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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第3章 一輪の赤いアネモネ
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case14 後悔



(やっぱ、あん時……キスしときゃよかったか)



 豪雨の中開かれた葬式には、職場の同僚や、空の高校時代の教師、同級生なども参列していた。

 そいつらは俺を見るなり、可哀相な目を向け「大丈夫だからな」、「彼奴はいい奴だったよ」何て励まそうと必死になっていた。その姿が滑稽で、そう思われ心配している俺はさらに滑稽だった。



 旅客機の墜落事故。


 数日前に仕事の兼ね合いで飛行機に乗ることになった空は、数日後には戻ってくると笑顔で出て行き還らぬ人となった。死者は国内だけの移動ということもあってそこまでいなかったが、大きな事件となり、原因は何だったのか、事故が起らないように事前に防げなかったのかと今現在メディアは旅客機の墜落事故の話でてんやわんやしている。見るのも辛くて、俺は新聞もテレビもつけずにいた。それよりも、空の母親から呼び出されたり、家に戻ったりと忙しく、しっかりと事件のことを終えていなかった。頭がついていかなかったと言っても過言ではないだろう。


 誰よりも空を愛し、冗談だったんだろうが「死ぬなら空の上で死にたい」と言っていた男が、翼を折られ墜落死するなんて本当に笑えない冗談だと思った。


 空が乗っていたとして、墜落を防げなかったのか……という話になってくると別である。何でも、最近過激派宗教団体が動いているという噂も耳にするし、マフィアのこともまだ絶えない。まあ、結局何がどうだったのかは、闇の中である。

 分かったところで何か出来ることがあるのかと聞かれれば何もないだろう。

 もし、犯人がいたとしたらそいつを捕まえてぶん殴るだけ。



 カサカサと荒れた唇を弄りながら、俺は飾られた遺影を見る。バカみたいに笑っている空は、その長方形の四角におさめられるには早い気がした。あまりにも若すぎるし、似合っていない。

 止まない雨が、アスファルトを叩く音が、耳から離れなかった。喧嘩したあの日も、こんな風に雨が降っていたなあとぼんやりと考えていた。


 突然の死。

 帰ってくると思っていたのに、帰ってこなかった親友。



「ハッ、マジで『親友』のままでよかったな」



 乾いた笑いとともに、本当によかったと何処か安心している自分がいる。

 あの時流れで「恋人」になっていたとしたら、どうなっていたか。きっと取り返しのつかないことになっていた。残されたくない。明智のようになりたくないとも思っていた。


 だから、あれでよかったのだと「親友」でいることを選んだのは正解だと自分に言い聞かせた。その行為はただ愚かで、ただただ虚しいものだった。


 年中無休で喪服だった彼奴と同じ、真っ黒な服に身を包んで淡々と執り行われる葬式を、お経を聞いている間、俺は何度も空の名前を心の中で呼んでいた。

 そして、最後に棺桶に入った空を見たとき、俺は何を思ったんだろうか。辛いから、何も思わないようにしたんだろうか。空の親族の前では泣いてはいけないと思った。でも周りから見れば心もない奴だと思われたかも知れない。1番の親友だと周りに公言していたせいで、俺が泣かないことに不審がる人もいた。



「……」

「澪」



 名前を呼ばれ振返れば、そこには姉ちゃんがいて、喪服に身を包んだ姉は俺の腕を掴むと大丈夫かと、親しい人が化けて出たような顔で俺を見た。

 そんなに酷い顔をしているのだろうかと、鏡は無い為確認しようがないがそんなはずないと俺は姉ちゃんを見る。



「何んだよ?」

「……澪、アンタ」



 姉ちゃんはそこで言い淀む。


 きっと俺と同じで、俺の事を考えて何て言葉をかけるべきか悩んでいるんだろう。俺の家系は頭よりもまず身体が動く奴が多い。だから、直感的に、心にしたがって動き、でも何て声をかけるべきか分からなくなることが多い。姉ちゃんも例外ではない。

 周りの悲壮感に居場所などないと隔絶された俺は、姉ちゃんの言葉を待った。



「無理、してるんじゃないか?」

「してねぇし……何か、もう慣れちまったというか」

「澪!」



 慣れたなんて口では言うけど本心ではない。

 ガッと姉ちゃんに肩を掴まれ、ミシりと骨が軋む音がした。相変わらずの馬鹿力だと思いながら苦痛に顔を歪めて、姉ちゃんを見れば申し訳なさそうなかおをしていた。だが、その手を離す気はないようだった。



「離してくれよ。今は、1人でいたい。『親友』をちゃんと見送ってやりてぇんだ」

「……アンタ達はそうあることを選んだんだ」

「そうあるって、何だよ」



 姉ちゃんの言葉に引っかかりを覚え、突っかかれば、姉ちゃんは眉間にシワを寄せた。

 それから、姉ちゃんは呆れたとでも言うようにため息をついた。

 行動がいちいち理解できずに、俺は頭痛を覚えた。今は、空の事を考え、空の事を考えないようにしたいのに。矛盾を抱えながら、どうにか意識の外に恋心を追いやろうとしている。彼奴との思い出だけを抱えて、現実を受け止めようと。いいや、まだ受け止めきれていないからこそゆっくりと現実を租借しているのだ。


 しかし、姉ちゃんはそのまま続けた。



「アタシ、知ってんだよ」

「だから、何を」

「アンタの友達が空君の前に、2人死んでること。そこで、アンタ泣かなかったこと、アタシ知ってるんだから」




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