第67話 『鉄屑と肉塊の宴』
地下研究施設の最深部。そこは、生命を冒涜するために作られた地獄の窯だった。 壁一面に並ぶホルマリン漬けの臓器。解体された亜人たちの四肢。そして、床を這い回る失敗作の肉塊たち。
「……趣味が悪いにも程があるな」
鼻を突く腐臭に、シンは眉を顰めた。 表向きは「兄貴に言われて嫌々ついてきた弟」という演技を続けているが、その双眸は冷徹に周囲の脅威度を査定している。
「ようこそ、僕の聖域へ……!」
部屋の中央。巨大な培養槽の上に、第三王子カインが立っていた。 その顔色は死人のように青白く、全身の血管が紫色に浮き上がっている。追い詰められたネズミの形相だ。
「兄上は僕を見捨てた……! ギルバート兄上は、僕の研究を『役に立たない』と切り捨てたんだ!」 「だからって、こんなゴミ溜めに引き籠もって八つ当たりか? 王族ってのは暇なんだなぁ」
シノが呆れたように肩を竦める。 その挑発に、カインの瞳が憎悪で見開かれた。
「ゴミだと……? 僕の研究はゴミじゃない! 僕自身が証明してやる! 僕こそが、この国で最も優れた『生命』であることを!」
カインは狂ったように叫ぶと、背後の培養槽へ自ら身を投げた。 ドボンッ! 緑色の培養液が飛沫を上げる。槽の中には、数十体の合成獣の素体が詰め込まれていた。
「融合……融合融合融合ォォッ!!」
培養液が沸騰し、ガラスが内側から砕け散った。 溢れ出したのは、緑色の粘液に塗れた、巨大な肉の濁流だった。 カインの肉体が融解し、周囲の合成獣たちを取り込み、混ざり合っていく。
「オオオオオオオッ!!」
数秒後、そこに立っていたのは「人」ではなかった。 不定形の肉塊。至る所から獣の顔や手足が生え、カイン自身の顔が胸部に埋め込まれた、醜悪な怪物。
「あハハハ! 力が……力が溢れてくるぅ! 僕は神になったんだぁ!」
肉塊から伸びた触手が、鞭のようにしなる。 それは音速を超え、シノたちへ襲いかかった。
「――チッ、汚ねぇもん見せんじゃねぇよ!」
シノの十指が弾かれる。鋼糸が虚空を走り、触手を瞬時に細切れにする。 だが。
「無駄だぁ!」
切断された肉片が、地面に落ちる前に蠢き、互いに引き合って結合する。 超速再生。 物理的な切断では意味をなさない。
「あら、元気なこと。なら、これはどうかしら?」
サフィナが紫色の猛毒ビンを投げつける。 肉塊に触れた瞬間、強力な酸が肉を溶かす――はずだった。 ジュワッという音と共に表面が焦げたが、次の瞬間には新しい皮膚が再生し、さらに毒液を弾く粘膜が形成された。
「学習したよぉ! その毒はもう効かない!」 「……ふむ。即座に耐性を獲得する進化ですか。面倒な検体ですねぇ」
サフィナが少しだけ不機嫌そうに眼鏡を押し上げる。 物理無効、毒無効。おまけに巨体と怪力。 まともな冒険者パーティーなら全滅必至の絶望的状況だ。
だが、ここにいるのは「レギオン」の最高戦力たちである。
「……おいヴォルカン。再生が追いつかねぇ速度で、消し飛ばせばいいんだろ?」 「ガハハ! 話が早くて助かるぜ! ちょうど『アレ』を使いたくてウズウズしてたんだ!」
シノとヴォルカンが視線を交わし、獰猛に笑う。 ヴォルカンが背負っていた魔導荷箱から、異様に長い「杭」を取り出した。 全長二メートル。表面にはびっしりと爆裂魔法の術式文字が刻まれた、対魔人用の決戦兵器。
「対魔封印杭・穿孔ッ!!」
ヴォルカンが雄叫びと共に跳躍する。 カインの放つ触手の嵐を、その鋼の肉体で強引に弾き飛ばしながら、肉塊の懐へと潜り込む。
「な、なんだその鉄屑はぁッ!?」 「鉄屑じゃねぇ! ドワーフの魂だッ! 食らいやがれェェッ!!」
ドォォォォォォン!! ヴォルカンが杭をカインの胸部――核となる本体の直下へ突き刺し、魔力を炸裂させた。 内部からの爆発。 カインの巨体が大きく膨れ上がり、再生機能が一瞬だけ麻痺する。
