第22話 地下の星空、接続される魂
ネメシス市街の地下深く。
分厚い岩盤を隔てたその先に、地上で生きる者たちが誰もその存在を知らない、広大な空間が広がっていた。
かつては旧文明の下水道廃棄区画だった場所。
だが今、そこは磨き上げられた黒曜石の柱が林立し、豪奢なベルベットの絨毯が敷き詰められた闇の宮殿へと変貌を遂げていた。
シンによってアンダー・ネスト(地下宮殿)と名付けられたその場所。
最奥には、一段高い位置に設けられた玉座があり、そこには漆黒のローブを纏った黒髪の青年――本来の姿に戻ったシンが、頬杖をついて座っている。
「……揃ったな」
シンの低い声が、静寂に満ちた大広間に響き渡る。
その眼下に跪いているのは、この都市ネメシスを裏から牛耳る傑物たち。
経済、軍事、裏社会、医療、技術、諜報。あらゆる分野の頂点に立つ十王たちだ。
最前列には、シンの直属である最高幹部、四天の姿。
アレス、ミラ、チェルシー、ボルトス。
彼らの後ろに控えるのは、ジェイドを筆頭とした十名の幹部たち。
つい先ほど刻印を授かったばかりのガレオン、セレン、クロウの三名も、既にシンの魔力を受けて若返り、その身に溢れる未知の力に戸惑いながらも、玉座の主への畏怖に震えている。
「面を上げろ」
王の許可が下りる。
十四人の男女が一斉に顔を上げた。
その瞳には、例外なくシンへの狂信的な忠誠が宿っている。
シンは、玉座からゆっくりと立ち上がり、右手を彼らに向けた。
「今日、この時を持って、全ての駒は揃った。我々は個の集まりではなく、一つの組織となる」
シンの五指の先から、目に見えない魔力が揺らめき、やがてそれは鮮血のように赤い光の糸となって実体化した。
――支配の神糸。
シンの魂と配下の魂を物理的・霊的に接続し、魔力を循環させる絶対支配のパス。
「我は蜘蛛。世界に網を張り、全てを手繰り寄せる者」
シュルルッ。
シンの指先から放たれた十四本の赤い糸が、生き物のように空を舞い、跪く配下たちの心臓めがけて殺到した。
「「「ぐ、うぅぅぅぅッ!?」」」
糸が胸に突き刺さった瞬間、彼らの体が大きく跳ねた。
痛みではない。奔流のような魔力が、魂の深淵に注ぎ込まれる愉悦と衝撃。
既に繋がっていたアレスやジェイドたちにとっては、より太く、より強固なパスへの再接続。
そして、新入りであるガレオンたちにとっては、劇的な進化の儀式だった。
「あ、ああ……力が……! 体が熱いッ……!」
重装騎士ガレオンが絶叫する。
彼の全身の筋肉が、鎧を弾き飛ばすほどに隆起し、皮膚が鋼鉄色に変質していく。
魔女セレンの肌が白磁のように輝き、若返っていく。
暗殺者クロウの輪郭が溶け、影そのものと同化していく。
強制進化。
シンの規格外の魔力を流し込まれたことで、彼らの肉体は生物としての限界を超越し、ランクAの領域へと引き上げられたのだ。
「こ、これが……神の恩寵……!」
「すげぇ……全盛期どころか、生まれ変わったみたいだ……!」
三人は涙を流して自分の手を見つめ、そして一斉にシンへと平伏した。
これで、十四人全員が人外へと至った。
「一生ついていきます、シン様ぁぁぁッ!!」
狂信的な叫びが木霊する。
蜘蛛の巣の完全接続。
その瞬間、回路が閉じたことで魔力の循環効率が爆発的に跳ね上がり、変化は頂点へと達した。
ドクンッ。
最前列にいた四人の最高幹部、アレス、ミラ、チェルシー、ボルトスの体に、さらなる異変が起きた。
「な……ッ!?」
アレスが苦悶に膝をつく。
彼の真紅の鎧が、内側から溢れ出す暴走寸前の魔力によって、ガタガタと震え始めたのだ。
十王という強力な下部組織が完成したことで、そこから吸い上げられた膨大なエネルギーが、直属である四天へと還元されたのだ。
「ぐ、おおおおおおッ!! 熱いッ! 体が、燃えるッ!!」
アレスの背中から、炎の翼のような魔力が噴出した。
ミラが黄金の光に包まれ、チェルシーの影が濃く広がり、ボルトスの体が岩山のように巨大化する。
ランクS。
人を超え、天災と同義とされる領域への到達。
「はぁ、はぁ……ッ」
光が収まった時、アレスは自分の拳を握りしめた。
