表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/200

第57話 堕ちる戦乙女《フォール・ダウン・ワルキューレ》

「――緊急告知! 緊急告知ィィィッ!!」


 合成魔獣(キメラ)が子犬のように手懐けられて退場するという、前代未聞の珍事から数分後。  困惑冷めやらぬ闘技場(コロシアム)に、司会者の絶叫が響き渡った。


「大会主催者であらせられる、第一王女エレオノーラ殿下より、特別なる勅命(オーダー)が下りました! 決勝トーナメントの組み合わせを、これより『変更』いたします!」


 観客たちがざわめく中、闘技場(コロシアム)の中央にある巨大な魔法映像板(マジック・スクリーン)に、新たな対戦カードが映し出された。


 【第一試合】  Fランク冒険者:シン  VS  Aランク(英雄):エレオノーラ・ゼノリス


「な……なんだってええええええ!?」 「王女殿下が、自ら戦うだと!?」 「しかも初戦から、あのFランクの雑用係ガキと!?」


 会場が揺れるほどの歓声とどよめきが巻き起こる。  通常、主催者や王族が予選上がりの平民と戦うなどあり得ない。だが、相手はあの「戦乙女(ワルキューレ)」と謳われる武闘派の姫だ。  観客たちは即座に理解(プロセス)した。これは試合ではない。王家の威信を傷つけた不届き者への、公開処刑なのだと。


「……フフッ。始まりましたね」


 貴賓席の最上段、影になったバルコニーで、一人の男が優雅にグラスを傾けていた。  彼こそは、組織レギオン【蜘蛛(アラクネ)】における最高幹部の一角。  十王(デケム・キング)・第一席、『黄金の支配者(ゴールデン・ルーラー)』ジェイドである。


 彼は眼下の闘技場(コロシアム)を見下ろし、憐れむように目を細めた。


「自ら蜘蛛の巣(スパイダー・ウェブ)に飛び込むとは、なんと愚かで、愛らしい蝶でしょう。……ねえ、麗しの戦乙女(ワルキューレ)?」


 ジェイドの呟きと同時に、ファンファーレが鳴り響く。  貴賓席から直接伸びた階段を降り、一人の女性が闘技場(コロシアム)へと足を踏み入れた。


 燃えるような真紅の礼装鎧(ドレス・アーマー)。  腰まで届く炎色の髪をなびかせ、手には身の丈を超える巨大な炎槍(フレイム・ランス)を携えている。  その全身から放たれるのは、Aランク特有の圧倒的な魔力奔流(オーラ)。  第一王女、エレオノーラ・ゼノリス。  この国における「武」の頂点であり、人類の到達点とも呼ばれる天才だ。


「わぁーお。……本気だね、お姫様」


 対するシンは、相変わらずやる気のない立ち姿で、頭をポリポリと掻いていた。  武器は安物の鉄剣一本。防具は布の服だけ。  黄金の鎧に身を包んだエレオノーラとは、あまりに対照的すぎる。


「光栄に思いなさい、下賤な子供よ」


 エレオノーラが、切っ先をシンに向けた。  その瞳には、侮蔑と殺意、そして絶対的な自信が宿っている。


「貴様のような詐欺師に、この私が直々に引導を渡してやるのです。……感謝して死になさい」


「へぇ。随分と自信がおありで」


 シンは鼻で笑った。


「でもさ、アンタ勘違いしてるよ。俺は詐欺師じゃない。ただの……『掃除係』さ」


「黙れッ! 魔弾(デコピン)で騎士を吹き飛ばし、睨んだだけで合成魔獣(キメラ)を手懐ける……そんな出鱈目が、Fランクの(ただの)人間に可能なものですか! 貴様は禁忌の魔道具を使っている犯罪者よ!」


 エレオノーラが叫ぶと同時に、彼女の足元の地面が爆ぜた。  魔力放出(マナ・バースト)。  彼女の怒りに呼応して、大気が赤く染まる。


「証明してあげるわ。その薄汚い小細工が、本物の『才能(ギフト)』の前では無意味だということを!」


「試合開始ッ!!」


 審判の声が響いた瞬間、エレオノーラの姿が消えた。  否、速すぎるのだ。  Aランクの身体能力による超高速移動(ソニック・ムーブ)


「――炎雷(フレア・ドライブ)ッ!!」


 刹那、シンの目の前に真紅の閃光が迫る。  炎を纏った槍による、音速の刺突。  岩盤すら貫くその一撃は、間違いなく必殺の威力を持っていた。


 だが。


「……遅いよ、戦乙女(ワルキューレ)さん」


 シンは、あくびを噛み殺しながら、半歩だけ左にずれた。


 ヒュンッ!!


