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第200話 |世界制覇宣言《ワールド・ドミネーション》

地下宮殿(アンダー・ネスト)が、咆哮していた。


音ではない。光の咆哮だ。

壁面を刻む無数のルーンが、かつてない輝きを放っている。

青白く冷たい、星の産声に似た色が宮殿の隅々までを満たしていた。


魔導炉(エンジン)が重く唸りを上げる。

規定値を超えたエネルギー。設計限界を突破した膨大な魔力。

抑えきれない何かが、光と熱に変換され、宮殿そのものを震わせていた。



玉座の間には、アラクネの最高戦力が集結していた。


居並ぶ【十王】たちは皆、満身創痍だった。

傷だらけで、血に塗れた者もいる。

それでも彼らの背筋は伸びていた。やり遂げた者の誇りが、その顔に確かに滲んでいる。


一方で、玉座の前に跪く【四天】の頬には冷や汗が伝っていた。

戦いを生き延びた安堵などではない。

この宮殿に満ちる圧倒的な「力」への、本能的な畏怖。跪く彼らの膝は、微かに震えていた。


そして、【三禍】が立っていた。

ルシリウス、夜霧、リリア。

極限の消耗を強いられたはずの三体だが、その身体からは神話の風格が揺るぎなく放たれている。

地獄を抜けてきた者だけが纏う、静かで絶対的な威圧感があった。



静かな足音が、玉座の間に響いた。


急いでもいない。誇示してもいない。

ただ歩いているだけなのに、一歩踏み出すたびに空気が張り詰め、研ぎ澄まされていく。


青白い光の奥から、【始祖】シンが姿を現した。


絶対的な虚無と静寂を纏う彼の腕の中には、ボロボロになったシノが抱えられていた。

傷だらけのまま、それでも穏やかな顔で深く眠っている。


玉座の間が水を打ったように静まり返った。

十王が息を呑み、四天が頭を垂れ、三禍が目を伏せる。


シンは玉座へ向かう途中、その脇に設えられた長椅子の前で足を止めた。

ゆっくりと膝をつき、シノを静かに横たえる。

乱れた髪を一度だけ整え、傷だらけの両手を胸の上に重ねてやった。


「……お前が作った道が」


シンが口を開いた。

低く冷たい声だが、宮殿の隅々にまで確実に届く王の声だった。


「世界を繋ぐ鎖となる」


シンの言葉が、静寂の空気に溶けていく。

数万の戦力を持つアラクネの王が、傷だらけで眠る一人の職人を、全軍の前で最大の功労者として称えたのだ。


その言葉の意味を誰よりも理解している三禍たちは、静かに目を伏せた。

あの虚無の底を、地獄の行軍を共に抜けてきた彼らだけが、シノが何をやり遂げたかを知っている。


シンは立ち上がり、玉座へと歩みを進めた。

一歩踏み出すたびに、宮殿の空気がシンという絶対的な存在の色に塗り替えられていく。


深く、静かに腰を下ろす。

背もたれに身を預け、全軍を見下ろした。

虚無の瞳が十王を、四天を、三禍を、宮殿の全てを捉える。


誰も声を発せなかった。

発する言葉が、どこにもなかった。

ただ魔導炉の咆哮だけが響く中、シンの瞳の奥には、大陸一つでは決して満たされることのない深淵のような飢えが宿っていた。



「ご報告申し上げます」


ルシリウスが前に出た。

燕尾服の乱れを完全に正し、口元の血筋を拭い去った完璧な執事が、温度のない声で事実だけを述べる。


「大陸全土の主要拠点、完全制圧完了。抵抗勢力は完全に沈黙し、残存戦力は皆無。ルミナリスの残党も、全員処理済みです」


処理、という言葉を淡々と使った。

洗脳された者、恐怖で折れた者、そして抗って消えた者。

どのような手段が取られたかを、ここで語る必要はなかった。


「現在、大陸に於いてアラクネに抗う意志を持つ組織は存在しません。我々の、完全勝利です」


完全勝利。

その言葉の重さが、十王の吐息に、四天の震える膝に染み込んでいく。

しかしシンは頷きも称賛もしなかった。当然のことが当然の結果になったと、確認しているだけの冷たい目だった。



「続いて」


鉄を引き摺るような、野太い声が響いた。

技術顧問のヴォルカンが前に出る。

巨大な体躯と傷だらけの腕を持つ彼は、職人の誇りを宿した目をシンへ向けた。