軽く握っただけで、空気が破裂する音が響く。
彼は理解した。今の自分なら、かつて苦戦したドラゴンの群れすら、単騎で焼き尽くせることを。
「……素晴らしい」
シンは満足げに頷き、右手を掲げた。
すると、天井の岩盤が幻術によって消失し、偽りの、しかし無限に広がる満天の星空が映し出された。
地下にありながら、天を仰ぐ。
それは、彼らがこれから成し遂げる下剋上の象徴だった。
「もはや、ただの寄せ集めではない。俺の手足となり、目となり、この腐った世界を侵食する一つの巨大な生命体だ」
シンが、傲然と言い放つ。
「全軍、抜剣」
アレスの号令と共に、十四人の怪物たちが一斉に武器を抜き、切っ先を天へと突き上げた。
「我らが王、シン様に!! 心臓を、魂を、全てを捧げる!!」
「「「オオオオオオオオッ!!!」」」
咆哮が地下宮殿を揺らす。
十四本の見えない糸で繋がれた、最強の秘密結社。
Fランクの少年が作り上げたその組織の胎動が、今まさに始まろうとしていた。
シンは玉座に深く腰掛け、深紅の瞳を輝かせた。
彼の視界において、世界は情報へと還元される。
シンは、自らが作り上げた最高傑作たち、十四人の眷属の魂を覗き込んだ。
(……ほう。予想以上の仕上がりだ。これならば、世界の半分を敵に回してもお釣りがくるな)
シンの脳内に、彼らの新たな存在証明が、詳細な解析情報として展開された。
【解析結果 組織名:細蟹幹部一覧】
■最高幹部 四天
ランク:S級(天災指定)
※シン直属のため序列なし
NAME:アレス
クラス:紅蓮の魔人
共通ギフト:肉体回帰
1stギフト:紅蓮の炎・極 S
2ndギフト:炎界の覇王 S
詳細:物理法則を無視して燃え盛る消えない炎を操る。覚醒した2ndギフトにより、周囲一帯を自身の領域(焦熱地獄)へと書き換える固有結界を展開可能。単騎で軍団を壊滅させる歩く戦略兵器。
NAME:ボルトス
クラス:不落の城塞
共通ギフト:肉体回帰
1stギフト:金剛外殻 S
2ndギフト:不落の城塞 S
詳細:皮膚および装備している鎧の硬度を、伝説級金属と同等まで引き上げる。2ndギフトは背後の守護対象への攻撃を概念的に遮断する絶対防御。彼が守ると意識した対象への攻撃は、因果律を曲げてでも彼の盾へと吸い寄せられる。
NAME:ミラ
クラス:慈愛の聖女
共通ギフト:肉体回帰
1stギフト:聖なる祈り S
2ndギフト:魂の救済 S
詳細:最高位の治癒魔法および浄化魔法。欠損した四肢すら瞬時に再生させる。2ndギフトは生死の境界を操作する禁忌の力。死後数分以内なら蘇生が可能であり、逆に敵対者の魂を肉体から強制剥離(即死)させることも可能。
NAME:チェルシー
クラス:影の住人
共通ギフト:肉体回帰
1stギフト:影縫い S
2ndギフト:深淵渡り S
詳細:影を実体化させ、敵を拘束あるいは刺突する。2ndギフトにより影の世界への完全潜行が可能となり、三次元的な物理干渉を受け付けない状態から一方的に敵を捕食する。
■幹部 十王
ランク:A級(英雄指定)
序列1位
NAME:ジェイド
クラス:黄金の支配者
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:鑑定眼 A
1stギフト:真眼の王 A
詳細:十王の筆頭。肉体回帰により、金髪碧眼の超絶美形な王子の外見を取り戻している。対象の価値、嘘、真偽を見抜くだけでなく、情報の価値すら見定める瞳を持つ。経済支配の要。
序列2位
NAME:ヴィンセント
クラス:戦場の指揮者
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:指揮 A
1stギフト:軍神の号令 A
詳細:鋼の肉体を持つ壮年の武人。味方の士気を最大化し、恐怖心を消し去り、身体能力を底上げする。彼が率いる軍隊は、最後の一兵になるまで決して壊走しない狂戦士の集団となる。
序列3位
NAME:ネモ・ローズ
クラス:千の顔を持つ女