 豪快な風切り音と共に、槍がシンの横を通り抜ける。  髪の毛一本触れさせない、最小限(ミニマム)の見切り。


「なッ……!?」


 エレオノーラの目が驚愕に見開かれる。  まぐれだ、と思う間もなく、彼女は第二撃、第三撃を繰り出した。  横薙ぎ、突き上げ、回転斬り。  目にも留まらぬ連撃の嵐。その全てが、触れれば即死の破壊力を帯びている。


 しかし、当たらない。  シンはまるで散歩でもするかのように、ゆらりゆらりと体を揺らし、その全ての攻撃を紙一重で回避していた。  剣すら抜いていない。  ポケットに手を突っ込んだまま、退屈そうに避けているだけだ。


「ふ、ざけるな……ッ! なぜ当たらない! 貴様はFランクでしょう!? ただのゴミでしょう!?」


「動きに無駄が多いんだよ。……ほら、足元がお留守だ」


 シンが、トン、と軽くエレオノーラの足先を踏んだ。  それだけで、彼女の体勢が大きく崩れる。


「きゃっ!?」


 つんのめる王女。  その無防備な背中に、シンは優しく手を添えた。


「――強制着席(シット・ダウン)


 ズドンッ!!


 物理的な重圧ではない。  シンの掌から流し込まれた「絶対服従」の魔力が、エレオノーラの運動神経を術式掌握(スペル・ドミネート)し、強制的に「正座」をさせたのだ。


 砂煙が舞う中、観客たちは信じられない光景を目にした。  あの最強の王女エレオノーラが、Fランクの少年の前で、ちょこんと正座させられている姿を。


「な……な、に……?」


 エレオノーラは顔を真っ赤にして震えた。  立とうとしても、足が動かない。金縛りにあったように、体が言うことを聞かない。


「い、いつの間に拘束魔法(バインド・スペル)を……! 卑怯者ッ!」


「魔法じゃないよ。ただの『(しつけ)』だ」


 シンはしゃがみ込み、王女の目線に顔を合わせた。  その瞳の奥にある深淵(アビス)を覗き込ませるように。  そして、周囲の観客には聞こえないほどの小声で、彼女の耳元に囁いた。


「(さて、第一王女殿下。……アンタは自慢していたな。『本物の才能(ギフト)』とやらを)」


 シンが指先で、エレオノーラの自慢の炎槍(フレイム・ランス)を弾いた。  パキンッ。  国宝級の魔剣が、まるでガラス細工のように粉々に砕け散る。


「ひッ……!?」


「(これが、アンタの言う『本物』か? 脆すぎる。……俺の配下の、使いっ走りの方がまだマシな強度だぞ)」


 シンは砕けた槍の破片を拾い上げ、砂になるまですり潰してみせた。


「(教えてやるよ、戦乙女(ワルキューレ)。……本当の『(ランク)の違い』ってやつを)」


 ゾクリ。  エレオノーラの背筋を、氷のような悪寒が駆け抜けた。  目の前の少年から、人の形をした「何か」が溢れ出してくる。  それはAランクなどというちっぽけな枠組みではない。  世界そのものを捕食する、絶対的な上位存在(ルーラー)の気配。


「あ……あ、あ……」


 エレオノーラの口から、言葉にならない音が漏れる。  理解(プロセス)してしまった。  自分は、戦士(ライバル)と戦っていたのではない。  最初から、神の掌の上で踊らされていた道化だったのだと。


 観客席のジェイドが、満足げにワインを飲み干した。  その唇が、音もなく動く。


(さあ、堕ちなさい。プライドの高い戦乙女(ワルキューレ)ほど、泥に塗れた姿は美しい)


 絶望の王女と、それを見下ろす魔王。  国盗りの仕上げとなる「教育(パニッシュメント)」の時間が、今まさに始まろうとしていた。

本日も読んでいただきありがとうございます!


ついに第一王女エレオノーラ、陥落です。 「戦乙女ワルキューレ」と呼ばれた彼女が、Fランクの少年に手も足も出ずに正座させられる……。 書いていて非常に筆が乗るシーンでした。


圧倒的な力でプライドをへし折られた彼女が、この後シンによってどのような「教育パニッシュメント」を施され、レギオンの忠実な手駒へと生まれ変わるのか。 次回の展開も、どうぞご期待ください。


【読者の皆様へのお願い】 「面白かった!」 「ざまぁ展開最高!」 「続きが気になる!」 と少しでも思っていただけましたら、 ページ下の【☆☆☆☆☆】から、ポイント評価をいただけると執筆の励みになります! (★5ついただけると、シン様の機嫌が良くなり更新速度が上がるかもしれません……!)


ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!


続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