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アネモネの約束  作者: 兎束作哉
第3章 一輪の赤いアネモネ
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case09 ウジウジ虫



「はぁ?誰だよ、チクったやつ」

「誰でもいいでしょうが、で?アンタ、ミスばっかりって聞いたけど?」

「……」



 何で隣町にいるはずの姉ちゃんがここにいるのか理解できなかった。そもそも係も違うし、いったい誰が呼んだのか突き止めて殴ってやりたい気持ちでいっぱいになっていた。だがそんなことを考えられないぐらい恐ろしい目で俺は睨まれる。その瞬間すっと背筋が伸びて、正座をしなくてはという気持ちになるのは、昔からの癖だ。

 取り敢えず背筋を伸ばし、開いていた股を閉じる。



「……姉ちゃんが、何で」

「だから、呼ばれたって言ってるでしょ?アンタが仕事でミスばかりするから、カツを入れに来てくれって。アンタ何したの?」



 呆れたように言う姉ちゃん。


 姉ちゃんは明智の葬式には参列していない。そもそも面識もなかっただろうし、あったとしても弟のダチというそれだけの関係だ。俺と空はもちろん参列し、火葬まで見た。墓は、捌剣市にある墓地に。葬式では初めて明智の母親に会った。そうして、神津に似た女性もおり、きっとその女性が神津の母親何だろうなと思った。聞き耳を立てたところ、明智の母親と神津の母親は幼馴染らしい。そういう縁もあって、明智と神津も幼馴染になり、そして……

 前に1度、捌剣市出身の親を持つのは誰かという話になった時、俺だけが両親先祖ともども双馬市出身だという話になった。後の明智と、神津と、空はみんな両親は捌剣市出身らしい。まあそういう話もあって、呪われてるなあ……というつまらない感想でしめただけだが、今思えば運命なのかもしれないと思った。


 葬式中、明智の母親に俺と空は話しかけられた。何でも、学生時代から明智は友人がいなかったらしく、そういう話もせず、警察になってからも誰かとの遊びに行く、飲みに行くということがなかったらしく、同年代ぐらいの俺達がいたことが驚いて話しかけてきたそうだ。そうして、俺達が自己紹介をすれば、時々話していた警察学校時代の同期とはあなたたちのことだったのね。と少しうれしいように声を弾ませていた。

 何て反応すればいいか困った、そうなんです。とはいったが、明智がどういう理由で死んだかを知ったらと思うと何とも声が出なかった。言葉を探そうにも見つからず、ただ一方的に話を聞いているだけだった。それでも、終始明智の母親は笑顔だった。何度も俺達にありがとう、と伝えてくれて。何だか申し訳ない気持ちになった。



 そんなことを思い出しながら、理由はそれだけに留まらず、最も1番の原因は空と喧嘩したことにある。

 俺が仕事でミスをしたのも、喧嘩したからであって、度重なる事件が起きたからだ。



「……色々ミスしたんだよ」

「警察のミスは団体行動を乱す原因になる。アンタ、警察学校で何を学んだの?」



 ごもっともなことを言われて、返す言葉もなかった。

 本当に何故姉ちゃんがここにいるのかも、誰がチクったのかも分からない状況で、姉ちゃん言葉は正論だが右から左に流れていった。



「大方予想はついているけど、それで?結局何が原因なの」

「ダチが死んだ」

「それから?」

「……空と喧嘩した」



 そう口にすれば、周りにも聞えるような大きな溜息を姉ちゃんはつく。額に手を当てて、頭が痛いとでも言うように首を振っていた。


 だが、俺だって言いたいことはある。

 こんな時にまで職場に来るなんて非常識にもほどがあるし、放っておいて欲しかった。何故こんな年にもなって姉にとやかく説教されないといけないのかと。それに、こんなことで職場に来たって意味がない。今の俺には何も響かない。

 そんな風に俯いていれば、ガッと頭を掴まれそのまま拳で両側から挟み込まれる。



「いってぇ!いてええ、いてえええって!」

「アンタね、いつまでもウジウジしてんじゃないわよ!いい加減にしなさい!」

「いや、でも!」

「でもじゃない!」



 姉ちゃんの怒鳴り声にビクリと肩が跳ねた。



「アンタが空君と喧嘩するのは珍しいって思ったよ。でも、アンタが悪いんじゃないの?へったクソな言葉ばっかりつかって、アンタは余計なことを言う」

「それは、分かってんだよ」



 言われなくても分かっている。だから面と向かって言わないで欲しい。

 俺は、せめてもの抵抗で姉ちゃんを見た。姉ちゃんは半分呆れたようにフンッと鼻を鳴らす。空との喧嘩を収束する前に、ここで姉弟喧嘩を始める方が早いんじゃないかとも思った。だが、そんな時間を無駄にするようなことはしたくない。ただでさえ、ミスをしてしまっているのだからその分を取り返さないといけない。



「まあ、100%澪が悪いって訳じゃないだろうけど、お互い色々あるだろうし。でも、よかったんじゃないか?」

「よかったって、何が」

「1回ぐらい大きな喧嘩しいといた方が、相手のこともっとよく知れると思うよ。私は」



と、打って変わって優しい声色で俺の頭を撫でる姉ちゃん。


 お節介で世話焼きなところは何も変わっていない。それが昔から嫌いだった。何かあればすぐに口出ししてくる。だけど、その行動の裏には優しさがあって、それを無下にすることもできず、いつも流されていた。

 俺はされるがまま撫でられ、少しだけ気持ちが落ち着いたような気がした。向き合わないといけないと、空の行動を把握するだけではなく、こちらから話しかけに行かなければならないと思った。



「これで、私の出番は終わりかな。お節介だって思ってるけど、アンタら2人が喧嘩しているのを見てるのは辛いよ。後ね、澪、たまには家に帰ってくるんだよ」



 そう言って姉ちゃんは踵を返し俺にひらひらと手を振った。


 本当にこれだけのために車を走らせてきたのかと思うと、申し訳なさが募っていく。まあ謝りも何もしないが、それでも嬉しく思ってしまったのは事実だった。

 俺は、上に腕を伸し曲がってしまっていた腰を伸して、パシンと両頬を叩く。気持ちを切り替えて、取り敢えずは、ミスを挽回しなければならない。



「さぁて、やるか」



 俺はきっと下を向いているのは似合わない。いつだって、高いハードルを壁を跳び越える、それが高嶺澪だ。 

 そう自分に言い聞かせ俺はスッと前を向いた。



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