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第10話 コウジの災難 ※

今回は、トシフミ達の話ではありません。第2話に登場した人物です。

ご記憶にありましょうか。


2014.4.18 話を大きく修正しました。

「はあっ、はあっ、はあっ」

 康司はさっきから泥だらけになりながら山の中を必死で逃げ回っている。

「くそっ! 何でオレがこんな目に。オレが何したってんだよ!」


 飛行機に乗っていたはずなのに、何故か山の中で目覚めた康司は灰色のでかい狼2頭に出くわし追われるはめになっていた。


(オレは福岡のオヤジのところに帰ってただけなのに。なんなんだこいつらは! 何でオレはこんなところにいるんだ!)

 その心の叫びには誰も応えてくれない。


「ダメだ。もう、走れねぇ」

 もっと部活真面目にやっとくんだった。そう思った時だった。


 左腕に激痛が走る。

「えっ?」


 左腕を見ると、あるはずの腕がなく、やつらの1頭に左腕の肘から先を食いちぎられていた。


「いでぇ! いでぇえよぉ!」

 康司はあまりの痛さに地面を転がる。


(逃げなきゃ、やつらから逃げなきゃ。オレはまだ死にたくねぇ。死にたくねぇよ!)


 そう思って立ち上がったところに、もう1頭の狼が飛びかかってくるのが見えた。康司はとっさに右腕で頭を庇う。そして右腕にも激痛が走った。


 両腕を失い、多量の出血とあまりの痛みに立っていることもできなくなった康司は、山の斜面を意識朦朧としながら、ころがり落ちていく。そして斜面に大きく空いた穴に落ちたと思った瞬間にその意識はなくなった。



◇◇◇◇◇


(どれくらいたったんだろう。てっきり死んだと思ってたが、あれは夢だったのか? あんな夢二度と見たくねえな。)


 ぼんやりした意識の中で、康司は誰かが近づいてくる気配を感じていた。

「ちょうどよい素材がまさか降ってくるとはの。腕を落とす手間が省けて実験にはちょうどよいわい。ふぉっふぉっふぉっ」


 そして、両腕に刺すような強い痛みを受けて康司はまた気を失った。



◇◇◇◇◇




「おいっ、起きろ43号!」

 康司は叫ぶ男の声に目が覚める。


(誰かが呼ばれてるのか…………)


「43号!」


 康司は目を開いて周りを見まわした。

 洞窟の中の格子がついた牢屋みたいな場所に寝かされている。

(ここにはオレしかいない。オレのことを呼んでるのか?)


「オレは山下康司(ヤマシタコウジ)だ。43号とか、番号でよぶんじゃねぇ」


「うるせぇ。ここじゃ、お前は43号なんだよ。次から呼ばれたら返事しろ。でなきゃ飯は食わせねぇからな」

 そう言った白衣を着た男は、木製の碗が乗ったトレイを1つ置いて行ってしまった。


 康司は起き上がろうとして片手をつこうとしたが、上手くいかない。


 よく体を見ると病院の検査着のような薄い服を着せられている。そして両腕が無かった。

(そうか、狼に襲われて腕を無くしたのか……。夢じゃなかったのか……。くそっ、痛ぇなぁ)


 康司は仰向けになりながら包帯でぐるぐる巻きになっている肘から先がない両腕を見て、どうしてこんなことになったのか思い出そうとしていた。


◇◇◇◇◇


 康司は東京の予備校に通う20歳の予備校生だ。

 背は177センチ、体重は72キロ、黒い髪を肩ぐらいまで伸ばしている。顔はまあ不細工ではないという感じであまり目立つタイプではない。

 福岡の高校時代はサッカー部だったが万年のリザーブで試合ではベンチにすら入れなかったことが多かった。

 コーチ曰く、

「康司は才能はそこそこあるのに努力をしないから全く伸びない」

 ということだった。


 本人にもその自覚があり、努力することが嫌いで、何となく出来ることをやっているという感じで流されて生活していた。 


 高校ではそれなりの成績で希望する大学にも合格ラインに達していたはずだったが、受けた大学は3つとも落ちてしまった。

 なまじ模試の結果を過信して変な自信を持って少しレベルを下げた滑り止めを受けなかったのが災いした。


 来年は絶対に志望大学に合格するからと約束して東京の予備校に通っていたのだ。


 ところが…………。


 今年も彼に桜は咲かなかった。


 落胆する康司に父親は雷を落とすことはなかった。

「もう一度やってみろ。自分で何処まで出来るのか、這い上がって見せろ」

 そう言ってもう1年の浪人を認めてくれたのだ。



 本来なら来年に向けてもう一度トライしなければならないところだったが、実は康司はこの1ヶ月サボって予備校に行ってない。

 同じ予備校に通っていた康司の彼女が、自分が志望大学に受かって康司の2浪が決まったと知ったとたん、もう住む世界が違うからと康司のことを振ったのだ。

 そのことが康司のヤル気を決定的に奪ってしまっていた。


 どうでもよくなった康司は予備校をサボって遊び歩くようになった。そんな中、予備校からの連絡でサボっていたのが両親にバレたらしい。


 康司は父親からの連絡で、一旦、福岡の実家に帰ることになった。

 康司としては帰りたくはなかったが、仕送りを止めると言われ、帰らざるを得なかったのだ。


 そして、康司は羽田発福岡行の飛行機に乗った。


 乗って早々に康司は不機嫌になった。


 座っているサラリーマンっぽい男と楽しそうに話すモデルみたいに綺麗な女が通路を塞いでいたからだ。

「じゃまだよ。早くどけよ!」


(ちきしょう、あんな綺麗な彼女つれてどこいくんだよ。オレなんてよ、これからオヤジの説教聞かなきゃいけないんだぜ……)