「完成した。『次元侵攻要塞ディメンション・フォートレス』——完成した」


玉座の間の空気が揺れた。

驚愕でも歓喜でもない、もっと根源的な衝撃が幹部たちの間に走る。


「第200階層のコアから引き出した膨大なエネルギーを、全てこの宮殿の心臓に注ぎ込んだ。この地下宮殿(アンダー・ネスト)は今この瞬間から——」


ヴォルカンの目が細くなる。やり遂げた職人の目だった。


「次元の海を越える力を持った」


完全な静寂が落ちた。

その言葉の意味を理解できた者は息を呑み、理解できない者でさえ、取り返しのつかない決定的な変化を肌で感じ取っていた。


ヴォルカンは、長椅子で眠るシノに視線を向けた。


「シノのやつが閃いた。杭の発想がなければ、エネルギーの制御系は組めなかった」


飾らない言葉で、職人が職人を称える。


「あいつの仕事が、この宮殿の心臓になってる」


シンは一瞬だけシノを見て、すぐに目を玉座の前に戻した。

何も言わない。それだけが、この男の最大の称賛だった。


報告が終わり、玉座の間に再び静寂が満ちた。



シンは深く腰掛けたまま、全軍を見渡した。


「セリス」


名を呼ばれ、十王第十席のセリスが前に出た。

表の顔ではアラクネ共和国の王女だが、ここでは細蟹(クモ)の一員として静かに跪く。


「国民は、どうだ」

「……順調です。国民は皆、アラクネ共和国に満足しております。不満の声はありません」

「そうか」


シンは短く返し、次の名を呼んだ。


「アレス」


四天のリーダーが前に出る。

表の顔であるレギオン蜘蛛(アラクネ)の代表としてではなく、忠実な下僕として頭を垂れた。


「レギオンは、どうだ」

「順調です。正義の組織として大陸に完全に浸透し、民からの信頼も盤石です」

「そうか」


シンは再び短く答えた。


表では理想郷が広がり、国民は幸せな生活を送っている。

しかしその裏では、細蟹(クモ)が全てを掌握している。誰も気づかず、誰も知らない。

それで十分だった。


シンの虚無の瞳が、ゆっくりと全員を見渡す。

三禍、四天、十王、そして副官たち。

全員が頭を垂れたまま、次なる言葉を待っている。この静寂の先に何が来るかを理解しながら。


長い沈黙の後、シンが静かに口を開いた。


「では——次の段階に進むか」


その言葉が空気に溶け、宮殿の隅々にまで染み渡っていく。

大陸は落ちた。

箱庭の支配は終わり、真なる世界への侵攻が今、始まろうとしていた。

本日も読んでいただき、ありがとうございます!

これにて第5章完結となります。ここまで物語に伴走してくださった皆様、本当にありがとうございました。


ここで皆様に重要なお知らせがございます。

この話をもって、本作の連載を一度完結とさせていただきます。


執筆を進める中で、私の中でこの物語の世界観が当初の想像を遥かに超えて重厚に広がっていきました。

今後の展開や追加したいエピソードを今の枠組みに収めるのではなく、設定を根本から再構築し、より完成度の高い物語として皆様にお届けしたいと考え、今回の決断に至りました。


本作は今後、タイトルを**「【プロト版】」**から始まるものへと変更し、充電期間(休載・設定再構築)に入らせていただきます。

そして準備が整い次第、現在のタイトルにて全く新しい「決定版」の新連載をスタートさせる予定です。


設定も見直し、さらに深化した新たな「黒-蜘蛛-毒」の世界を作成して必ず戻ってまいります。

新連載の開始時に通知が届くよう、ぜひ**【作者フォロー】**をしてお待ちいただければ幸いです。


もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけたら、

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どうかよろしくお願いいたします!

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ちょっと読みにくいから普通の文章に戻してほしいです…
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