「なんなんだよ。お前らっ」
「あら。やっとまともに話ができそうね」
「なんで、お前らオレの腕にいるんだ! 昨日までいなかったのにいつの間についたんだよっ!」
「そんなこと言ってもねぇ。私たちだってつけられちゃったんだし……。選択権ないもの」
「おいらも、気がついたら、宿主の腕になっちまってたしなぁ」
(気がついたらって……。何だか嫌な予感がする)
「誰がやったんだよ」
「多分ここの老師じゃない?」
「そうだな多分」
「老師って?」
「会ってないかしら? “ふぉっふぉっふぉっ”に」
「あいつか!」
「そう、あいつ」
「ちきしょう。なんてことしやがる。オレが化け物になっちまったじゃねぇか」
左手が意外だという風に広がってのけぞる。
「あらずいぶんな言い様ね。でも、ま、私たち所謂魔生物だし。ある意味当たってるのかしら」
「でもよ。宿主も腕がなかったから、大変だったんだろ。これからはよ。おいら達が腕をやってやっからよ。感謝しろよ」
何故か右手もふんぞり返る。
康司は両手のひらをまじまじと見つめる。
「え~。ちょっと、手のひらの口は強烈過ぎる……」
「なに、この口がいやなの?」
左手の人差し指が勝手に右手のひらを指している。
「いや、おいらだけじゃないだろ。お前も同じだろ」
「あら、私はこう見えて上品で繊細よ」
「どこがだよ。だったら、おいらだってかっこいいだろ」
「え~。どのへんがよ」
康司を差し置いて二人?は漫才を始めた。
そんな両手?を康司はバッサリと切り捨てる。
「どっちもどっちだな」
「あら、せっかく宿ってあげてるのに、もう少し有難がってくれてもいいじゃない?」
左手は不満そうだ。
「おいら達は働くぜぇ」
「働くってどういう風にだよ。普通に手をやってくれるんじゃないのかよ。あと、その口、見えないようにとか、目立たないようにはできねえの?」
「出来ないことないわよ。仕方ないから、そこは譲ってあげるわ」
「おいらの口、かっこいいのに……」
「頼むわ。そのままだとオレの精神が持たねえし」
両手のひらから口が見えなくなった。康司は少しほっとした。
「そういや、自己紹介がまだだったな。おいらはグーラ。おいらは岩石や金属とかなんでも食べるすげぇ魔生物さ。食べた岩石や金属なんかを使って、体を変化させることもできるんだぜ」
口は見えなくなっても会話は出来るようだ。
康司はグーラと名乗る右手に聞く。
「変化って?」
「そうだなぁ。じゃまずこんなところでどうだ。宿主、格子のところまでいってくれ」
康司が格子の前に立つと、突然康司の意思とは無関係に右手が格子をつかんだ。すると、格子をつかんだところの手のひらが、格子を食べ始める!
“ガリッ、ボリッ、ガキッ”
「けっ。なんかサビ臭くて、うまくねぇな」
(おいおい……)
ちょうど、手のひらぐらいの大きさの格子がなくなっている。
「見てろよ」
そういうと、右手の人差し指と中指がくっつき、鉄のナイフのような形に変化した。
康司が左手で触ってみると、確かに金属のようだ。
「へぇ、すげえな」
「この格子全部食ってもいいんだけどよ。今食っちまうと、老師や部下どもがうるせぇと思うからよ。これくらいにしとこうぜ」
「何でも食えるのか?」
「成長すりゃ本当は何でも食えるんだけどよ。おいらは新しい宿主についたばかりだろ。だから、まだそんなに力が強くねえんだ。少しずついろんなものを食わせてくれれば、がんがん成長するぜ!」
「成長って腕がでかくなったりするのか?」
「違うよ。でも力がついてきたら、今の腕よりは立派になると思うぜ」
「わかったよ」
すると右手の指先は普通の状態に戻った。
「じゃ、つぎは私の番ね。私はアヴァリティア。アヴァって呼んでくれる? 私の力は、こいつと違って上品よ。なんたって、私が食べるものは、魔力と能力だからね」
「魔力と能力?」
「そう。相手が持っている魔力を食べて自分のものにしたり、相手が放った魔法を飲み込んで自分の力にしたり。飲み込んだ魔法は、宿主と私の力の及ぶ範囲で宿主のものにできるわよ。あと、相手の能力を食べて奪うこともできるし、味見して同じ能力をもつこともできるわ」
「へぇ」
「あら、信用できないのかしら? 試して見せたいところだけど、ここには宿主と私達以外に誰もいないしねぇ。残念」
「いや。わかったよ。後で見せてもらうことにするよ。魔法とか能力は何でもいけるのか?」
「あ、だから私と宿主の力の及ぶ範囲でよ。グーラと同じで私もまだ、宿主についてから時間が経っていないし、まだ力も弱いのよ。だから宿主が強くなって、私も力をつければ大丈夫だと思うわよ。それまでは、相手を見て大丈夫かどうか確認しながらってとこかしらね」
2人?と話していると、通路の奥の方から声が聞こえてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ。なにやらにぎやかになっておるようじゃの」
「あ、じいさんが来た」
「おう。無事に腕がつきおったか」
「じいさん、勝手にこんなのつけんなよ」
「何を言うておるのじゃ。お主、腕がのうて飯もくえんて嘆いておったではないか。それを不憫に思うてつけてやったに」
(恩着せがましいじいさんだな……。でもよく考えたら、じいさんがこいつらを腕に仕込んだのいつだ?)
「不憫もなにも、オレが気がつく前に仕込んでたんだろ。どうやってつけたんだよ」
「なに、そいつらの幼生をお主の腕の傷にの。ふぉっふぉっふぉっ。でも、どうじゃ。腕がないほうがよかったかの?」
「いや、ないよりはずいぶんましだな。腕があるってことがこんなにありがたいことだとは思わなかったよ」
「そうじゃろう、そうじゃろう。そいつらはお前さんの役に立つはずじゃ。大事にするのじゃな」
そこで康司は疑問に思ったことを口にした。
「で、じいさんはオレにこの両腕をつけて何をさせようっていうんだ?」
「ん?」
「何か目的があんだろ」
「ま、それはおいおいの」
「はぐらかしかよ。ところで、前にオレのことを“異邦の人”って呼んだよな。あれはどういうことだか教えてくれよ」
「そんなこと言うたかの」
はてと老師はとぼける。
「とぼけんじゃなくて教えてくれよ」
「ま、よいか。この世界ローメリアにはの、昔からごく稀にこの世界以外の人間が迷い込むことがあるのじゃそうじゃ。元の世界で死んだのか、それとも時と空間の狭間におちたのか、その辺はわからんがの。そして伝えるところによると、異邦の人にはこの世界の人間にはない、特殊な能力が備わっていることが多いといわれておる。お主はどうじゃろうの。ふぉっふぉっふぉっ。これからが楽しみじゃの」
「そうか」
「まあ、しばらくはその両腕と仲良くなれるように頑張ることじゃ。それじゃの」
それだけ言うと老師は去っていった。
「オレは、この世界の人間じゃないのか……」
「よう、宿主、元気出しなよ」
「そうよ。私達が文字通り“ついてる”じゃない」
「ああ、そうだな」
康司はなんだかこの2人?が頼もしく思えてきて、親しみが沸いてきた。
「よろしくな、グーラ、アヴァ」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
魔生物の2人?の名前は7つの大罪の暴食と強欲のラテン語から拝借しました。
読み方間違ってたら、その時は、笑ってスルー願います。