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:隠密 A
1stギフト:完全擬態 A
詳細:普段は道化師のような格好で顔を隠しているが、その正体は傾国の美貌を持つ絶世の美少女。姿形だけでなく、声紋、魔力波長、記憶の一部すら模倣して他人に成り代わる諜報のスペシャリスト。
序列4位
NAME:セレン
クラス:氷雪の魔女
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:氷魔法 A
1stギフト:絶対零度 A
詳細:透き通るような肌を持つ氷の美女。雪女を思わせる真っ白な振袖を纏っている。彼女の魔法は凍らせるのではなく熱を奪うため、耐性防御を貫通して敵を氷像に変える。
序列5位
NAME:ランドルフ
クラス:暴力の王
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:格闘 A
1stギフト:破壊衝動 A
詳細:裏社会の顔役。素手での攻撃に衝撃波を乗せ、触れたものを内部から破壊する。単純な暴力において、彼の右に出る者はいない。
序列6位
NAME:クロウ
クラス:影渡り
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:隠密 A
1stギフト:影潜み・改 A
詳細:影と同化して移動する能力。チェルシーほどの攻撃性はないが、潜伏能力と偵察能力においては超一級品。どんな密室にも侵入できる。
序列7位
NAME:ガレオン
クラス:移動要塞
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:盾術 A
1stギフト:金剛外殻 A
詳細:物理防御に特化した皮膚硬化。ボルトスの下位互換だが、それでもBランク時代の盾技術に加え、肉体そのものが鎧となったことで、生身で攻城兵器を受け止めるほどの耐久性を得た。
序列8位
NAME:ヴォルカン
クラス:神の鉄槌
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:鍛治 A
1stギフト:魔鋼鍛造 A
詳細:伝説の鍛冶師。金属に魔力を練り込み、本来ありえない性質を持たせた武具を作り出す。彼が打った剣は、それだけで国宝級の価値を持つ。
序列9位
NAME:サフィナ
クラス:白衣の悪魔
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:医術 A
1stギフト:生体解析 A
詳細:白衣を纏った妖艶な美女だが、その本性はマッドドクター。生物の構造を瞬時に把握し、最適な改造や治療を施す。毒の生成や、肉体強化薬の作成もお手の物。
序列10位
NAME:シノ
クラス:機械仕掛けの魔女
共通ギフト:肉体回帰
ゼロ:発明 A
1stギフト:高速思考・並列 A
詳細:見た目は愛らしい少年だが、中身は魔導の天才。脳内処理速度を数百倍に加速させ、複雑な術式の解析、魔道具の設計を一瞬で完了させる。
シンは、ずらりと並んだ圧倒的な暴力と才能のリストを見て、満足げに頷いた。
「壮観だな」
これだけの戦力が揃えば、国一つ落とすのに三日とかからないだろう。
だが、シンの目的は単純な破壊ではない。
この手駒たちを使い、世界を裏側から支配し、かつて自分を追放した世界の理そのものを嘲笑うこと。
シンは立ち上がり、星空を見上げた。
「行け、我が愛しき蜘蛛たちよ。この世界に、逃れられぬ巣を張り巡らせろ」
「「「御意!! 我らが王・シンに栄光あれ!!」」」
十四人の咆哮が、地下宮殿を揺るがした。
最強のステータス、最強の布陣、そして最強の主。
本日も読んでいただき、ありがとうございます!
もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけたら、
ブックマーク登録と、
広告の下にある【☆☆☆☆☆】の評価ボタンを、星5つ(★★★★★)ポチッと押していただけると執筆の励みになります!
続きます。