「ギャァアアアッ!?」 「今だシノ! 全部燃やせッ!」
ヴォルカンが離脱すると同時、上空に展開していたシノの浮遊魔石群が一斉に輝きを増した。 六つの魔石が円を描き、その中心に赤熱した魔力の球体を形成する。
「へっ、とっておきだ。灰も残さねぇぞ」 「魔導殲滅陣・紅蓮!」
カッッッ!!!! 地下空間が白一色に染まった。 シノの指先から放たれた極大の熱線が、カインの巨体を飲み込む。 再生しようとする細胞そのものを焼き尽くし、蒸発させ、存在ごと消滅させる超高熱の奔流。
「熱い熱い熱い熱いィィィィッ!? 馬鹿な、僕は神に、神になったはずなのにィィィッ!?」
断末魔は、轟音にかき消された。 数秒後。 熱線が収まると、そこには焼け焦げた壁と、炭化した肉の残骸が散らばっているだけだった。
「――ふぅ。ちょいと出力上げすぎたか? 地下ごと埋まるとこだったぜ」
シノが額の汗を拭いながら、焼けた浮遊魔石を回収する。 圧倒的なオーバーキル。 だが、その瓦礫の陰で、蠢くものがあった。
「……ひ、ひぃ……」
黒焦げになった頭部だけのカインだ。 辛うじて脳と核だけが残り、芋虫のように這いずって逃げようとしている。 その視線の先に、一人の少年の足が見えた。
シンだ。 戦闘中、瓦礫の陰に隠れていた(と思われていた)Fランクの少年。
(こ、こいつなら……! この弱そうなガキの体を乗っ取れば、まだ助かる……!)
カインは最後の力を振り絞り、シンへと飛びかかろうとした。 シノたちは戦勝ムードでハイタッチをしており、こちらに気づいていない。 好機。
「よ、寄越せ……お前の体を……僕に寄越せェェッ!!」
カインの焼け焦げた顎が開き、シンの足首に喰らいつこうとする。
だが。
「――汚い手で触れるな」
氷点下の声が降ってきた。 カインが見上げた先。 怯えていたはずの少年の瞳は、深淵のように昏く、そして慈悲のない冷たさで彼を見下ろしていた。 それは獲物を見る目ではない。 ゴミを見る目ですらなかった。 ただの「栄養素」を見る目だ。
「え……?」
カインが思考を停止した瞬間。 シンの足元の影が、不定形の顎となってカインを飲み込んだ。
「――捕食」
悲鳴すら上げられなかった。 影はカインを咀嚼し、その魂、記憶、そして狂気の研究成果の全てを分解し、シンの力へと変換していく。
『才能【生体錬金】を獲得しました』 『対象:カイン・ゼノリス。完全消滅を確認』
脳内に響く無機質な通知音。 シンは小さく息を吐くと、何事もなかったかのように怯えた表情のマスクを被り直した。
「う、うわぁっ! びっくりしたぁ……!」
シンの声に、シノたちが振り返る。 そこには、地面の焦げ跡に腰を抜かしているシンの姿があった。
「どうしたシン! 怪我はねぇか!?」 「い、いや……今、なんか黒いのが動いた気がして……」 「ああ、多分ネズミか何かだろ。あの爆発で生きてるわけねぇしな」
ヴォルカンが豪快に笑い飛ばし、シノがシンの手を引いて立たせる。 カイン・ゼノリスは死んだ。 公式には、自らの実験の暴走による事故死。 だがその本質は今、この少年の掌の中に収まっていた。
「……帰るぞ。兄貴に報告しなきゃな」
シンは技術班の三人に囲まれながら、崩れかけた研究室を後にする。 その背中で、彼の手が一瞬だけ怪しく光った。 獲得したばかりの【生体錬金】。 これがあれば、レギオンの兵士たちをさらに「強化」できる。
(……ごちそうさん。カイン王子)
地下の闇に、魔王の微かな嘲笑が溶けていった。 ゼノリス王国革命編・カイン討伐フェイズ、完了
王都ゼノリスの地下深くに隠された、禁忌の研究施設。 その最深部にある「第零実験室」は、人の道を踏み外した者だけが到達できる、冒涜的な地獄の窯であった。
