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第25話 第三魔導騎士団、殲滅の序曲

王都ネメシスの空が、不快な熱を帯びて震えていた。

 レギオンハウスを取り囲むように展開したのは、ゼノリス王国が誇る最強の魔法戦力――『第三魔導騎士団』。

 揃いの純白のローブを纏った五〇〇名の魔導師たちが、整然と杖を掲げ、空間そのものを歪めるほどの魔力を練り上げている。

 その光景は、まさに「処刑」の儀式だった。

 冒険者ギルドや近隣の住民たちは、恐怖に顔を歪めて遠巻きに見守るしかない。

「愚かな冒険者どもよ。国に逆らった罪、その身を焼いて償うがいい」

 騎士団長が、拡声の魔術で声を張り上げた。

 彼らの眼にあるのは、圧倒的な強者としての傲慢。たかが新興の冒険者クランごとき、戦略級魔法の一斉射撃で灰すら残らないと確信しているのだ。

「――全隊、詠唱開始! 目標、レギオン本拠地! 塵一つ残すな!」

『『『オオオオオオッ!!』』』

 数百人の詠唱が重なり、大気が悲鳴を上げる。

 上空に展開されるのは、巨大な朱色の魔法陣。

 軍事用戦略魔法【紅蓮の豪雨プロミネンス・レイン】。

 城塞都市の城壁すら溶解させる、正真正銘の「天災」である。

 対して、包囲されたレギオンハウス。

 その正門前には、冒険者たちが静かに並んでいた。

 だが、彼らの顔に絶望の色はない。

 全員が耳に奇妙な形の装飾品――ヴォルカンとシノが作り上げた【念話の耳飾り】を装着し、整然と「その時」を待っていた。

『総員、定位置につけ。――客人の歓迎といこうか』

 低い声が、耳飾りを通して全員の脳裏に響く。

 指揮を執るのは、レギオン幹部・十王第二席【統】ヴィンセント。

 かつてギルド長として数多の戦場を渡り歩いた歴戦の指揮官は、降り注ぐ死の予兆を見上げても、眉一つ動かしていなかった。

『防衛術式、起動アクティブ

 ヴィンセントの号令と同時。

 上空の魔法陣が完成し、灼熱の雨が降り注いだ。

「消え失せろ! 【紅蓮の豪雨】!!」

 ゴオオオオオオッ!!

 視界を埋め尽くす炎の奔流。

 それはレギオンハウスを飲み込み、周囲の石畳ごと蒸発させる――はずだった。

 カィィィィン……。

 硬質な音が、戦場に響き渡った。

「……は?」

 騎士団長の口が、間抜けに開かれる。

 炎はレギオンハウスに届いていなかった。

 建物の周囲、半径十メートルほどの空間に見えない「膜」が存在するかのように、すべての炎が弾かれ、虚空へと霧散していたのだ。

 熱も、爆風も、衝撃も。

 まるで最初から「ことわり」の外側にあったかのように、現実に干渉することなく消え失せていく。

「な、なんだ……!? 何が起きた!?」

「馬鹿な! 戦略魔法だぞ!? 城壁さえ溶かす業火が、なぜ届かない!」

 狼狽する騎士たち。

 その様子を、レギオンハウスの屋上から見下ろす影があった。

 Fランク冒険者の少年――シンである。

 風に黒髪を揺らしながら、彼は退屈そうに眼下の混乱を観察していた。

(――ふむ。ヴォルカンとシノが組み上げた『魔素断絶の杭』か。設計通りの『拒絶』だな)

 シンは内心で冷ややかに看破する。

 地上の魔導師たちには理解できないだろうが、あれは魔法障壁などという生温かいものではない。

 周囲の空間に『禁忌の刻印』を打ち込み、魔力という事象そのものを「存在しないもの」として世界から切り離す、神域の結界だ。

 地脈から汲み上げられた魔力である限り、どれほど巨大な濁流となろうとも、ことわりそのものを書き換えられた空間を侵すことはできない。

(「最強」と謳うわりには、魔力の練度がお粗末すぎる。あれほど大量の魔素を垂れ流して、形になったのは精々が焚き火程度か。アレスの欠伸あくびの方が、まだ純度が高い)

 シンにとって、それは脅威ですらない。

 ただの騒がしい火遊びだ。

「おやァ? もう終わりですか? 王国の騎士様というのは、随分と可愛らしい火遊びがお好きなようで」

 炎が晴れた正門前。

 嘲笑を含んだ声が響く。

 無傷の石畳の上に立っていたのは、巨塔のような大男――十王第七席【壁】ガレオンだった。

 彼は腕を組み、仁王立ちのまま、呆れ果てたように首を鳴らす。

「貴様ら……! 何をした! どんな呪具を使った!」

「呪具? ハッ、そんな上等なモン、俺様が使うわけねェだろ」

 ガレオンは獰猛に笑うと、一歩、前に踏み出した。

 ドォン、と地面が揺れる。

 それだけで、騎士たちがビクリと肩を震わせた。

「あの『杭』は建物が汚れるのを防ぐための覆いだ。俺様を守るためじゃねぇよ」

「な、何を……」

「証明してやる。――次弾、撃ってこいよ。俺様が生身で受けてやるから」

 ガレオンが両手を広げ、挑発する。

 その態度は、誇り高い王国のエリートたちを逆上させるに十分だった。

「おのれ、下賤な冒険者風情がァ! 第二波、構えッ! あの巨漢に集中砲火を浴びせろ!」

「消し炭にしてやる!」

 再び、五〇〇の杖がガレオン一点に向けられる。

 放たれるのは、先ほど以上の密度の火球、雷撃、氷槍。

 一人を殺すには過剰すぎる暴力の嵐が、ガレオンの巨体に殺到した。

 ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 爆煙が舞い上がり、大地が悲鳴を上げる。

 直撃。

 誰もがガレオンの死を確信した瞬間――。

「――かゆいな」

 煙の中から、無傷のガレオンが現れた。

 服すら焦げていない。

 否、彼の皮膚の表面に、幾何学模様の薄い光膜――【金剛外殻】が展開され、全ての攻撃を弾き返していたのだ。

「ば、馬鹿な……!? 防御魔法もなしに、生身で……!?」

「Sランク魔物の素材で編んだローブすら貫通する魔術だぞ!?」

 絶叫する騎士たちに、ガレオンは鼻を鳴らす。

「俺の筋肉ギフトはな、ヤワな魔術なんぞ通さねぇんだよ。……さて、防戦一方ってのも退屈だ」

 ガレオンが一歩下がり、背後の扉が開く。

 そこから、ゆらりと現れたのは――深紅の髪を逆立たせた、一人の青年。

 レギオンマスター、アレス。

 その全身から立ち昇る陽炎が、周囲の大気を焦がし始めていた。

「よくぞ言った、ガレオン。――あとの掃除は俺がやる」

 アレスが手にした大剣を一振りすると、それだけで暴風が巻き起こり、前列の騎士たちが吹き飛んだ。

「ひっ……!?」

「あ、赤髪……『紅蓮の獅子』のアレスか!?」

 アレスは凶悪な笑みを浮かべ、震える羊の群れを見渡す。

「おいおい、王国のエリート様よ。喧嘩を売る相手を間違えたな」

 ドクン。

 アレスの心臓コアから、膨大な魔力が溢れ出す。

 それは地下宮殿のシンから供給される【魔力還元バックフロー】によって増幅された、Sランク(天災級)の熱量。

「本物の『炎』ってやつを、教えてやるよ」

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