第24話 暴走するパラノイア
逃げ帰った査察官からの報告を受け、王城の執務室は怒号に包まれていた。
「な、なんだと……!? 聖騎士の剣が折られただと!?」
宰相バルバロスは、震える手で報告書を握りつぶした。
報告書には、レギオンの門番一人の手によって、聖騎士団の分隊が手も足も出ずに追い返されたと記されている。
「おのれ……おのれぇぇッ! たかが冒険者風情が、この国の支配者である私に歯向かうか!」
バルバロスのプライドはズタズタだった。
だが同時に、彼の猜疑心は最悪の方向へと加速していた。
「地下を見せないということは……やはり、何かあるのだ。私の地位を脅かすような、強力な兵器か、あるいは反乱分子の拠点が!」
バルバロスは血走った目で側近を睨みつけた。
「アステリオスを呼べ! 第三魔導騎士団を動かすぞ!」
側近が青ざめる。
「か、閣下!? 第三騎士団は、広域殲滅魔法を得意とする部隊です! 市街地でそのような戦力を投入すれば、市民への被害が……!」
「構わん!!」
バルバロスは叫んだ。
「レギオンは国家転覆を企む反逆者だ! 拠点のビルごと、跡形もなく消し飛ばせ! 市民の犠牲など、後でレギオンの暴発に巻き込まれたとでも発表しておけばいい!」
腐りきっていた。
保身と権力欲のために、平然と自国の民を切り捨てる。
その命令は、即座に実行へと移された。
◇
ネメシス市街、中央広場に近い一等地に建設中のビル。
その地下深くにあるレギオン・アラクネの工房では、熱気と火花が舞い踊っていた。
「おいシノ! 術式の刻印はどうなってる! 俺の槌の速度に遅れるなよ!」
「待ってよおっちゃん! 今、シン兄ちゃんから貰った古代文字を組み込んでる! 凄すぎて指が震えるんだよ!」
全身から湯気を立ち昇らせながらハンマーを振るうのは、十王の一角、神の鉄槌ヴォルカン。
そして、複雑怪奇な魔法陣と格闘しているのは、機械仕掛けの魔女シノだ。
二人の目の前にあるのは、シンからのオーダーで急造された、対大規模侵攻用の防衛兵器群。
ミスリル合金と魔鋼を幾重にも折り重ねた自律駆動型障壁。
そして、アレスたち四天専用の魔力増幅リング。
「すげぇな……。叩けば叩くほど、金属が呼吸してやがる」
ヴォルカンは、完成した盾を撫でて震えた。
シンから提供された知識。それは、金属の内側に魔力の通り道(血管)を作り出し、まるで生き物のように硬度を変化させる生体魔鋼の鍛造法だった。
(……原子配列を最適化し、魔素伝導率を極限まで高めただけだがな。この時代の技術レベルからすれば、魔法に見えるか)
シンは内心でそう補足しながら、二人の仕事ぶりを満足げに眺めていた。
「これなら、ドラゴンのブレスだろうが涼しい顔で飲み込めるぜ。へっ、腕が鳴るってもんだ!」
「こっちもできた! 念話共有の魔道具!」
シノが掲げたのは、蜘蛛の形をした小さなイヤーカフだ。
「これに魔力を通せば、数千人の団員全員の意識が繋がる。声を出さなくても、思考だけで連携が取れるんだ!」
二人は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
職人と発明家。
二人の天才が、人知を超えた叡智を与えられた結果、この工房は神話級の武具を生み出す揺り籠へと変貌していた。
◇
そして、地上のレギオンハウス。
一階のロビーには、数百人の冒険者たちが集められていた。
彼らは皆、かつてはスラムでくすぶっていたり、Fランクとして馬鹿にされていた者たちだ。
だが今の彼らの目に、卑屈な色は微塵もない。
全員が、ヴォルカンたちが打ち上げた真新しい魔剣と魔鎧に身を包み、整然と整列している。
その姿は、歴戦の近衛騎士団すら凌駕する威圧感を放っていた。
その前に立つのは、蒼炎の如きオーラを纏った男。
表の顔役、レギオンマスターのアレスだ。
「……聞け、野郎共」
アレスの声は静かだったが、広間の空気がビリビリと震えるほどの覇気が込められていた。
「間もなく、この街に嵐が来る。無能な騎士団も、慢心した既存ギルドも、恐怖で逃げ惑うことになるだろう」
冒険者たちが息を呑む。
だが、誰一人として動揺しない。彼らは知っているからだ。
自分たちの背後には、絶対的な王がいることを。
「だが、我々は違う。我々は蜘蛛だ。この街を守り、その力を示し、全てを奪い取る」
アレスが拳を突き上げる。
「準備はいいか! 今日この日が、我らの伝説の始まりだ!」
「「「オオオオオオオオッ!!!」」」
怒号のような雄叫び。
それは、単なる冒険者パーティーではない。
高度に統率され、最新鋭の魔装で武装し、Sランク(天災級)の指揮官に率いられた、最強の軍団だった。
◇
そして、夕刻。
レギオンハウス周辺の市民には緊急避難勧告が出され、周囲一帯は無人の静寂に包まれていた。
それを包囲するように展開するのは、紺碧のローブと鎧を纏ったエリート集団――ゼノリス王国最強の火力を誇る、第三魔導騎士団。
その数は五百。
全員が杖を構え、レギオンのビルに狙いを定めている。
対するレギオン側は、アレスを先頭に、わずか数十名が入り口前に立っているだけだった。
ビルの屋上。
風にローブをなびかせながら、シンはその光景を見下ろしていた。
「……愚かな。自ら破滅のスイッチを押したか」
シンは、眼下に広がる騎士団の陣形を冷めた目で見つめた。
彼らがこれから放とうとしているのは、都市の一区画を消滅させるレベルの戦略魔法。
だが、シンにとっては、それすらも想定内の演出に過ぎない。
「さあ、開演の時間だ。騎士団の魔法と、我らの技術。どちらが上か、教えてやろう」
シンが指を鳴らす。
それが、細蟹による、最初の狩りの合図だった。
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続きます。