冷たい石造りの壁一面には、ホルマリン漬けにされた大小様々な臓器が並び、緑色の蛍光灯に照らされて不気味に浮き上がっている。 床には、解体された亜人たちの四肢や、品種改良に失敗して廃棄された肉塊が、泥のように這い回っていた。
鼻を突くのは、強烈な薬品の刺激臭と、腐った肉が発する甘ったるい死臭。 呼吸をするたびに、肺腑が穢れていくような錯覚を覚える最悪の環境だ。
「……うッ。趣味が悪いにも程があるな、ここは」
Fランク冒険者の姿をしたシンは、鼻と口を袖で覆いながら、心底嫌そうに眉を顰めた。 表向きは「兄貴に言われて嫌々ついてきた弟」という演技を続けているが、その双眸は冷徹に周囲の状況をスキャンし、脅威度を査定している。
(魔力濃度が異常に高い。……だが、それは自然な流れではない。無理やり命を絞り出し、腐らせた結果の淀みだ)
「ようこそ、僕の聖域へ……!」
部屋の中央。 天井まで届く巨大な円筒形の培養槽の上に、第三王子カインが立っていた。
その姿は、かつての王族としての威厳など微塵もない。 顔色は死人のように青白く、目の下にはどす黒い隈が刻まれ、全身の血管が紫色に浮き上がって脈打っている。 追い詰められたネズミが、最後に牙を剥く時の形相だ。
「兄上は僕を見捨てた……! ギルバート兄上は、僕の崇高な研究を『役に立たない』『気持ち悪い』と切り捨てたんだ!」
カインが叫ぶたびに、唾液が飛び散る。
「だからって、こんなゴミ溜めに引き籠もって八つ当たりか? 王族ってのは暇なんだなぁ」
十王第十席・【工】シノが、呆れたように肩を竦めて挑発する。 その言葉に、カインの瞳が見開かれ、狂気と憎悪で濁った光が宿った。
「ゴミだと……? 僕の研究はゴミじゃない! 僕自身が証明してやる! 僕こそが、この国で最も優れた『生命』であることを! 兄上も、国民も、全員僕の餌にしてやるんだ!」
カインは狂ったように哄笑すると、背後の培養槽へ自ら身を投げた。
ドボンッ!
緑色の培養液が盛大に飛沫を上げる。 槽の中には、数十体の合成獣の素体――獅子、巨熊、毒蛇、そして人間が、ごちゃ混ぜに詰め込まれていた。
「融合……融合融合融合ォォッ!!」
ボコボコボコッ……! 培養液が沸騰し、ガラスが内側からの圧力に耐えきれず、粉々に砕け散った。
「オオオオオオオッ!!」
溢れ出したのは、緑色の粘液に塗れた、巨大な肉の濁流だった。 カインの肉体が融解し、周囲の合成獣たちを取り込み、骨と肉を強引に接合していく。
グチュッ、メキメキッ、バキッ……。
耳を塞ぎたくなるような異音が響き渡る。 数秒後、そこに立っていたのは、もはや「人」の形をしていなかった。
不定形の肉塊。 至る所から獣の顔や手足がランダムに生え、脈打つ血管が全身を覆っている。 その胸部には、苦悶の表情を浮かべたカインの顔だけが埋め込まれ、狂ったように笑っていた。
醜悪な怪物。 Aランク相当の脅威度を持つ、暴走した肉の城。
「あハハハ! 力が……力が溢れてくるぅ! 僕は神になったんだぁ! 見てろよギルバート! 僕を馬鹿にした奴らは、全員溶かしてやる!」
肉塊から伸びた無数の触手が、先端を開き、高圧の水鉄砲のように液体を噴射した。
「ヒャハハハ! 溶けろぉッ!」
シュババババッ!!
撒き散らされたのは、石畳すら一瞬で泥に変える強力な消化液だ。 まともに浴びれば、鎧ごと骨まで溶かされる。
「チッ、厄介な汁だな!」 「ヴォルカン、避けろ! 装備が溶けるぞ!」
回避行動をとる十王たち。 だが、地下空間は狭く、逃げ場が少ない。 酸の雨が、彼らの頭上へと降り注ごうとした、その時――。
「みんな、入れッ!」
シノが、背負っていた背嚢から、折り畳まれていた「巨大な布」を取り出し、瞬時に頭上に広げた。
バサァッ!