 康司は完全に勘違いから八つ当たりをしているのだがそんなことは彼にはわからない。


 睨むサラリーマンに、けっと吐き捨てると、後方の自分の座席に向かった。

「ついてねぇ」


 福岡にもうすぐ到着するという時だった。飛行機が揺れて、突然凄く眩しい光が発生した。

 そこから康司には記憶がない。次に目覚めた時は山の中で転がっていた。


 そして何処にいるかも判らないまま山の中を彷徨った康司は灰色の巨大な狼に出会ってしまう。そこから何時終わるとも判らない逃走が始まったのだった。


◇◇◇◇◇


(何でこんなことになってるんだ……。そもそもここはどこなんだ……。あいつら誰なんだよ……)


 康司がそう思った時、通路から男の声がした。

「ようやく目を覚ましおったか。坊主」


 現れたのは長い白髪に白く長い髭、そして茶色いローブを身に纏った老人だった。手には杖を持っている。瞳の色は碧色をしていてまるで映画の中の魔法使いだ。背は160センチちょっと。だいぶ小柄に見える。


「じいさん誰だよ」

「ずいぶんな言い種じゃの。お主死にかけておったのをワシに救われたのじゃ。もう少し有り難がられてもよいと思うがの」

「ここは?」

「神聖シャンハール帝国のとある場所じゃ」

「神聖? シャンハール?」

「お主シャンハールも知らんのか? どこから来たのじゃ?」

「日本の東京……」

「ニホン? トウキョウじゃと? お主このローメリアのものではないのか。異邦の人だったとはの。面白いもんを拾うたわい」

「オレはどうなるんだ?」

「その腕じゃ、どの道どうすることもできまい。しばらくは、そうしておれ。そのうち面白いことが起こるじゃろうしの。ふぉっふぉっふぉっ」

 そう言うと、その老人は去っていった。



 康司はどうしていいのか解らないまま呆然としていた。

「神聖シャンハールって、日本じゃねぇのかよ。一体どこなんだ」

 しばらくはいろいろ考えていたのだが、そのうち康司は体の血が足りないせいか疲れて眠ってしまった。



「起きて。少しでもいいから何か食べた方がいいよ」

 女の子の声がしている。

(こんなところに女の子がいるのか?)


 康司が目を覚ますと格子の向こうに女の子がお碗の乗ったトレイを持って立っていた。

「私は32号。あなたの食事を持ってきたわ」

 見た目は12、3歳ぐらいだろうか。肩ぐらいまでの少しくせのある金髪のかわいらしい女の子だ。ただ何か違和感がある。康司は這いつくばって転がりながら、彼女のもとへ近づいた。


 よく見て見ると彼女は目を開けていなかった。

「もしかして君は……」

「うん、私は目が見えないの。でも気配で何がどこにあるかわかるんだ。ちゃんとご飯食べてね」

 そういうと彼女は去っていった。



 康司は彼女の去っていった方をしばらく見ていたが、確かにこちらに来てからは何も食べていない。彼女の言う通り何か食べなければ死んでしまうことに思い至り、目の前のお碗に入っている何かを食べることにした。でも、両腕が無いため思うようにいかない。お碗から口に食べ物が運べないのだ。


「くそっ! 腕がないことがこんなに不便だなんて。手をつけねえから踏ん張れねえ」

 康司は体を横にして痛む左腕を支えに、何とかお碗から中に入ったペースト状のものを舌でなめることができた。

「うえっ、まずっ」

 味がほとんどしなかった。何かの粉を水で溶いてるだけのようなものだ。


 康司は仰向けにころがりながら、これからどうすればいいのか、途方にくれていた。


「親父、お袋、オレなんでこんなとこにいんだろうなぁ……。誰か助けてくれよ……。家でダラダラしないで、もうひとつ早い便にのればよかったのかなぁ……。くそっ、痛ぇよぉ……」




 翌日も朝飯を持って来てくれたのは32号と名乗った女の子だった。

 康司は彼女からここの環境や彼女自身の事情を聞こうとしたが、にこにこするだけで答えてくれない。


(言葉が通じていない訳じゃない……。あれ? 何で言葉が解るんだ? 皆日本語なのか? シャンハールって言ってたよな。訳わかんないな……)


 その日、白衣を来た男が入ってきて、腕の包帯を外してくれた。

「ふむ、順調なようだな」

「それは、傷が塞がってるってことか?」


 驚いたことに食いちぎられて血だらけだったはずの腕は、もとから肘から先がなかったかのようにきれいな状態になっていた。


「まあ、それもあるがな」

「それもって何だよ」

「心配するな。お前にとってはこれ以上は悪くならんさ」

「ほんとかよ」

「ああ、たぶんな」


 他の白衣の男達に比べてこの男はまともそうに康司には感じられた。

「なあ、教えてくれないか。今オレ何語を話してるんだ?」

「え? ローメリア共通語だろ」

 男は不思議そうな顔をしている。


(そうか、知らないうちにこっちの言葉を使ってるのか……。何でだ?)


「おじさんはここに長くいるのか?」

「どうしてそんなこと聞くんだ?」

「いや、ここって洞窟の中だろ、こんなとこに長くいたら息が詰まるんじゃないかと思ってさ」

「お前は、人の事心配している場合じゃないだろう?」

「あ、いや何せオレが息が詰まりそうで。ここにいる人たちはどうやって息を抜いてるのかなって思ったんだけど」

「心配しなくても、そのうち変わる」

 そう言うと、その白衣の男は去っていった。康司はもう少しこの場所の話を聞きたかったがしかたない。


(変わる……か。そうだといいがな。腕がないから逃げ出すこともできない。明日も変わらない1日になるんだろうか)

今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。

この話から、コウジの物語も時折加えるつもりです。

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