それは一見、何の変哲もない灰色の布に見えた。 だが、降り注ぐ溶解液は、その布に触れた瞬間、まるで水銀のように玉となって弾かれ、転がり落ちていった。
ジュウウウ……。 地面に落ちた酸が、床石を溶かして白煙を上げる。
「な、なんだぁ!? 僕の最強の消化液が効かない!? なんだその布は!」
カインが驚愕の声を上げる。 シノは布の下で、防風ゴーグルを光らせてニッと笑った。
「へっ、驚いたか? こいつは特殊な『粘液系魔物』の体液を加工してコーティングした、『耐酸外套』だ! 水も油も、テメェの汚ねぇゲロも通さねぇよ!」
本来は、酸性雨の降る危険地帯での作業用に開発した「雨合羽」の素材。 だが、その究極の撥水性は、Aランク魔獣の酸攻撃すら無効化する最強の盾となる。
「サフィナ、ヴォルカン! 今のうちだ! あいつ、再生能力が高すぎて普通の攻撃じゃキリがねぇ! 一撃で消し飛ばすぞ!」
「了解ですぅ♡ 不衛生なものは消毒の時間ですね!」
シノの合図で、第四席【医】サフィナが前に出た。 彼女は白衣のポケットから、透明な液体が入った巨大な薬瓶を取り出す。
「汚物は消毒です♡ それッ!」
彼女が投げた瓶が、カインの肉塊に当たって割れた。 中身が飛び散り、カインの全身を濡らす。 それは毒ではない。精製された高純度のアルコール――極めて引火性の高い燃料だ。
「なんだこれは? 酒か? 燃やすつもりか? 無駄だ無駄だ! 炎ごときじゃ僕の再生速度は上回れない! すぐに新しい肉が生えてくる!」
カインが嘲笑う。 確かに、表面を焼く程度の火力では、この肉塊を殺し切ることはできないだろう。
だが、シノは背嚢の奥底から、禍々しいほど真っ黒な「鉄球」を取り出した。
直径30センチほどの、無骨な鉄の塊。 表面には「危険」を意味する赤い塗料でドクロマークが描かれている。
中に詰め込まれているのは、シノが調合した中でも最高火力の火炎魔石と、特殊な物理信管だ。
「炎だけじゃねぇよ。……てめぇは、破裂して死にな」
シノが鉄球をカインの肉塊の中へ、無造作に放り込んだ。
ボフッ。 ブヨブヨとした肉が、鉄球を飲み込む。
「な、何を……」
「ヴォルカン、叩けッ!」
「おうよ! 地獄へ逝きな! 着火ッ!!」
第九席【鍛】ヴォルカンが、愛用の戦槌を振りかぶった。 ハンマーの打面が赤熱し、火花を散らす。
ドォォォォン!!
ハンマーが、アルコールに濡れたカインの体に叩きつけられた。 瞬間、猛烈な炎が巻き起こり、カインの全身を包み込む。
だが、真の狙いはそこではない。 打撃の衝撃が、肉の内部に埋め込まれた鉄球へと伝播する。
シノが設計した「圧力感知式信管」。 強い衝撃を受けると、内部の留め金が外れ、強力なバネが弾ける。 そのバネの力が撃針を押し出し、火炎魔石の核を物理的に粉砕する。
制御を失った高純度魔石が、狭い鉄球の中で臨界点を迎え――。
カッッッ!!!!
地下室が、白一色に染まった。
ドッッッッッゴォォォォォォォォォォン!!!!
鼓膜をつんざく轟音。 カインの巨体が、内側から風船のように膨れ上がり、そして破裂した。
飛び散る肉片。衝撃波。 密閉された鉄球内での魔力暴走は、逃げ場のない破壊の嵐となってカインの細胞一つ一つを内側から引き裂き、蒸発させていく。
「ギャァアアアアッ!! 痛い痛い痛いィィィッ!!」
魔法防御など意味をなさない。 物理的な衝撃と熱風が、再生しようとする端から肉を消し飛ばしていく。 この世界で唯一、シノだけが操れる「魔導爆弾」という名の破壊神。
爆風が収まると、そこには黒焦げになった肉片と、ドロドロに溶けた培養液の残骸だけが残されていた。
「……へっ。ざまぁみろ」
シノは背嚢を背負い直し、焼けた防水布を丁寧に畳み始めた。 その様子を、瓦礫の陰から見ていたシンは、小さく頷く。
(……やるな。魔力に頼らない物理起爆か。 魔法障壁をすり抜けて内部から破壊する……対策が難しい分、厄介な兵器だ)
シンが感心していると、足元の瓦礫がガサリと動いた。
「ひ、ひぃ……助け……」
黒焦げになりながら、頭部だけになったカインが、這い出てきたのだ。 驚異的な生命力。いや、執念と言うべきか。 彼は芋虫のように這いずり、シンの足元へと逃れてくる。
「……お断りだ」
シンは冷たく見下ろした。
「よ、寄越せ……お前の体を……僕に寄越せェェッ!!」
カインは最後の力を振り絞り、シンへと飛びかかろうとした。 シノたちは戦勝ムードでハイタッチをしており、こちらに気づいていない。 この弱そうな少年の体を乗っ取れば、まだ生き延びられる。
カインの焼け焦げた顎が開き、シンの足首に喰らいつこうとする。
キンッ。
乾いた音が響いた。 カインの指が、シンの足首に触れる寸前、見えない壁に阻まれたのだ。
否、阻まれたのではない。 目に見えないほど極細の、しかし鋼鉄よりも硬く、鋭利な「糸」が、シンの周囲に展開されていたのだ。
「――え?」
ポロリ、とカインの指が切断されて落ちた。 指だけではない。伸ばした腕が、肩が、まるでチーズのようにスライスされていく。
自動防御。 始祖であるシンの周囲には、常に認識不能な魔力の糸が張り巡らされている。 下等な生物が、許可なく王の玉体に触れることなど許されない。
「――汚い手で触れるな」
氷点下の声が降ってきた。
カインが見上げた先。 さっきまで怯えていたはずの少年の瞳は、深淵のように昏く、そして慈悲のない冷たさで彼を見下ろしていた。
それは獲物を見る目ではない。 ゴミを見る目ですらなかった。 ただの「栄養素」を見る目だ。
「え……?」
カインが思考を停止した瞬間。 シンの足元の影が、不定形の顎となってカインを飲み込んだ。
「――捕食」
悲鳴すら上げられなかった。 影はカインを咀嚼し、その魂、記憶、そして狂気の研究成果の全てを分解し、シンの力へと変換していく。
『――才能【生体錬金】を掌握しました』 『対象:カイン・ゼノリス。完全消滅を確認』
脳内に響く無機質な通知音。 シンは小さく息を吐くと、何事もなかったかのように怯えた表情のマスクを被り直した。
「う、うわぁっ! びっくりしたぁ……!」
シンの声に、シノたちが振り返る。 そこには、地面の焦げ跡に腰を抜かしているシンの姿があった。
「どうしたシン! 怪我はねぇか!?」
「い、いや……今、なんか黒いのが動いた気がして……」
「ああ、多分ネズミか何かだろ。あの爆発で生きてるわけねぇしな」
ヴォルカンが豪快に笑い飛ばし、シノがシンの手を引いて立たせる。
カイン・ゼノリスは死んだ。 公式には、自らの実験の暴走による事故死。 だがその本質は今、この少年の掌の中に収まっていた。
「……帰るぞ。兄貴に報告しなきゃな」
シンは技術班の三人に囲まれながら、崩れかけた研究室を後にする。 その背中で、彼の手が一瞬だけ怪しく光った。
獲得したばかりの才能【生体錬金】。 これがあれば、レギオン・蜘蛛の兵士たちをさらに「強化」できる。 肉体の限界を超えた改造兵士。あるいは、死なない軍隊。
(……ごちそうさん。カイン王子。 お前の研究、俺がもっと有効に使ってやるよ)
地下の闇に、魔王の微かな嘲笑が溶けていった。
ここまで、お読みいただきありがとうございます!
これにて「狂気の第三王子カイン編」、完結です!
カインの末路: 自ら怪物化し、物理×毒無効のチート性能を得るも、レギオン技術班の「火力ゴリ押し」の前に蒸発。
ヴォルカン: 漢のロマン、パイルバンカー(魔導杭)。
シノ: 全方位熱線照射。
彼らにとって再生能力など「再生するより早く消せばいい」だけの話でした。
シンの収穫: 最後にコッソリとカインを捕食。
【生体錬金】を獲得しました。これで回復薬の生成や、部下の肉体強化(改造?)が可能になります。
【読者の皆様へのお願い】 カイン編完結を記念して、 「面白かった!」「ざまぁ展開スッキリした!」「シンの底知れなさが好き!」 と思っていただけましたら、 ↓の広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、大変励みになります! ブックマーク登録もぜひ!
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